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インタビュー・コラム

大規模細胞培養による細胞農業を創る インテグリカルチャー株式会社

植物由来の代替肉をはじめとする、タンパク質の新たな供給源や新たな食品の研究開発が進んでいます。今回は、細胞培養肉を生産するための培養技術の研究開発や、新しい食文化へのライフスタイルを啓蒙されているインテグリカルチャーの羽生氏にお話をお伺いしました。

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羽生 雄毅 氏(インテグリカルチャー株式会社 代表取締役 CEO)『Beyond BioLAB TOKYO』にて撮影

カンパニーではなくカルチャーを目指して

――なぜ培養細胞肉をつくろうとお考えになったのでしょうか。

羽生 SF(サイエンスフィクション)の定番だからです。社会的な理由を求められることが多いですが、環境やSDGs(持続可能な開発目標)などは年単位で変わる話です。私は幼いころからSFの世界観について興味関心が高く、頭の中には宇宙船が飛んでいたりしました。大人になって、いざ何をやるかといった時に、自分のバックグラウンドが化学で有機化学や生物寄りだったこともあり、今やるなら培養肉がいいのではと思いました。

東芝にいたときには、大型蓄電池システムの研究開発を担当していました。東芝で働いていた理由についても、SFが根底にありました。緑の芝生の丘の上にたくさん太陽光パネルや風車が並んでいるような景色などは、近未来SFの定番ですよね。そういうのに憧れていて、博士課程が終わって就職する際に、恩師の先生が電池材料の研究をしていたことや、東芝で蓄電池の研究開発をしていたことがきっかけで入社しました。その後、いよいよ自分で何かSFをやりたいと思っていたところで培養肉に行き当たりました。

――創業へのきっかけについてお聞かせください。

羽生 そもそも「会社」をつくろうとしたわけではなく、「社会」をつくろうと考えていました。まずはやれるところからということで、自宅で肉を培養することを目的とした「Shojinmeat Project」という同人サークルを作りました。とにかく仲間を集めて拡大していくうちに、起業は不可避か考え始めていたところ、ビジネスプランコンテスト「第2回アグリサイエンスグランプリ」(2015年10月)で最優秀賞をいただきました。ちょうどここ(日本橋ライフサイエンスビルディング)の2階で開催されたイベントでした。

これをきっかけに起業に至ったのですが、最初の2年間はインテグリカルチャー株式会社という法人格はあるものの、事実上Shojinmeat Projectの同人活動が主体となっていました。2017年ごろから、特に2018年5月に資金調達したことを受け、正式にスタートアップ企業として本格的にスピンオフしました。

その時に考えていたのが、細胞培養肉のようなものが世の中に出ていくときに、何が必要か?ということでした。まずはアーティストのような方向性を示す人が必要だと考えました。また、政策の在り方や倫理などを話すNPOのようなもの、それから実際に商売をする会社も必要だろうと。会社をやりながら、アーティスト的なものやShojinmeat Projectによるサークル活動は同時並行しながらできると考え、インテグリカルチャーをスピンオフさせたわけです。

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食肉市場は世界で200兆円

――Shojinmeat Projectの活動について教えてください。

羽生 Shojinmeat Projectは、メンバーシップのような定義があるわけではないのですが、アクティブなメンバーは20~30人くらいおり、海外も含めるとSlack(チームコミュニケーションツール)に参加している人は400~500名ぐらいいるかもしれません。自宅で培養肉をつくるマニュアルを作成したり、細胞培養肉や細胞農業に関する様々な評論や業界のうわさ話なんかを書いたりした、新刊をコミックマーケットで出したりしています。

実験に取り組んでいる高校生組もいます。高校生たちが会場で細胞を頒布して、「コミケ(コミックマーケット)から帰ったらすぐに自宅で培養肉が作れます」という活動をしたりしています。作りたい社会に向けた同人活動の中から必要なコンポーネントとして、まずインテグリカルチャーという会社がスピンオフしたのです。

昨年(2019年)には、Shojinmeat ProjectからNPO法人日本細胞農業協会がスピンオフしました。この組織は細胞農業の社会への啓蒙、普及活動などを行っていく予定です。

――培養肉にあまり馴染みのない一般の人の声というのはどう捉えられていますか。

羽生 いわゆる拒否反応的なものは年配の方が多く、若い人は知的好奇心を持ってくれる人が多いですね。最終的には「味」と「価格」ではないかと思っています。世の中の1%でも受け入れる人があれば、食肉市場は世界で200兆円といわれているため、1%でも十分というところはあります。世界中でいろいろな調査がされていますが、2~3割ぐらいの人は培養肉を試してみてもいいというデータが出ています。

肉の味を左右するのはスジとサシなのですが、それは植物肉の弱いところでもあります。サシの方に関しては脂や脂肪細胞の培養の仕方などで制御できるため、様々な味を作れるだろうと考えています。フォアグラにしても肝臓細胞の中で脂肪蓄積が起こりますが、それがどんな条件で培養すれば脂肪が多めになるかとか、これからいろいろな開発余地があると思っています。

健康効果を持たせることもできますね。この辺りはコスメ、サプリなどとの境界領域ですが、コスメ、サプリ用に開発した機能性成分は将来的にもそのまま食品に流用することも考えています。

スジの方は物理的形状ですね。高級肉で霜降り肉というのがありますが、あの形で霜が入っていなければいけない理由は特にないので、霜でお絵描きしちゃうなんてこともできると思います。金太郎飴型とか、ウシよりも大きなステーキとか、ウシ・ブタ細胞レベル合い挽き肉とか、そういうものもできるようになります。

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大規模細胞培養による食品・コスメの製品化を目指す

――事業をいよいよ本格化する段階になり、新たな目標や力を入れられている部分についてお聞かせください。

羽生 食品やコスメなどの製品をリリースすることです。まずは細胞培養技術で作る機能性物質を利用したコスメティックを今年中に出すことを考えています。培養した細胞から出てくるさまざまな成分を使います。次に、培養フォアグラを来年あたりに販売することを検討しています。一部レストランでの提供からスタートになると思います。

課題は細胞培養をいかに大規模化していくか。これまで細胞培養というと、ラボの中で行うものでしたが、究極的にはビール工場のような20万リットルタンクの規模で行う必要が出てきます。世界最大規模の細胞培養は、今のところ約8,000リットルタンクといった状況です。細胞培養のプロセス自体も医療が前提になっているので、医療用ではない細胞培養を開発する必要があります。

コストを下げるといった部分については、成長因子やウシ胎児血清のようなものは使わずに行うところまで実現しています。人件費や設備費などがポイントになってくるので、そこの値段を下げていくことには課題があります。

大規模培養によって、レバーが100グラムあたり何十円で作れるようになると、ヒトの細胞でも同じように移植用の臓器を作ることが可能です。ただ、医療の規格には準じてないため、臨床では使えないという状況が発生することが考えられます。
再生医療などの医療への応用は今後の検討課題です。というのも弊社の培養システムであるCulNet Systemから出てくる上清液というものが、医療にそのままでは向かないため、まずは食品用でと考えています。

――CulNet Systemについて詳しくお聞かせください。

羽生 CulNet Systemとは汎用大規模細胞培養システムのことで、細胞を大量に安く増やせる仕組みです。例えば、iPS細胞を大規模に培養し、従来の半額から3割安くなったというニュースが出ていたりしますが、その「安く」というのが、肉を作るとなると従来の10万分の1くらい安くないといけないわけです。医療の場合においてもまだ価格は高いと思いますが、食品用の場合は、医療目的と比べても1,000分の1、1万分の1の値段で考える必要があります。CulNet Systemは、それを実現するためのシステムです。

システムはハードウェアの部分とノウハウの部分があります。ハードウェアの仕組みは特許を出しています。その中でどのような細胞を運用するかというソフトウェア的なところが、共同研究開発の対象になります。大量でなくとも安く培養したいという需要は非常にたくさんあるので、そういうところには応えられるかなと考えています。

――今後の課題や検討されていることはありますか。

羽生 ビール酵母の残渣やビールを造るときの副産物からアミノ酸を取り出し、それをCulNet Systemで使って肉を培養するなどの検討もあったりします。ジェット燃料を作った後に大量のユーグレナの粕が出るのですが、それを細胞の餌にするといったことも考えられますね。フィンランドに今、太陽光と空気から水素を作り、細胞を培養するという空気からタンパク質を生産している「Solar Foods」という会社があるのですが、そこの原料を使ってもいいですね。

あとは、肉の作り方に関する国際標準化や、どこがスタンダードを取るかなんていう話も出てくるのではと考えています。その中でインテグリカルチャーがスタンダードを取れるかというのは今後の課題です。国際標準化競争とかで負けるといくら技術がよくても販売できないことになってしまうので、日本としてスタンダードを取ることが必要だと思っています。

――Beyond Next Ventures (株)が運営するシェア型ウェットラボ『Beyond BioLAB TOKYO』のシェアラボに入居されているとお聞きしています。シェアラボはどのように活用されていましたか。またLINK-Jの活動に対して今後の期待があればご意見お願いします。

羽生 Beyond BioLAB TOKYOのシェアラボは、培養フォアグラの作製のためにインテグリカルチャーのプロジェクトメンバーが利用させていただきました。弊社の拠点はTWIns(東京女子医科大学・早稲田大学 連携先端生命医科学研究教育施設)にあるのですが、医療施設のため、食用の製品をつくることができなかったので、一時的に入居させていただき、シェアラボを活用させて頂きました。Shojinmeat Projectも入居させていただき、細胞抽出やストックなど細胞培養のためのインフラ作りに使用しています。

LINK-Jについては、ニーズとオファーのマッチングがあるといいですね。例えば、CulNet Systemを使って頂けそうなパートナーや共同研究の相手を探したいです。ライフサイエンス領域に特化したマッチングを期待しています。

――貴重なご意見ありがとうございます。今後もベンチャー企業と大企業、若手研究者などとのマッチングイベントを検討していきたいと思います。今後のご活躍を期待しております。

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hanyu.png羽生 雄毅 氏(インテグリカルチャー株式会社 代表取締役 CEO)

2010年、University of Oxford Ph.D (化学)取得。東北大学 PD研究員、東芝研究開発センター システム技術ラボラトリーを経て、2015年10月にインテグリカルチャーを共同創業。

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