Menu

インタビュー・コラム

ラボビジネスを開始し、ニッチな検査項目を「育てる」 EUROIMMUN Japan株式会社

EUROIMMUN Japan株式会社は、ドイツに本社を置くEUROIMMUN Medizinische Labordiagnostika AG の子会社で、主に検査試薬と分析機器を販売しています。2019年の設立以来、自己免疫疾患などの診断に貢献しています。2024年には新たに研究用受託検査サービスを始めました。今回はカントリーディレクターのソン・ジフン氏とラボビジネス部シニアマネージャーの今福朝美氏に、事業の概況や独自の検査ビジネスの方向性を伺いました。

左:ソン・ジフン氏、右:今福朝美氏

抗核抗体検査ではシェア60%以上

――まずは自己紹介からお願いします

ソン・ジフン わたしは韓国・ソウルの出身で、2009年に日本に来て、ビジネススクールで日本のビジネスを勉強しました。日本語と日本のビジネス、そして文化を勉強して、韓国と日本のヘルスケア企業がコラボレーションするときに架け橋になりたいと思ったのです。

その前のアカデミックな経歴としては、アルツハイマー病の研究に従事していました。血液バイオマーカーの探索がテーマでしたが、新しいバイオマーカーを開発して特許を取得し、企業にライセンスアウトしました。その経験から、研究で貢献するだけでなく、成果を患者さんに届けるところまで関わりたいと思ったのが、ビジネスの世界に入ったきっかけです。
 

今福 わたしは臨床検査技師の免許を取得後、製品の品質をチェックする業務に携わりました。その後、営業部でマーケティングなどに十数年従事し、品質管理と営業の両方の経験を活かせるということで3年前にこちらに入社しました。入社後は千葉県柏市での衛生検査所の開設など、ラボ業務をリードしています。

――事業について教えてください

ソン・ジフン ドイツに本社を置くEuroimmunは、1987年にウィンフリッド・シュトッカー博士によってリューベック大学(ドイツ)で開発されたバイオチップ技術をもとに設立された医療検査診断機器と検査試薬のメーカーです。現在では欧米を中心に17カ国で事業展開する大手医療検査診断メーカーで、ドイツでは約3,000品目の検査試薬を製造・販売しています。2017年にアメリカのRevvityグループの傘下となりました。Euroimmunの子会社であるEUROIMMUN Japan株式会社は2019年12月に設立されました。
 

日本では、検査試薬と医療機器の販売がメインビジネスで、検査試薬は希少疾患の診断に関するものが多く、需要が小さいとはいえ、一部の医師と患者さんには必須なものです。

――どのような疾患の検査を対象にされているのでしょうか

ソン・ジフン 当社の製品で世界的に汎用されているのは抗核抗体の検査キットです。自己免疫疾患の診断に使われますが、日本でも年間100万テスト規模で実施されており、当社のマーケットシェアは60%以上と、ビジネスの土台となっています。これ以外にも神経疾患、肝疾患、消化器疾患、腎疾患と数多くの疾患の検査試薬があります。検査試薬はドイツで製造し、少量であっても、すべての需要に応えられるようにしています。


小さな領域を自社で手掛けて需要を喚起

――ラボを新たに開設され研究用受託検査サービスを2024年にスタートされたとお聞きしました

ソン・ジフン 日本の検査市場は、臨床検査会社が主体です。当社が取り扱っている検査の数は少ないため、臨床検査会社は導入をためらうと思います。つまり、少ないながら需要はあるにもかかわらず、サプライヤーがいない。需要と供給のギャップが生じています。そこで、当社が研究用受託検査サービスを行うことで、患者さんに貢献できると考えました。

2023年より準備を開始し、2024年6月に衛生検査所として登録が完了。同年より、研究用受託検査サービスを開始しました。

――既存の臨床検査会社と競合しないのですか

今福 そこは競合しないようにしています。なぜなら、臨床検査会社は、多くの医療機関から受託した検査項目を大量に処理しています。当社は先ほどの話のようにニッチな検査項目を扱い、それを多くの医師に行っていただけるように活動しています。ニッチであっても複数の検査項目に対して国内の医療現場で利用される頻度が増えれば、臨床検査会社側も「これほどマーケットがあるなら、自社でも取り扱おう」と導入しやすくなると考えています。

そのような検査項目を選んで育てて、また新しいものを始めて育てる――。それを繰り返して市場を構築していくのが、このラボビジネスの目的です。すでに定期的に依頼してくださっている顧客の方も増えてきており、当社のサービスに満足していただいていると思っています。

――具体的にはどんな検査になりますか?

今福 EUROLINE(ユーロライン)アッセイから開始しました。これは、1回の検査で複数の自己抗体を包括的に測定するマルチパラメーターラインブロットです。多くの検査は1つの検体に対して1つの項目を調べますが、今回当社で取り扱っている項目では、最大23種類の抗体の有無が分かります。自己免疫疾患の患者さんは1種類だけでなく様々な自己抗体が陽性になります。疾患関連のバイオマーカーが一度に測定できるので、患者さんにも医師にもメリットがあると考えています。
 
 


――サービスにおける強みを教えてください

今福 ラボビジネスに関しては、検査の品質になります。単に測定するだけでなく、その項目を育てて医療従事者の認知度を高め、1人でも多くの患者さんのQOLを向上することに取り組んでいることが強みです。それは、多くの製品があるからこそできることでもあります。

ソン・ジフン 他にも当社の強みの例として、AI(人工知能)を活用した自動化機器があります。顕微鏡下で行う蛍光抗体法においてマススクリーニングが可能な自動化機器を作り、付加価値を高めました。人の主観的な判断をAIがサポートし、80%の確率で疾患を判別できます。最終的には医師の判断ですが、AIはその確度を上げることができます。

ライフサイエンスビルディングで自然にネットワーク

――オフィスは日本橋ライフサイエンスビルディング7に入居されています

ソン・ジフン まず、ロケーションが良いですよね。人形町駅近辺の日本橋堀留町は東京の中心部かつ製薬の街で、いろいろなバイオテック企業ともつながりができます。地下鉄で2駅の秋葉原にRevvityの東京支社があることが理由で入居しました。

ビルの8階にはカフェテリアがあり、フリードリンクでとてもリラックスできる空間です。みんなで一緒に行き、気軽な雰囲気で話ができますし、疲れた時のリフレッシュや軽食を食べる時にも利用しています。

――他の入居者とお話しする機会やLINK-Jのサービスを活用されていますか?

ソン・ジフン はい。ビルにはいろいろなスタートアップが入っています。中にはわたしと同じような外国人もいて、カフェでコーヒーをいれる時に会うと、 “Where did you come from?”と自然に話が始まります。

今福 会議室が予約で埋まっていても、近くのライフサイエンスビルの会議室に空きがあれば、気分を変えるためにあえて違うビルで打ち合わせをする。など、さまざまなシチュエーションで使用できるので大変ありがたいです。他のビルの会議室も使えるのは魅力です。 また、会員間の交流イベント「LINK-J Member's Meetup」に今度、登壇しますので、そこでも色々な会員の方とネットワークを広げたいと考えています。

ソン・ジフン 当社は今後も新しい製品を上市する予定ですが、まだ、少人数のため、医学とビジネスのあらゆる分野のエキスパートがそろっているわけではありません。その点、入居者向けのサイエンスコンシェルジュサービスは、専門家にアドバイスを頂けるので大変ありがたいです。


医療のトレンドは「個別化」と「予防」 高まる検査の重要性

――今後の展望と読者へのメッセージをお願いします

ソン・ジフン Revvityの一員として各国のグループ企業とシナジーを創出し、日本の患者さんと医師に価値を提供することが目標です。医師が実施したい検査を臨床検査会社が受託していない場合、当社ならできる、ということを示していきたいです。

今福 診断の部分だけでなく、製薬企業などとコラボレーションをして診断から治療までカバーできるようにしていきたいと思います。検査結果をもとに薬剤の効果や副作用のリスクを予測できれば、患者さんごとに適切な治療につながります。

ソン・ジフン 治療の個別化とともに、病気になる前に予防することも医療のトレンドと言えます。その一環で遺伝子を調べる場合もあり、検査の重要性は今後も高まるでしょう。

ソン・ジフン氏 EUROIMMUN Japan株式会社 カントリーディレクター
韓国・ソウル生まれ。2009年に来日。製薬・診断業界において20年以上の国際経験を持ち、現在はEUROIMMUN Japan株式会社(Revvityグループ)のカントリーディレクターとして、日本法人の経営を統括。

 

今福 朝美氏 EUROIMMUN Japan株式会社 シニアマネージャー
臨床検査技師。診断薬企業を経て2022年に入社。現在はラボビジネス部に所属し、研究用受託検査サービスを管理。


 
pagetop