LINK-Jアカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム2025
Premium Networking Day参加チームに聞く⑦
メドテック(医療機器、デジタルヘルス、ヘルスケアサービス等)領域での事業化を検討中もしくは事業化直後の研究者を支援する「アカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム」。2025年12月13日のPremium Networking Dayでは、全15チームがピッチと質疑応答に臨み、6チームに優秀賞、1チームにオーディエンス賞が贈られました。受賞したチームの代表者に、取り組みの内容や今後の展望などをお聞きします。最終回は、チーム「材木商店」の材木義隆氏(金沢大学附属病院先端医療開発センター特任助教)です。

材木義隆氏(金沢大学附属病院先端医療開発センター特任助教)
「免疫逃避」のHLA欠失血球を検出
――まずは自己紹介をお願いします。
材木 研修医として血液内科を回ったとき、免疫の仕組みを利用して病気を治療することに興味を持ち、血液内科医になりました。その後、診療経験を重ねる中で、多くの血液疾患で標準治療が確立されている一方、治療成績にはなお限界があることを実感し、研究に取り組みたいと考えるようになりました。
そこで大学院に進み、研究対象として取り組んだのが再生不良性貧血です。この疾患は、金沢大学血液内科の教授を務められた中尾眞二先生(現・名誉教授)が長年研究されてきた領域で、現在も当院が研究の中心的な役割を担っています。
――再生不良性貧血とはどのような病気ですか。
材木 造血幹細胞が減少し、血液細胞を十分につくれなくなる病気です。その多くは、自分自身のTリンパ球が造血幹細胞を攻撃してしまう、自己免疫性の病態によるものです。年間の発症数は人口100万人あたり約8人とされ、比較的まれな病気です。
――なぜ、造血幹細胞がTリンパ球に攻撃されるのでしょうか。
材木 その鍵を握るのが、ヒト白血球抗原(HLA)という分子です。HLAには、細胞内の蛋白の一部を「抗原」としてTリンパ球に提示する役割があります。例えば、ウイルスやがんに由来する異常な抗原が提示されると、それがTリンパ球の目印となり、その細胞は攻撃・排除されます。通常は外敵や異常な細胞を排除するための仕組みですが、再生不良性貧血ではTリンパ球が「正常な自己」に反応し、造血幹細胞を攻撃してしまいます。
このような免疫の攻撃を受ける中で、再生不良性貧血の患者さんでは、後天的な遺伝子異常によってHLAを失った血球がみられることがあります。HLAを失った造血幹細胞はTリンパ球の攻撃を逃れて生き残り、増えていくためと考えられています。
一方、白血病などの悪性腫瘍では、HLAを失った腫瘍細胞が、がん免疫を担うTリンパ球の攻撃から逃れることで、治療抵抗性につながることもあります。つまり、同じHLA欠失という現象でも、再生不良性貧血では造血を守る方向に働く一方、悪性腫瘍では腫瘍細胞を免疫から守ってしまうことがあります。
そのため、HLA欠失を検出することには重要な臨床的意義があります。しかし、その検出は容易ではなく、実臨床で広く利用できる検査サービスはまだありません。

独自抗体の作製でHLA欠失を検出・解析
――HLA欠失血球という同じ現象でも、結果は正反対なのですね。再生不良性貧血の一部ではどのような機序でHLAが欠失するのでしょうか。
材木 2011年、金沢大学の研究によって、HLA遺伝子が存在する6番染色体短腕のヘテロ接合体性の喪失(6pLOH)により、血球から特定のHLAクラスIアレルが失われることが明らかになりました。6pLOHでは、一方の染色体領域が失われ、もう一方の同じ領域がコピーされることで、染色体数を保ったまま特定のHLAアレルが欠失します。従来、この異常を調べるには高価な検査が必要でした。そこで、HLA欠失血球の臨床的意義を幅広く検討するためにも、より簡便に6pLOHを検出する方法が必要でした。私が大学院に入学したのがちょうどこの時期で、最初の研究テーマがHLA欠失の検出法の開発でした。
――どのような検査法を開発されたのか教えてください。
材木 二つの検査法を開発しました。一つはデジタルPCR法、もう一つがHLAフローサイトメトリー法です。
デジタルPCRでは、両親から遺伝した2種類のHLA型に対応する遺伝子数を測定して比較します。通常は1:1ですが、6pLOHが起きるとこのバランスが崩れるため、そこから異常を検出します。
フローサイトメトリー法は、抗HLAモノクローナル抗体と独自の解析技術を組み合わせて、HLA欠失血球を検出する方法です。HLAにはさまざまな種類がありますが、再生不良性貧血で欠失しやすいHLA-B*40:02に対する抗体は市販されていませんでした。そこで、抗体作製から研究を始めました。通常、抗体はマウスなどの動物に免疫して作製しますが、この抗体は従来法では作製が難しいとされていました。そのため、新たなアプローチが必要だと考えました。共同研究者の高松博幸先生から、患者さんがしばしば保有しているHLA抗体を利用できるのではないかというアイデアをいただき、ヒトリンパ球を用いたHLAアレル特異的抗体の作製法を開発し、目的の抗体を得ることに成功しました。
その後、二つの方法で患者さんの血液を解析していく中で、フローサイトメトリー法ではHLA欠失を認める一方、デジタルPCR法では異常を検出しない患者さんが複数いることが分かりました。その原因を明らかにするため、次世代シーケンサーを用いて解析したところ、6pLOH以外にも、HLA遺伝子そのものの変異によってHLAが欠失することが明らかになりました。
この発見をきっかけに、留学先の米国NIHでは、次世代シーケンサーを用いたHLA遺伝子変異の検出法の開発にも取り組みました。HLA遺伝子は互いによく似た配列が多く、通常の解析法では変異の検出が難しいため、解析アルゴリズム自体を開発する必要がありました。
これらの方法の中で、フローサイトメトリー法は6pLOHとHLA遺伝子変異によるHLA欠失の両方を検出でき、迅速に結果を得られます。そのため、現在はフローサイトメトリー法を主要な解析法として使用しています。
自然寛解が期待できる患者を見極められるか
――再生不良性貧血で、HLA欠失血球にはどのような臨床的意義がありますか。
材木 HLA欠失血球は鑑別診断に有用です。再生不良性貧血を含む骨髄不全症はしばしば診断が難しく、再生不良性貧血の中にも、免疫病態が関与するものと、先天性の遺伝子異常など免疫以外の原因によるものがあります。この区別は治療方針に直結するため重要です。HLA欠失血球が検出されれば、免疫病態が関与する再生不良性貧血であることを支持する重要な所見になります(再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和7年度改訂版)。また、欠失するHLAの種類によって治療成績が異なることも分かってきました。
さらに最近、HLA欠失血球を持つ患者さんの中には、標準的な免疫抑制療法を行わなくても、免疫攻撃を逃れたHLA欠失血球が増えて造血が回復し、自然寛解に至る方がいることが明らかになりました。2024年の全国調査では、HLA欠失血球を持ち、かつ標準治療を受けなかった再生不良性貧血患者の73%が完全寛解に至っていました。これは「再生不良性貧血」という疾患概念を変え得る発見だと考えています。したがって、HLA欠失を検出する技術の大きな意義の一つは、自然寛解が期待できる患者さんを見極める手がかりになり得る点です。
――それによって、どのような治療方針が考えられますか。
材木 診断時にHLA欠失血球を検出することで、将来的には、自然寛解が期待できる患者さんを見極め、副作用の強い免疫抑制療法を急いで開始せず、支持療法で慎重に経過をみるといった治療方針を選べる可能性があります。
そのためには、「この患者さんは本当に免疫抑制療法を行わなくてもよいのか」というクリニカルクエスチョンに答える根拠が必要です。現在は、HLA欠失血球の比率を診断時から経時的に追う観察研究を行っています。治療方針には介入しないプロトコールですが、実際にはさまざまな理由で標準治療を受けない患者さんも一定数いるため、そのような方の経過を追っています。
――どのような体制で実施している研究となりますか。
材木 全国94施設にご参加いただき、初発・未治療の再生不良性貧血を対象に、HLA欠失血球およびGPIアンカー膜蛋白欠失(PNH型)血球を調べる前向き観察研究を2024年末に開始しました。私が研究代表者を務め、各施設から送られた末梢血を当院で解析し、結果を各施設にお返ししています。
――フローサイトメトリー法では、HLA欠失血球の割合も分かるのですか。
材木 そうです。それがフローサイトメトリー法の特徴です。遺伝子検査では血液全体に占めるHLA欠失血球の比率が分かりますが、フローサイトメトリー法では、寿命の長いリンパ球を除いた血球集団ごとにHLA欠失血球の割合を評価できます。そのため、現在の造血状態をより反映した評価ができる点が有用です。
――研究費については、どのような支援を受けているのか教えてください。
材木 検査法としての開発については、AMEDの橋渡し研究で支援を受けています。2025年にはTeSH(Tech Startup HOKURIKU)にも採択され、支援を受けました。それとは別に、HLA欠失血球の生物学的な意味を調べる研究については、科研費や複数の民間助成金をいただいています。

専門家以外にも伝わる説明を目指して
――イノベーター発掘プログラムに参加したきっかけを教えてください。
材木 事業化を学内で支援している大山真吾・特任准教授(金沢大学先端科学・社会共創推進機構〈FSSI〉)から提案をいただき、参加することになりました。
――学会発表のご経験は多いと思いますが、ビジネス寄りの発表会に参加されたことはありますか。
材木 TeSHでピッチコンテストの経験があり、今回が2回目です。
――「材木商店」は、どのようなメンバーで取り組んでいるのですか。
材木 金沢大学血液内科の中尾眞二名誉教授、高松博幸先生、FSSIの大山真吾先生、そして米国NIHのNeal S. Young先生らと一緒に取り組んでいます。金沢大学の学生・大学院生にも加わってもらっています。
――実際に参加してみていかがでしたか。
材木 もともと人前で話すのが得意ではないのですが、練習を重ね、とてもよい経験になりました。HLAは専門的で、血液内科医に説明する際にも工夫が必要なテーマです。研究成果を社会実装するには、専門家以外にも意義や価値を分かりやすく伝える必要があります。どう説明すれば伝わるのかを考える、よい機会になりました。
「医師だからこそ見える」アンメットニーズも
――事後のメンタリングではどのような話がありましたか。
材木 オンラインで3人の方からメンタリングを受けました。検査として一定の市場性があり、必要性も高いので、まずは着実に実績を積み上げることが重要だと助言いただきました。保険適用を目指す道と、病院・研究機関向けのリサーチユースオンリーとして提供する道について、需要が見込めるのであれば、まずリサーチユースオンリーから始めるのも一つの戦略ではないか、というご意見でした。
金沢大学がすでに検査会社へ技術移転したPNH型血球検査は、再生不良性貧血に対するリサーチユースオンリーの検査としても継続的に需要があります。私たちの方法には、再生不良性貧血の自然寛解の可能性を評価しうるという新たな価値があるため、新たな需要も見込めると考えています。
――今後、この技術でどのようなことを実現していきたいか教えてください。
材木 HLAフローサイトメトリーは、抗体だけでなく解析手順や判定にも専門的なノウハウが必要で、技術を既存企業へそのまま移転するのは容易ではありません。また、現在の抗体にも改良の余地があります。まずは検査パネルや解析法の改良を進めながら、企業への技術移転を模索していきたいと考えています。その一方で、必要な検査を継続的に提供する仕組みをつくるという観点から、起業も将来的な選択肢の一つとして検討しています。先ほどの観察研究の対象基準を満たさない患者さんなど、研究とは別に検査を希望するニーズも一定程度あると考えており、そうしたニーズに応えられる体制を整えたいと思っています。
また、HLA欠失は再生不良性貧血だけでなく、白血病などの造血器腫瘍でも治療方針を考える上で重要な情報になり得ます。こうした領域にも活用できるよう、検査パネルを改良しながら実績を積み重ねていきたいと考えています。
社会実装に向けては、資金や人材の確保に加え、持続可能な運営体制をどう構築するかが課題です。実臨床には、「保険適用ではないが実施したい検査」や「必要性はあるのに委託先がない検査」があります。リサーチユースオンリーも含め、医師だからこそ気づけるアンメットニーズを捉え、必要な検査を必要とする医療・研究現場に届けられる仕組みをつくることに意義があると考えています。

材木義隆(金沢大学附属病院 先端医療開発センター 特任助教)
2009年、金沢大学医学部卒業。2011年4月~2017年6月、金沢大学大学院(がん医科学・細胞移植学)。2017年10月~2020年3月、米国国立衛生研究所(NHLBI, NIH)客員研究員。帰国後、金沢大学附属病院血液内科、感染制御部を経て、2025年4月から現職。


