第1章:はじめに ― 患者リクルートメントの“壁”
治験の数は世界的に増加傾向にあり、2023年には前年比9.4%増となる9,959件の第I~III相試験が開始されました。新薬開発への意欲は高まり続けていますが、その一方で、患者リクルートメントの難易度は年々上昇しています。
実際、過去10年のデータでは、治験施設数が増加する一方で、患者登録数は減少傾向にあり、リクルート期間も長期化しています。さらに、約85%の治験が目標登録数に到達できず、第III相試験の約3分の1が登録失敗により中止されているという報告もあります¹。
この背景には、対象患者の希少化、治験プロトコルの複雑化、多様性確保の要請など、さまざまな要因が絡んでいます。特に、希少疾患や厳格なInclusion/Exclusion基準を持つ試験では、「そもそも該当する患者がいない」という状況も珍しくありません。
「患者が見つからない」――それは、もはや一部の治験だけの課題ではなく、業界全体が直面する共通の壁となっています。
第2章:なぜ、従来の方法では限界があるのか?
これまでの患者リクルートメントは、主に医療機関ネットワークや広告、紹介などに依存してきました。しかし、これらの手法にはいくつかの構造的な限界があります。
まず、医療機関ベースのアプローチでは、地理的・診療科的な偏りが避けられず、対象患者の網羅性に欠けます。広告や紹介に頼る方法も、スピードや精度に課題があり、特に希少疾患や複雑な条件を持つ試験では、十分な成果が得られないことが多いのが現実です。
さらに、近年では多様性確保の要請が高まり、従来の手法ではリーチできない社会的・文化的背景を持つ患者層へのアプローチが求められています。これにより、リクルート戦略はますます複雑化し、従来の延長線上では対応しきれない局面に突入しています。
このような状況下で、「見つける力」そのものを根本から見直す必要があるのです。
第3章:リアルワールドデータ(RWD)という新しい選択肢
従来のリクルート手法に限界がある中で、いま注目されているのがリアルワールドデータ(RWD)の活用です。RWDとは、日常診療や生活の中で得られる医療・健康関連データの総称であり、以下のような多様な情報源から構成されます:
- 電子カルテ(EHR/EMR)
- 保険請求データ(クレームデータ)
- ラボデータ(検査結果)
- ウェアラブルデバイスのデータ
- 患者レジストリ
- 社会的決定要因(SDOH)データ
- 他の治験から得られた公的・私的データ
これらのデータをAIや機械学習の技術で統合・解析することで、従来では見つけられなかった患者像が浮かび上がります。たとえば、特定のバイオマーカーを持つ希少疾患患者をピンポイントで特定したり、疾患の有病率を地域・年齢・性別などの属性別に可視化したりすることが可能です。
さらに、RWDは単なる「患者探索」にとどまりません。患者エンゲージメントやリテンション戦略の最適化にも活用でき、リアルタイムのエンゲージメント指標に基づいてアプローチを動的に調整することも可能です。
重要なのは、すべてのRWDが同じ価値を持つわけではないという点です。データの質・網羅性・更新頻度が成果に直結するため、信頼性の高いデータソースを組み合わせて活用することが鍵となります。
このように、RWDは「見つける力」を根本から変える、新しい選択肢として注目されています。
次の記事では、第二弾として「第4章:RWD活用で変わる、患者リクルートの現場」をご紹介。
RWDの活用がどのように現場で成果をあげているのか、事例をもとにご紹介します。
第4章:RWD活用で変わる、患者リクルートの現場
RWDの活用は、単なる理論ではなく、すでに現場で成果を上げている実践的な手法です。ここでは、実際の活用事例を通じて、RWDがどのように患者リクルートメントを変革しているのかを紹介します。
事例①:希少疾患試験でのコホート拡大
ある希少疾患の治験では、当初の患者数はわずか200人未満でした。しかし、保有していた保険請求データやレジストリ情報に加え、ラボデータや構造化・非構造化EMR(電子医療記録)を統合したことで、3,000人以上の対象患者を特定。わずかな期間で1,500%のコホート拡大を実現しました²。
事例②:肺がん試験でのリアルタイムマッチング
別の肺がん治験では、厳格な適格基準により患者特定が難航していました。そこで、サイトラインのPatientMatchを活用し、週次アラート機能を通じて新たに該当する患者が現れたタイミングで即時通知。これにより、継続的かつ効率的なリクルートメントが可能となりました。
成果の本質:スピード・精度・柔軟性
これらの事例に共通するのは、RWDを活用することで、「どこに、どんな患者が、どのくらいいるか」を事前に把握できる点です。さらに、施設選定やプロトコル設計の段階からデータを活用することで、リクルート戦略全体の精度とスピードが大幅に向上します。
また、RWDは一度きりの分析ではなく、継続的にアップデートされる情報源であるため、試験期間中も柔軟に戦略を調整することが可能です。
第5章:PatientMatchという選択肢
RWDを活用した患者リクルートメントの可能性を最大限に引き出すには、信頼性の高いデータと、それを活かす仕組みが必要です。サイトラインが提供するPatientMatchは、その両方を兼ね備えたソリューションです。
PatientMatchとは?
PatientMatchは、AIとカスタムアルゴリズムを活用し、治験プロトコルに合致する患者をリアルタイムで特定・通知するRWD活用ツールです。電子カルテ、保険請求データ、ラボデータ、バイオマーカー情報など、複数のデータソースを統合し、精度の高いマッチングを実現します。
主な機能と特長
- 週次アラート機能:該当患者が医療機関に現れたタイミングで即時通知
- 施設選定支援:患者分布に基づき、最適な治験実施施設を提案
- プロトコル設計支援:RWDに基づく適格基準の調整や対象患者数の予測
- Trialtrove・Sitetroveとの連携:業界トップレベルの収録量を誇るデータベースとの連携により、治験実績や施設情報を統合的に活用可能
導入効果の実例
- 希少疾患治験でのコホート拡大(200人→3,000人)
- 肺がん試験での継続的な患者発見と登録率向上
- 治験期間の短縮、施設の稼働効率向上、登録の多様性確保
データの規模と信頼性
PatientMatchは、米国人口の90%以上(約2億1,000万人)をカバーするデータベースを活用。月間5億件以上の診断テスト結果、1億7,700万人分のラボデータ、400以上の病院・医療システムからの情報を統合しています。
なぜPatientMatchなのか?
- 「見つける力」を、誰でも使える形に:専門知識がなくても、直感的に使える設計
- 既存のリクルート手法と併用可能:段階的な導入が可能で、現場の負担を最小限に
- 治験成功の確率を高める“戦略的パートナー”として、多くの企業が採用中
最終章:まとめ ― 治験成功の鍵は、“見つける力”にある
治験の成否を左右する最大の要因のひとつが、適切な患者を、適切なタイミングで見つけられるかどうかです。
しかし、患者リクルートメントは今や、単なる「数集め」ではなく、精度・スピード・多様性・継続性が求められる、極めて高度な戦略領域となっています。
その中で、リアルワールドデータ(RWD)は、従来の常識を覆す新たな選択肢として注目されています。
RWDを活用することで、これまで“見えなかった”患者が“見える”ようになり、リクルート戦略の立案から実行、改善までをデータドリブンに進めることが可能になります。
そして、そのRWDの力を最大限に引き出すのが、サイトラインのPatientMatchです。
AIと統合データベースを活用し、「見つける力」を誰もが使える形に変えるこのツールは、すでに多くの治験現場で成果を上げています。
🔑 「患者が見つからない時代に、見つける力を。」
この言葉は、単なるキャッチコピーではありません。
それは、治験の未来を切り拓くための実践的なアプローチであり、患者に新しい治療の選択肢を届けるための第一歩です。
いま、あなたの治験にも「見つける力」を。
(外部サイトが開きます)
提供元
Sources
1: Amy Kasahara, Jennifer Mitchell, and Tim K. Mackey (2024), Digital technologies used in clinical trial recruitment and enrollment including application to trial diversity and inclusion: A systematic review. PMC10981266
Benjamin Kasenda, Erik von Elm, John You, et al. (2014), Prevalence, characteristics, and publication of discontinued randomized trials. PubMed: 24618966
2: Citeline White Paper (2025), Unlocking the Potential of RWD in Clinical Trial Recruitment, p.5