株式会社テックドクター(代表取締役:湊 和修、本社:東京都中央区、以下、テックドクター)は、国立病院機構北海道医療センター(所在地:北海道札幌市)と共同で実施した多発性硬化症(MS)に関する研究成果が、国際神経免疫学誌 Journal of Neuroimmunology の 2025年11月22日号に掲載されたことをお知らせします。本研究は、ウェアラブルデバイスから取得される日常の生理学的データが、MS患者の疾患進行をモニタリングする上で補完的な指標となり得る可能性を示したものです。
■背景と研究概要
多発性硬化症(MS)は中枢神経系の慢性自己免疫性脱髄疾患であり、急性の神経症状の発作と、進行性の神経機能の低下を特徴とします(Jakimovski et al., 2024)。MSにおける脳萎縮は、病勢の進行を示す重要な指標であり、神経変性を反映するとともに、身体機能の悪化や認知機能障害、生活の質の低下とも関連しています(Bermel and Bakshi, 2006; Miyazaki et al., 2022; Mowry et al., 2009)。
また、臨床的な再発がなくても脳容積が減少することが報告されており(Akaishi et al., 2024b; Cree et al., 2019; Yokote et al., 2018)、自覚症状があらわれていない段階での疾患活動性や神経変性をより高感度に追跡できる、早期で非侵襲的なバイオマーカーの必要性が高まっています(Comi et al., 2024; Scalfari et al., 2024)。
<研究概要>
本研究は、北海道医療センター神経内科の協力のもと、MS患者30名(再発寛解型23名、二次進行型5名、一次進行型2名)を対象に実施されました。
- デバイス:Google Fitbit Inspire3
- 期間:最大30日間
- 取得パラメータ:睡眠指標・心臓自律神経指標・活動量など計29項目
- MRI指標:脳容積、T2病変体積(T2LV)、C2/3 頸髄断面積(CSA)
- 質問紙:日本語版ピッツバーグ睡眠質指数(PSQI)、日本語版疲労重症度尺度(FSS)
- 解析方法:センサーから得られたパラメータと神経画像測定との関連性は、年齢と性別を調整した相関分析を用いて評価
■研究成果
論文抄録に記載された解析結果は以下の通りです。
● 1. 深い睡眠の割合とMRI指標の関連
- 深い睡眠の割合が高いほど
- T2病変体積(T2LV)が小さい(ρ = -0.46)
- C2/3頭頸断面積(CSA)が大きい(ρ = 0.59)
→ 睡眠の質、とくに「深い睡眠」がMRIによるMS病変の程度と関連する可能性。
● 2. 睡眠中の心拍変動(RR間隔の変動係数)
- 脳容積と関連(ρ = 0.41)
→ 自律神経指標が中枢神経の萎縮と関連する可能性。
● 3. 日中の活動量・心拍指標と頸髄萎縮の関連
- 日中の最小心拍数(ρ = -0.44)および範囲(ρ = 0.41)
- 歩数(ρ = 0.64)
- 総代謝当量(METs)(ρ = 0.54)
これらすべてが C2/3頸髄断面積と関連。
→ 身体活動や心拍に関する日常データが、頚椎萎縮と関わる可能性。
ρ:年齢と性別を調整した部分相関によるSpearmanの部分相関係数
■社会的意義と今後の展望
本研究は、日常的に取得できるウェアラブルデバイスの生理学的データが、多発性硬化症(MS)患者の神経病理を反映する可能性を示すものであり、非侵襲的かつ継続的に病態変化の兆候を捉える新たな手法としての有望性を示唆しています。
深い睡眠、自律神経機能、日中の活動量といった身近な指標が、脳・脊髄の萎縮や病変の程度と関連する可能性が確認されたことは、従来の臨床検査だけでは把握しづらい“日常の変化”を医療に橋渡しする重要な第一歩といえます。
今後は、より大規模な患者集団での検証や縦断的な追跡研究を通じて、これらの生理指標がMSの早期発見や病態モニタリングの精度向上にどの程度寄与し得るかを明らかにしていく必要があります。
ウェアラブルデータを活用したデジタルバイオマーカーの確立は、患者負担の少ない新しい医療モデルの創出につながることが期待されており、テックドクターは引き続き研究機関と連携しながら、実臨床への応用と社会実装を目指して取り組んでまいります。
■ 論文情報
掲載誌:Journal of Neuroimmunology
出版社:Elsevier B.V.
論文タイトル:Wearable-based physiological monitoring and brain magnetic resonance imaging metrics in multiple sclerosis: A feasibility study
DOI:10.1016/j.jneuroim.2025.578819
URL:https://doi.org/10.1016/j.jneuroim.2025.578819
Miyazaki Y, Yokote H, Fujimori J, Sakurai K, Hagiwara A, Fujino S, Fukami T, Takahashi E, Miyagishi M, Uwatoko M, Sugimura Y, Amino I, Akimoto S, Izumi K, Minato K, Minami N, Niino M. Wearable-based physiological monitoring and brain magnetic resonance imaging metrics in multiple sclerosis: A feasibility study. J Neuroimmunol. 2025 Nov 22;410:578819.
■ 宮﨑雄生 先生(北海道医療センター脳神経内科医長)コメント
多発性硬化症を含む神経疾患では、受診時の評価だけでは患者さんの日常の状態を十分に把握できないという課題がありました。本研究では、ウェアラブルデバイスによる日常生活下での生理機能の測定が、多発性硬化症における神経の障害の程度を反映する可能性を示しました。今後、この手法を従来の検査と組み合わせることで、病状をより的確に捉える新しいモニタリング方法を確立し、より良い医療につなげていきたいと考えています。
【 国立病院機構北海道医療センターについて 】
国立病院機構北海道医療センターは、3次救命救急センターを有し、地域の急性期医療のニーズに答える一方、札幌市のみならず北海道全域をテリトリーとした神経難病や筋ジストロフィー、重症心身障害といった政策医療や結核医療を担い、さらには精神科身体合併症にも対応する医療機関です。また、北海道より「難病診療連携拠点病院」としての指定を受けているほか、「北海道移行期医療支援体制整備事業」の委託も受け移行期医療センターも設置し、さらに、札幌市の「認知症疾患医療センター」の指定も受け、幅広く活動しています。このように、北海道医療センターは、独立行政法人国立病院機構140病院の一員として、かつ、地域の医療機関や行政機関とも連携し、その役割を果たしています。
【 テックドクターについて 】
株式会社テックドクターは「データで調子をよくする時代へ」をビジョンに掲げ、ウェアラブルデバイスをはじめとした日常のセンシングデータから健康に関するインサイトを導く「デジタルバイオマーカー**」の開発と、その社会実装を進めています。医療・製薬・食品関連企業や研究機関と連携し、データに基づくAI医療の実現を目指しています。
代表者 :湊 和修
代表医師 :泉 啓介
本社 :東京都中央区京橋二丁目2番1号 京橋エドグラン4階
設立 :2019年6月21日
事業内容 :デジタルバイオマーカー開発プラットフォーム「SelfBase」の開発および運用、デジタル
医療ソリューションの提供
URL :https://www.technology-doctor.com/
** デジタルバイオマーカー
デジタルバイオマーカーとは、スマートフォンやウェアラブルデバイスなどから取得される日常的な生体データをもとに、疾患の有無や病状の変化、治療の効果を連続的かつ客観的に評価する指標です。
従来のバイオマーカーは、医療機関で一時的に測定される「点のデータ」でしたが、デジタルバイオマーカーは日常生活の「線のデータ」を継続的に取得できる点が特徴です。運動、睡眠、心拍などの指標をもとに、病気の早期発見や治療モニタリング、さらには薬剤開発における新たなエンドポイントとしても期待されています。海外では2019年頃から開発が進み、国内でも注目が高まっています。
お問い合わせ先
株式会社テックドクター 広報担当 向坂(こうざか)
TEL:03-5476-8889
MAIL:pr@technology-doctor.com