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投稿日:2026.03.02 投稿者:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所

同じ食事内容でも吸収されるエネルギーは異なる? ~食事や健康状態で変わる「消化可能エネルギー」の最新レビュー~_

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市、理事長:中村祐輔)国立健康・栄養研究所臨床栄養研究センター栄養代謝研究室の吉村英一室長及び東北大学大学院医学系研究科運動学分野の西田優紀講師らの研究グループは、過去50年分の国内外の文献を調査し、食品から摂取したエネルギーのうち、体内で消化・吸収される「消化可能エネルギー」に影響を及ぼす要因に関するエビデンスを整理しました。

【研究成果のポイント】

  •  摂取エネルギーは「食べた量」だけでなく、「どの程度消化・吸収されるか(吸収効率)」によって大きく左右されることを体系的に整理。
  • 食べ過ぎた場合、糞便中へのエネルギー排泄量は増加するものの、エネルギー吸収割合は比較的安定しており、一方で食物繊維やナッツ類を摂取した場合は、エネルギー吸収効率を低下させることを一貫して確認。
  • 70歳以上の高齢者や、明らかな消化管疾患を除く患者を対象としたエビデンスは依然として不足している。

概要と本研究成果の意義

これまでの体重管理は、主にエネルギー摂取量と消費量のバランスで議論されてきましたが、摂取したエネルギーのうち、実際にどれだけが消化・吸収されて利用されるかについてのエビデンスは、体系的に整理されていませんでした。今回、過去50年分のヒトを対象とした研究を系統的にレビューしたことで、食事量や食事内容、加齢、疾患が消化可能エネルギー摂取量(DEI)*1及び代謝可能エネルギー摂取量(MEI)*2に影響することを明らかにしました。本研究は、食品表示のエネルギーと実際に体内で利用されるエネルギーとの差を理解する基盤となり、肥満や低栄養、高齢者のフレイル対策など、幅広い体重管理・栄養戦略の科学的根拠を強化する成果となります。

研究の背景

世界的に肥満人口は増え続ける一方、南アジアやアフリカにおける子どものやせや、高齢者における意図しない体重減少やフレイル(虚弱)も深刻な課題となっています。このように、過剰でも不足でもない適正な体重を維持することは、年齢や健康状態を問わず、世界共通の重要な課題です。
体重を左右するエネルギーバランスは、摂取量と消費量だけでなく、摂取したエネルギーのうち、実際に体内に取り込まれて利用されるDEIやMEIも重要です。近代栄養学の父とも称されているアトウォーター氏は、今から100年以上も前に、食品のたんぱく質・脂質・炭水化物からMEIを算出するエネルギー換算係数*3を提唱しました。“アトウォーター係数”として知られるこの換算係数は、栄養学や食品表示の基盤となっており、日本でも食品表示法に基づく熱量(エネルギー)の算出は現在も修正アトウォーター法が基本として用いられています。また、日本食品標準成分表は、八訂からエネルギーは組成成分ごとの換算係数を乗じる方法で算出されています。
しかし、同じエネルギー量の食事であっても、食品の種類や食事内容、年齢や健康状態によって、DEIやMEIは異なる可能性があります。こうしたエネルギーの消化・吸収効率に影響する要因については、これまで体系的に整理されていませんでした。
本研究は、過去50年分のヒトを対象とした研究を体系的に整理し、食事条件や栄養素、加齢、疾患がDEI及びMEIに及ぼす影響を明らかにすることを目的として実施しました。

本研究の内容

成人を対象としてボンブ熱量計*4によりエネルギー吸収試験を実施した論文を、複数の文献データベースから収集したところ、1973~2024年に報告された論文数は23件でした。

食事量の影響

過食では糞便中へのエネルギー排泄量が増加するものの、DEIやMEIの割合は全体として大きくは変化せず、体内での適応的な調節が示唆されました。一方、食事摂取量を減らした場合においても、エネルギー吸収割合が大きく変化する明確な傾向は認められませんでした。

食事内容の影響

高食物繊維食やナッツ類の摂取により、DEI及びMEIの割合が一貫して低下しました。これは、食品の種類や構成がエネルギーの吸収効率に大きく影響することを示しています。特にナッツ類を摂取した場合では、表示されているエネルギーよりも、実際に体内で利用されるエネルギーが少ない可能性が示されました。

食事パターンや運動の影響

時間制限食では研究間で結果が一致せず、ある研究ではエネルギー排泄量の増加がみられた一方、別の研究ではDEI・MEIに差は認められませんでした。また、レジスタンス運動による明確な影響は確認されませんでした。

加齢や疾患の影響

60代の高齢者や短腸症候群、腸管不全などの消化管疾患を有する人では、DEIやMEIの割合が健康な成人よりも低い傾向がみられました。特に在宅静脈栄養を受けている腸管不全患者では、エネルギー吸収率が大きく低下していました。一方、70歳以上を対象とした研究は現時点で報告されておらず、消化管疾患以外の疾患患者を対象としたエビデンスについても依然として不足しています。

本研究では全体として、食品から摂取したエネルギーの吸収効率が、食事内容、加齢、健康状態によって大きく左右されることを示しています。一方で、高齢者や疾患患者を対象とした研究は限られており、今後の研究の充実が求められます。
 

図. 各研究の平均年齢別にみた消化可能エネルギー平均値のプロット

図. 各研究の平均年齢別にみた消化可能エネルギー平均値のプロット

特記事項

本論文はJSPS科研費 23K28033の助成を受けたものです。また、『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。
本研究成果は、2026年2月26日、国際学術誌 『Advance in Nutrition』にて公開されました。

論文情報

論文タイトル: Digestible and Metabolizable Energy Intake in Humans: A Systematic Review. 
著者: Eiichi Yoshimura*, Naoya Oi, Kanon Abe, and Yuki Nishida* (* 責任著者)
掲載雑誌: Advance in Nutrition
DOI: 10.1016/j.advnut.2026.100597

用語説明

*1  消化可能エネルギー摂取量(DEI)
食品から摂取した総エネルギーのうち、糞便として体外に排出される分を差し引いた、体内で消化・吸収さ
れたエネルギーを指します。

*2  代謝可能エネルギー摂取量(MEI)
消化可能エネルギーから、さらに尿として失われるエネルギーを差し引いた、体が実際に利用できるエネ 
ルギーを指します。

*3  エネルギー換算係数
食品に含まれるたんぱく質、脂質、炭水化物などの量から、エネルギーを算出するために用いられる数値
で、食品表示のエネルギー計算の基礎となっています。

*4  ボンブ熱量計
食品や糞便、尿を燃焼させ、その際に発生する熱量を測定することで、エネルギーを高精度に評価できる
装置です。

参考資料

お問い合わせ先

本件に関する問い合わせ先
https://www.nibn.go.jp/contact/index.html
 

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