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投稿日:2026.10.23 投稿者:株式会社アクセラレート・バイオ

創薬研究におけるAIエージェントの活用(後編) ― ケーススタディーを中心とするレビューからAI創薬の現在地を探る

AI創薬の最前線⑤

創薬研究におけるAIエージェントの活用(後編)
― ケーススタディーを中心とするレビューからAI創薬の現在地を探る

前回の「創薬研究におけるAIエージェントの活用(中編)」で紹介したケーススタディーに引き続き、ドラッグリパーパシング、低分子合成の自動化、新規創薬仮説の探索など、より幅広いAIエージェントの活用事例を紹介する。内容は2026年の Drug Discovery Today の論文「AI agents in drug discovery: applications and case studies」に基づく。

ケーススタディー⑤:希少疾患に対するドラッグリパーパシング

希少疾患では患者数や研究データが限られるため、既存薬を新たな疾患へ転用するドラッグリパーパシングが有力なアプローチとなる。事例として、Augmented Natureが構築したMCP(Model Context Protocol:AIと外部ツールをつなぐ共通規格)を利用するマルチエージェントシステムが紹介されている。

このシステムでは、Supervisorのもとで疾患、パスウェイ、タンパク質、化合物、安全性などの専門AIエージェントが連携する。EnsemblやOpen Targetsから疾患関連遺伝子、ReactomeやKEGGからパスウェイ、AlphaFoldやPDBからタンパク質構造、ChEMBLやPubChemから既知化合物を探索し、さらに毒性・ADMET情報を用いて候補を絞り込む。

マルチエージェントシステムによるドラッグリパーパシングの探索フロー
図1|マルチエージェントシステムによるドラッグリパーパシングの探索フロー(当社作成)

脊髄性筋萎縮症(SMA)を対象としたケーススタディーでは、SMN1やSMN2などを起点に、「疾患 → 遺伝子 → パスウェイ → タンパク質 → 化合物 → 安全性」の情報を統合し、リパーパシング候補を抽出した。従来は数週間を要する調査に対して、候補化合物のショートリストを数時間以内に作成できたと報告されている。

この事例は、複数の専門AIエージェントが役割を分担することで、異なるデータベースを横断して既存の知識を統合し、新たな治療候補を効率的に探索できる可能性を示している。

ケーススタディー⑥:低分子合成の自動化

米国企業Onepot AIでは、AIエージェントを文献検索、逆合成、コード実行などのvirtual toolsだけでなく、tube picker、decapper、liquid handler、plate sealer、LC/MSなどの実験装置にも接続している。AIによる「思考」とロボットによる「実験」を直接つなぐことで、計算空間だけで完結しない自律的な化学実験システムの構築を目指している。

このシステムでは、AIエージェントが文献や化学知識、逆合成解析などを利用して合成経路や実験条件を計画し、その計画を実験装置へ送って実際に反応を行う。反応後はLC/MSで生成物を分析し、その結果を再びAIへフィードバックする。つまり、「仮説・計画 → 合成 → 分析 → 学習 → 次の実験」を繰り返すクローズドループ型の化学実験が可能になる。

AIエージェントと実験装置をつなぐ低分子合成の自動化
図2|AIエージェントと実験装置をつなぐ低分子合成の自動化(当社作成)

実際に、7種類の反応クラスについて基質や反応条件を変えた自動実験が行われ、その実験データを用いて構築したMLモデルでは63.8~78.5%のaccuracyが得られた。また、2段階反応では1日あたり数十化合物を合成できるスループットが報告されている。生成可能な化合物をドラッグライクネスなどの特性で絞り込むことも想定されている。

創薬研究では、Design - Make - Test - Analyze(DMTA)の中でも「Make」、つまり実際の合成工程がボトルネックになりやすい。この事例は、AIが化合物をデザインするだけでなく、実際の合成・分析装置まで操作し、その結果から次の実験を考える方向へ進みつつあることを示している。将来的な自律型ラボにつながる、エージェンティックAIの特徴を分かりやすく示すケーススタディーといえる。

ケーススタディー⑦:Focal Graphを活用した新規創薬仮説の探索

創薬では、遺伝子発現、化合物構造、細胞情報など、膨大で異質なデータを横断して解析する必要がある。Focal Graphは、大規模なKnowledge Graph(知識の関係性をネットワーク化したもの)から研究テーマに関連する部分だけを抽出することで、重要なデータ間の関係を効率的に探索する手法である。

その事例として、米国企業Plex ResearchによるFocal GraphとLLMを組み合わせたAIエージェントが紹介されている。「Wnt pathwayにおける新規がん標的の探索」という課題に対し、既知のWnt関連遺伝子とRNA-seqデータを解析し、類似した遺伝子発現変化を示す遺伝子を探索した。

その結果、eIF2 complexを含む新たな標的候補が提示された。この事例は、AIエージェントが情報を検索・整理するだけでなく、複数のデータを横断して新しい創薬仮説を提案できる可能性を示している。

Focal Graphを活用した新規創薬仮説の探索
図3|Focal Graphを活用した新規創薬仮説の探索(当社作成)

ケーススタディー⑧:AIエージェントによる創薬アセットの評価とライセンス判断

エージェンティックAIの活用範囲は、研究部門の創薬プロセスだけにとどまらない。論文では、創薬アセットの探索から評価、ライセンス・提携判断までを支援する「Discovery-to-deal」への応用も紹介されている。

米国のConvexia Bioでは、マルチエージェントシステムを用いて、外部の候補アセットを探索するとともに、科学的妥当性、前臨床データ、臨床開発リスク、安全性、市場性、競合環境、規制、知財、商業性などを複数の専門AIエージェントが分担して評価する。さらに、これらの情報を統合して臨床開発成功確率などを推定し、優先的に検討すべきアセットやライセンス・提携候補を提示する。

AIエージェントによる創薬アセットの評価とライセンス判断
図4|AIエージェントによる創薬アセットの評価とライセンス判断(当社作成)

ケーススタディーでは、製薬企業のポートフォリオに適合する外部アセットを探索し、候補間の比較から評価レポート、さらにライセンス候補へのアプローチ計画までを数時間単位で作成できたと報告されている。従来、研究、臨床、知財、事業開発など複数部門の専門家が個別に情報を収集・評価していたプロセスを、AIエージェントによって横断的につなぐアプローチといえる。

つまりエージェンティックAIの対象は、「標的探索 → 化合物探索 → 前臨床/臨床開発 → アセット評価 → BD・ライセンス」へと拡張し得る。AIエージェントは「どの化合物を作るか」だけでなく、将来的には「どの創薬アセットを優先し、どこに投資するか」という研究開発戦略や事業開発の意思決定まで支援する可能性がある。

エージェンティックAIの課題と展望

エージェンティックAIは創薬研究の幅広い領域へ応用され始めている一方、完全自律型の「AI科学者」にはまだ多くの課題が残されている。特に、化学・生物データの不均一性、機密データのプライバシー、プロンプトインジェクション(悪意ある指示を入力し、AIに意図しない動作をさせる攻撃)などのセキュリティ、LLMのハルシネーション(事実に基づかない情報を、もっともらしく生成する現象)、評価用ベンチマークの不足が重要な問題として挙げられている。

創薬におけるハルシネーションは、単なる回答の間違いでは済まされない。合成困難な化合物の提案や誤った情報・実験条件の生成は、実際の研究にも影響を及ぼし得る。そのため、重要な判断には研究者が介在するhuman-in-the-loopと、AIの判断根拠を確認できる透明性が不可欠である。将来的には、AIエージェント、ロボット、自動分析などを統合し、「設計 → 合成 → 評価 → 解析 → 学習」をクローズドループで繰り返す自律型ラボへの発展が期待される。

ただし、これは研究者が不要になることを意味しない。ルーチン作業や大規模探索をAIに任せることで、研究者は仮説形成、創造的な研究デザイン、結果の解釈、戦略的意思決定に集中できる。エージェンティックAIの将来像は、「研究者 vs AI」ではなく「研究者 × AI」と考えるべきである。

*本稿は原著論文をもとに内容を要約・再構成したものです。正確な研究内容や詳細については、原著論文をご確認ください。

図の出典
当社作成(AIツール使用)

論文情報(Open access)
Huynh DL, Seal S; AIA4S Consortium; Reid D, Carpenter AE, Bender A, Spjuth O. AI agents in drug discovery: applications and case studies. Drug Discov Today. 2026 May;31(3):104650. doi: 10.1016/j.drudis.2026.104650. Epub 2026 Mar 24. PMID: 41887499.

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本社営業部 03-4540-7578

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