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投稿日:2024年10月04日 投稿者:株式会社東レリサーチセンター

触媒反応生成物のオンライン高精度定性・定量分析サービスの開始について ~カーボンニュートラル実現に向けた材料開発支援~

【要旨】

 株式会社東レリサーチセンター(所在地:東京都中央区日本橋本町一丁目7番2号、社長:吉川正信、以下、「TRC」)は、加熱分解・触媒反応炉と加圧制御器、独自ガス導入機構をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)※1に組み込み、触媒反応における生成物をオンラインで高精度に定性・定量分析するサービスを開始しました。
 触媒は化学反応を低エネルギーで進めることのできる物質であり、カーボンニュートラル(以下、「CN」)実現のためのキーマテリアルの一つです。近年、求める反応を高選択、高効率、低コストで行うために、よりよい触媒や反応プロセスの選択が求められています。TRCは、触媒反応生成物の検出にGC/MSを用い、様々な触媒反応条件を模したオンライン分析を可能とすることで、従来の触媒反応評価装置よりも高精度で定性、定量分析することを可能にしました。これにより、より効果的な触媒のスクリーニングや反応プロセスの最適化が期待できます。触媒の反応生成物に関わる詳細な情報をご提供することで、サステナブルな社会の実現に向けて、材料開発支援の面から貢献してまいります。

【背景】

 CNの実現において触媒は重要な役割を果たしており、二酸化炭素(CO2)や廃プラスチック材の有効利用だけでなく、水素製造やメタン合成など、様々なプロセスにおいて更なる技術開発が期待されています。これまで、触媒から発生するガス成分を評価する触媒反応評価装置の多くには、定性能力の低い検出器 が用いられており、化学構造が特定できないケースがありました。反応生成物の化学構造や量をより正確に把握できれば、目的物の生成効率向上や、意図しない副生成物・劣化物の低減、有価物の発見等が期待できます。また、生成物の詳細なデータを得ることは、AIによる触媒反応解析などのMI(マテリアルズ・インフォマティクス)技術の精度向上においても役立つことが期待されます。
 そこでTRCでは、従来の触媒反応評価装置より高精度な定性、定量分析を可能とするため、新たな測定システムを開発しました。

【技術と適用例】

 図1に本装置概要を示します。優れた定性能力と高い感度を有する質量分析計(MS)を検出器として用い、2段階の反応炉、圧力制御器と独自のガス導入機構を組み込むことで、様々な触媒反応から生じる生成物をオンラインで高精度に定性・定量することが可能となりました。

本装置をCNの実現に重要な フィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch ; FT)合成反応※2に適用した事例を示します。FT合成反応は触媒を用いて一酸化炭素(CO)と水素(H2)から、石油の代替品となる合成油や合成燃料を作り出すことができる合成反応であり、主に炭化水素(CnH2n+2やCnH2n等)が生成されます(図2左)。

2種類の触媒(Ni/SiO2-Al2O3、および Ru/Al2O3)を使用した時の反応生成物を分析比較したところ、異なる炭素数分布をもった炭化水素(Cn;nは炭素数)が検出されました(図2右)。

Ni/SiO2-Al2O3触媒を用いた方が生成物の分布が狭く、プロパン(C3)やブタン(C4)などの炭素数の小さいガス成分が多いことがわかります。一方で、Ru/Al2O3触媒を用いると比較的炭素数の大きい成分にまで広い範囲で生成されました。よって、今回の反応条件では、炭素数の小さい成分を得たい場合はNi/SiO2-Al2O3触媒の方が、液体燃料を取得したい場合はC5~C13炭化水素が多いRu/Al2O3触媒の方が有効と考えられます。


 このように、触媒を変えて反応させた生成物を詳細に比較することで、よりよい触媒選定が可能になります。また、複雑な生成物が生じる反応系では生成物の特定にMSが有効です。さらに、温度や圧力、反応ガスの種類や量等を変えてそれぞれの生成物の種類や量を把握する事で、触媒開発や反応炉設計などに関する有用な情報を得ることが可能となります。

【今後の展開】

 本装置を用いることで、触媒反応における反応生成物をオンラインで高精度に定性・定量分析することが可能になりました。複雑な組成を有するバイオマスや廃プラスチック等のリサイクルにも触媒反応が利用されており、そこで生じる様々な生成物を、今後より詳細に把握することで、最適な触媒や反応条件の探索を可能にします。
 また、これまで培ってきた触媒自体の状態解析やシミュレーション解析と組み合わせることで、様々な反応メカニズム解析も可能とし、よりよい触媒や反応プロセスの開発に貢献します。今後も「高度な技術で社会に貢献する」という基本理念に基づき、よりいっそうの技術水準の向上に努めていくとともに、最新の先端分析サービスをいち早く提供し、お客様の材料開発や課題解決を支援いたします。

【用語説明】

※1 ガスクロマトグラフ質量分析装置(Gas Chromatograph / Mass Spectrometry ; GC/MS):
試料から出たガスを成分ごとに分離するGC部と、分離した成分を同定 (種類を決定) し、定量 (成分量を決定) するMS部が組み合わさった装置。高感度で、質量スペクトルを利用して化合物を特定できます。

※2 フィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch ; FT)合成反応:
触媒を用いて一酸化炭素(CO)と水素(H2)から、石油の代替品となる合成油や合成燃料を作り出すことができる合成反応。CNの実現における重要技術の一つですが、コストや反応収率等にまだ課題があり、最適な触媒や反応プロセスの開発が求められています。

お問い合わせ先

株式会社東レリサーチセンター 〒103-0023 東京都中央区日本橋本町一丁目7番2号 KDX江戸橋ビル6F (03)3245-5666(ライフサイエンス営業部、営業企画部)
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