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イベントレポート

創薬 創薬のフロンティア 医薬品

LINK-Jシンポジウム「創薬のフロンティア2024」を開催(6/24)

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アカデミアから産業界まで、創薬研究の第一線で活躍する人々にご登壇頂き、創薬の最前線を語って頂く「創薬のフロンティア」も、今年で4回目です。
今回は基調講演として、我妻利紀氏(第一三共株式会社)にご登壇頂き、同社が誇る「抗体薬物複合体技術」誕生の裏側を、紹介して頂きました。その後も、最先端の創薬モダリティをテーマに、日本を代表する皆様にご登壇頂きました。
各人の講演終了後は、演者全員参加によるパネルディスカッションを開催。さらに終了後は、リアル会場(東京・日本橋)限定で、立食懇親会および名刺交換会を実施しました。
また、業界団体からバイオテックまで、さまざまな企業・団体が会場内にブースを出展。リアル会場には200名が参加し、来場者との間でネットワーキングが行われました。
当日は、会場・オンラインを合わせて約500名の参加の皆様に参加頂きました。

主催:LINK-J、collaborated with Blockbuster TOKYO

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開会挨拶


岡野栄之氏(LINK-J 理事長/慶應義塾大学再生医療リサーチセンター・センター長、慶應義塾大学教授)

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基調講演「新世代抗体薬物複合体DXd-ADC技術の開発」


我妻利紀氏(第一三共株式会社 常務執行役員 研究開発本部長 兼 研究統括部長)

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抗体と低分子薬を結びつけることで、高い標的誘導性を持った低分子薬を作り出す「抗体薬物複合体技術」(ADC)は、いまや第一三共を代表する創薬技術です。しかし、その開発は容易ではなく、多くの企業がADCの開発に挑戦していましたが、大きな成功をおさめるには至っていませんでした。これに対して我妻氏らは、独自のリンカー技術に基づく最適化や高度な生産技術をベースにADCのプラットフォームの開発に挑戦、見事に成功を収めました。我妻氏は「単に知識だけでなく、少し天邪鬼で逆張りの挑戦をしたがる研究者と、それを支える体制が重要」と指摘。それが世界に通用するイノベーションを生み出す力になると訴えました。

講演:構造生物学と合成生物学を組み合わせることによる、世界最小・最強のゲノム編集ツールの開発


濡木理氏(東京大学大学院理学系研究科教授、株式会社キュライオ社外取締役)

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濡木氏は、東京大学で独自に開発したゲノム編集技術の概要を紹介しました。クリスパー/キャス9の登場により、遺伝子治療は大きく発展しましたが、体内に遺伝子を直接導入するin vivo技術の医療応用は、難渋しているのが現状。濡木氏は「クリスパー/キャス9では分子サイズが大きく、運び屋(AAV:アデノ随伴ウイルス)に搭載できないことが、障壁になっている」と指摘します。そこで濡木氏らは、クライオ電子顕微鏡を用いることで、クリスパー/キャス9よりもさらに小さい分子設計を可能にする酵素「クリスパー/キャス12」の立体構造解析に挑戦。さらに構造生物学と合成生物学を組み合わせ、最小かつ最強活性を持ったゲノム編集ツールを開発しました。現在は、自ら起業して事業化にも挑戦しており、講演では「基礎の基礎は応用につながる」というモットーを紹介。今後のさらなる挑戦に意欲を見せました。

講演:標的タンパク質分解誘導剤探索プラットフォーム:RaPPIDS


冨成祐介氏(ファイメクス株式会社 代表取締役CEO)

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ファイメクス株式会社が得意とする標的タンパク質分解誘導剤は、低分子薬の持つ可能性として、業界でも注目度の高い技術です。海外では開発競争の激しい世界であり、冨成氏らもまた、同社独自の標的タンパク質誘導剤探索プラットフォームを開発することで、現在は製薬企業との共同研究にもとづく候補物探索と、自社パイプライン創出の2本建てによる事業を展開しています。同社の技術の特徴は、最初に大量の化合物を作成し、のちに分解能評価を行う「フェノティピック・ファースト」。その結果、最適な医薬品候補を、短期間かつ低コストで創出可能になりました。冨成氏は、標的タンパク質分解誘導剤の世界は、海外では数百億円単位の契約も誕生し、多くの企業が参入しているのに、日本企業はまだ及び腰である点にふれ「リスクを背負って挑戦することが、新たな創薬につながる」と参入を呼びかけました。

講演:mRNA上の部分構造を標的とする新しい概念の創薬システム:ibVISプラットフォーム


中村慎吾氏(株式会社Veritas In Silico 代表取締役社長)

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中村氏らは、インシリコ技術と実験技術を組み合わせた創薬プラットフォームibVISⓇを確立し、低分子化合物の新たな可能性として期待される「mRNA標的低分子創薬」に挑戦しています。mRNAの部分構造に結合する低分子薬が疾患の原因となるタンパク質の発現を抑えることで疾患を治療する新規の創薬手法であり、「がん領域や中枢神経疾患をはじめ、さまざまな疾患に対応できる(中村氏)」のが特徴です。中村氏らは、創薬の標的となるmRNAの部分構造をインシリコで同定し、独自のスクリーニング技術を用いて、ヒット化合物の検証サイクルを回すことで、mRNAの部分構造に結合する低分子化合物を効率的かつほぼ確実に創出できる創薬システムを実現しました。今後の方針について、中村氏は「パートナーとの共同創薬研究と並行して、今後は自社で医薬品候補の創出に取り組みたい」と展望を紹介しました。

講演:AAVベクターが拓く遺伝子治療 ―課題と挑戦―


村松慎一氏(自治医科大学オープンイノベーションセンター 神経遺伝子治療部門)

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ベクター(運び屋)を用いて直接遺伝子を導入するin vivo遺伝子治療のうち、最も利用されているベクターが、アデノ随伴ウイルスです。村松氏ら自治医科大学の研究チームは、二十年以上前から同ウイルスを用いた遺伝子治療の開発に挑戦。極めてまれな小児の神経伝達物質病に対する治療技術を確立するとともに、実際に多くの小児患者さんたちを治療してきました。その技術は海外企業にも導出され、欧州で2年前に製造販売承認を取得しています。また村松氏も起業し、自身の研究成果の社会実装に挑戦しています。村松氏は「日本の遺伝子治療は、海外と比べて大きく出遅れた」、「日本のアカデミアには多くの優れた技術があるが、それが日本の製薬企業に届かない」などの問題点を指摘。今後はアカデミア、製薬企業、ベンチャーが結びつき、日本のアカデミア発の技術の実用化を目指す必要があると訴えました。

講演:血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo」について


髙橋健一氏(JCRファーマ株式会社 研究本部 サイエンティフィックエキスパートフェロー (兼)基盤技術研究所 所長)

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本来は異物から脳を守る機構であり、同時に中枢神経疾患の治療における最大の障壁でもある「血液脳関門」。同社は、血液脳関門を巧みに通過して、脳内に薬物を送達する独自技術を開発した会社として、業界でもよく知られる存在です。同社はこの技術を用いて、ムコ多糖症Ⅱ型(ハンター症候群)の中枢神経症状に対しても効果を発揮する治療薬の開発に挑戦。その結果、誕生した「イズカーゴ」は、治験において中枢組織に対する高い治療効果を示し、正式に医薬品として承認されました。髙橋氏によると、同社の血液脳関門通過技術は、抗体医薬やアデノ随伴ウイルスなどのモダリティにも応用可能であり、実際にトラスツズマブに適用することで脳実質内への持続的な移行がモデルマウスで示されました。講演で髙橋氏は「今後も基盤技術の創出を通じて、希少疾患領域に貢献したい」との展望を述べました。

パネルディスカッション


モデレーター:岡野栄之氏
登壇者:我妻 利紀氏、濡木 理氏、冨成 祐介氏、中村 慎吾氏、村松 慎一氏、髙橋 健一氏

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講演の最後は、ここまで登壇した参加者全員によるパネルディスカッションが実施されました。本稿では、そのうち登壇者の皆様が述べた「現在の日本の創薬環境について思うところ」を紹介します。

我妻:当社の成功は、日本のアカデミアと製薬企業が連携すれば、世界に通用する医薬品を生み出せることを証明する一助になれたと思う。日本の科学力の低下を指摘する声もあるが、技術自体は十分磨かれている。後は社会に還元するシステムを作ること。それがあれば十分にパフォーマンスを発揮できる。

濡木:研究者たちは、研究成果を社会実装することの重要性を十分理解している。問題は、彼らを取り巻く社会環境と「出る杭は打つ」文化が、発展を阻んでいること。わたしもこれまで何度も傷つく場面を経験してきた。そこを変えないと、アカデミア発の技術をスムーズに医療応用に結びつけるのは難しい。

冨成:標的タンパク質分解誘導剤は、十年前に誕生した技術であり、いまや最先端技術とは言い難い。また、新たなモダリティを医薬品に結びつけるには、競合相手の存在が不可欠だが、多くのベンチャー企業が参入し、学会に多数の関係者が詰め掛ける海外と比べて、日本はこの分野では周回遅れの感もある。

中村:日経株価の上昇に伴いリスクがあるバイオテックへの投資は避けられ、景気減退時にも日経株価につられて株価が下がる傾向が見られる。本来は景気に左右されにくく長期で成長が見込めるバイオテックだが現状そうなっていないのは、日本のバイオテックが皆様の期待に応えられていないことの裏返しでもある。今後は信頼を回復し、長期的視点での投資先になれるように努めたい。

村松:我々は二十年以上前から遺伝子医療の技術を持っていたが、企業側に伝わっていなかった。だから日々の診療業務のかたわらで、臨床研究を続けてきた。米国では、大学で誕生した技術が企業の手でさらに改良されて製品化されているが、日本ではそれが進まない。もっと国内の研究に目を向けてほしい。

髙橋:創薬の世界は「技術的に難しいほど、チャンスがある」と考えている。我々はいま多数のパイプラインを抱えているが、中には非常に難しい課題もある。しかし製品がないからこそ、たとえば治験で患者さんの協力も得やすくなる。試行錯誤を経て乗り越えた先は、ブルーオーシャンが待っていると思う。

また「Meet UPブース」ではLINK-J特別会員企業の事業内容、取り組みを発信する企業ブースを設けました。フロア全体を使用し、27社の会員企業の皆様に出展を頂きました。 各ブース多くの参加者・出展者同士、様々な交流が行われており非常に賑わっていました。

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シンポジウム後の立食懇親会および名刺交換会ではフロア全体が熱気に溢れ、参加者の皆様は積極的に登壇者や参加者と交流を行っていました。

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ご参加頂いた方からは、「最先端の内容が含まれていて、非常に勉強になった。是非、次回も参加したいと思う。」、「日本初の創薬力の強化について力強い内容で今後も継続して行ってほしい。」、「大変興味深く聴講させて頂いた。今後もこのような場を数多く設けて頂けると日本の大夫サイエンス分野の活性化に繋がるものと考えます。」といった声を頂きました。
当日会場までお越し頂いた皆様、またオンラインにて講演を拝聴された皆様には、心より御礼申し上げます。

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