■ 概要
日本の労働者において、生活習慣病や精神疾患などの疾患は、個人の健康のみならず、QOL(生活の質)や労働生産性にも影響を及ぼす重要な課題です。特に疾患の新規発症直後は、自覚症状の出現だけでなく、診断に伴う心理的負担の変化や、通院や治療開始などによって生活リズムの変容等を通じて日常生活や職務遂行に影響が表れやすい時期と考えられます。しかし、多様な疾患の発症前後の変化を、疾患横断的かつ同一集団で追跡した研究は限られていました。
この度、本研究グループは、大規模個人報告アウトカムデータベース(PRO-DB)の第1回(2024年6月)および第2回(2025年6月)の連結データを用いて、第1 回調査から第2回調査にかけて就労を継続している者を対象に、疾患の新規発症と、健康関連QOLや労働生産性損失(OWI等)との関連性を評価した論文を『Therapeutic Research』誌にて発表いたしました。
■ 主な研究結果のポイント
1)疾患の新規発症とQOL低下と生産性損失の関連
第1回から第2回調査にかけて、継続して仕事に従事している労働者(新規発症群と健康維持群、各5,680人)の各アウトカムの変化量を比較しました。
・ QOL(EQ-5D-5L)の変化量は、健康維持群でutility value がわずかに上昇したのに対し、新規発症群では変化がみられず、群間差は-0.006(95%CI:-0.010 to -0.001)でした。
・ 生産性損失の変化量は、新規発症群と健康維持群の比較において、全体的な労働生産性損失(OWI)の変化量の群間差は2.655%、プレゼンティーズムの変化量の群間差は2.702%であり、いずれも新規発症群で健康維持群より高値でした。
2)新規発症疾患ごとのQOL および生産性との関連
各疾患について、新規発症とQOLおよび生産性損失の変化量との関連を重回帰分析によって評価しました。
・ QOL(EQ-5D-5L)との関連では、継続労働者集団において、「適応障害」がもっとも大きい負の回帰係数を示し、「急性上気道炎(かぜ症候群)」、「肥満症」、「ノロウイルス感染症」などの新規発症において、QOLの低下との関連がみられました。
・ 生産性損失(WPAI)との関連では、AI(活動障害)に関しては「パニック障害」および「急性胃腸炎」の新規発症で、 生産性損失の増大と大きな関連がみられ、OWI(全体的な労働生産性損失)に関しては「適応障害」および「急性胃腸炎」で関連がみられました。
■ 本研究の意義・知見
本研究では、既存のレセプトデータや電子カルテ等の臨床データでは把握が困難な、プレゼンティーイズムや活動障害といった生活者主体の指標を、大規模かつ定量的に示すことにより、社会的な観点から、疾患との関連性をより多角的に記述することができました。
本研究の知見として、疾患の新規発症時において、臨床的指標の確認にとどまらず、患者さんのQOLや労働機能への影響を初期段階からあわせて把握・評価する重要性を示唆しています。単なる症状の緩和にとどまらず、患者さんの社会的・職業的機能の維持や役割の制約に配慮したアプローチを行うことで、患者中心の医療の実践および患者さん・労働者のウェルビーイングの向上が期待されます。
【論文情報】
タイトル: 日本の労働者における疾患の新規発症と生活の質(QOL)および労働生産性との関連 ―大規模アンケートに基づく個人報告アウトカムデータベース(PRO‒DB)を用いた縦断解析―
著者: 相澤康平、岩崎勝彦、正路章子、大坂耕一郎、宮下ちひろ、徳田茂二、小久保欣哉
掲載誌: Therapeutic Research Volume 47, Issue 6, 405 - 421 (2026)
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