- 抗IL-8リサイクリング抗体AMY109の非臨床試験に関する成果を米国科学誌Science Translational Medicine電子版に掲載
- 中外製薬、自治医科大学附属さいたま医療センター、医薬基盤・健康・栄養研究所(以下、NIBIOHN) 霊長類医科学研究センターによる共同研究
- 20から40歳代の女性の10人に1人が罹患しており、疼痛と不妊症を引き起こすとされる子宮内膜症の病態解明に近づく研究
- 現在、子宮内膜症の標準治療はホルモン関連製剤および鎮痛剤による対症療法が中心であり、今回の成果は、抗IL-8抗体AMY109が子宮内膜症の病態に基づく新規治療薬になりうることを示唆
中外製薬株式会社(本社:東京、代表取締役社長 CEO:奥田 修)、自治医科大学附属さいたま医療センター(埼玉県さいたま市)、NIBIOHN 霊長類医科学研究センター(茨城県つくば市)は、子宮内膜症を対象として開発中の抗IL-8リサイクリング抗体®AMY109について、サルを用いた非臨床試験における子宮内膜症の炎症と線維化改善の成果が、2023年2月22日(現地時間)に米国科学誌Science Translational Medicine電子版に掲載されたことをお知らせいたします。本非臨床試験は、中外製薬株式会社、自治医科大学附属さいたま医療センター、NIBIOHN 霊長類医科学研究センターの共同研究であり、2023年1月21日に開催された第44回日本エンドメトリオーシス学会学術講演会(高知市)においても発表しました。
中外製薬株式会社 代表取締役社長 CEO 奥田 修は、「子宮内膜症は、炎症や線維化をきたし、強い月経痛や慢性的な下腹部痛の症状に加え、不妊症の原因にもなるため、患者さんの生活や人生を変えてしまうこともある疾患です。また、現在は根本的な治療薬がなく、対症療法が標準治療であるアンメットメディカルニーズの高い疾患です。今回の共同研究により、炎症性サイトカインであるIL-8が子宮内膜症の炎症と線維化の進展に関与し、抗IL-8抗体の投与が子宮内膜症の病態改善につながることが確認されました。この成果がScience Translational Medicineに評価されたことを嬉しく思います。引き続き、革新的な新薬が望まれる子宮内膜症に対する新たな治療薬として、抗IL-8抗体であるAMY109の開発を進めてまいります」と語っています。
自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授 今野 良は、「子宮内膜症研究は臨床研究から、ネズミ等の動物モデル実験、さらにヒトと同様に月経を有し子宮内膜症を発症するサルでの非臨床試験に発展しました。病態研究は、ヒトに対する腹腔鏡手術と同じく、ビデオモニターによる詳細な所見観察、病変採取など、非侵襲的な臨床の再現を重視するとともに、遺伝子や免疫、病理分野の先端技術を用いて、新規抗体薬の開発とその評価ができました。内膜症の病態メカニズム解明に迫ることや、ホルモンを維持したままで、臨床に役立つ薬の開発を目指してきましたが、産官学のエキスパートの集結と長期共同研究が今回の成果に至ったものと思います。子宮内膜症の女性や家族の幸せに貢献すべく研究に取り組んでいきます」と語っています。
医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センター 研究員 山海 直は、「カニクイザルには子宮内膜症を自然に発症している個体もいるのですが、症状の程度にばらつきがあるため、自然発症の個体だけでは信頼できる実験結果を出すことが困難でした。今回、子宮内膜症モデルのカニクイザルの作製に成功したことで、症状の程度を均一化した個体群を対象に実験を行うことができ、信頼できる評価系の確立および抗IL-8抗体AMY109の有用性が示唆されました。子宮内膜症で苦しんでいる方が大勢いる中、本研究が役立つことを願っています」と語っています。
"A long-acting anti-IL-8 antibody improves inflammation and fibrosis in endometriosis"
http://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.abq5858
【研究概要】
- 従来型の抗IL-8抗体(hWS-4)を、子宮内膜症を自然発症したサルに投与したところ、病変の縮小や癒着の改善を認めた。そこで、リサイクリング機能を付加した改良型のAMY109抗体を作製し、外科的に子宮内膜症を誘引したサルモデルを構築して、その評価を行った
- 子宮内膜症サル17頭を対照群、AMY109低用量(2mg/kg、皮下投与)群、AMY109高用量(10mg/kg、静脈内投与)群の3群に割り付けし、4週ごとに6回投与した
- 投与前後に腹腔鏡観察を行い、ヒトの子宮内膜症領域の臨床で症状の程度を評価するために使用されるrevised-American Society for Reproductive Medicine score(r-ASRM score)をサル用に改変したスコアを用いて比較し、採取した結節性病変体積の評価、病理学的解析をより客観的・定量的に実施した
【研究成績】
- 対照群では投与前と比べてサルr-ASRM scoreが上昇(悪化)したのに対し、AMY109低用量群・高用量群ではともに抑制(改善)が示された
- 対照群では投与前と比べて結節性病変体積が増加したのに対し、AMY109低用量群・高用量群ではともに低下が示された
- 対照群では投与前と比べて病理学的線維化の変化が認められなかったが、AMY109低用量・高用量群では減弱を認めた
子宮内膜症について
子宮内膜症は、20~40歳代の女性の10人に1人が罹患し、子宮内膜組織が子宮外で増殖、剥離を繰り返し、強い月経痛や慢性的な下腹部痛を伴い、不妊症の原因となります。症状が強いときは横になったまま動けず、仕事や学校を休むなど、生活に支障をきたすこともあります。標準治療はホルモン関連薬等で、薬剤で痛みがコントロールしきれない場合には外科手術で取り除く治療法しかなく、手術を受けても数年で再発する方も多いなど、アンメットメディカルニーズの高い疾患です。子宮内膜症の病態は炎症や線維化にあることが分かってきています。サイトカインの一つであるIL-8は子宮内膜症の進行に関連すると考えられています。
AMY109について
AMY109は中外製薬が創製した、炎症性サイトカインであるIL-8に結合する抗体で、当社独自のリサイクリング抗体技術を適用した開発品です。子宮内膜症に対する標準治療であるホルモン関連療法とは異なるアプローチで、抗炎症作用により患者さんに新しい価値を提供できる抗体医薬品として期待されています。
リサイクリング抗体について
リサイクリング抗体は、中外製薬が誇る独自の抗体エンジニアリング技術の一つです。一つの抗体が抗原に繰り返し結合することで、抗体が体内でより長く作用できるよう設計されています。エンスプリング®[抗IL-6受容体リサイクリング抗体、視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防]においても適用している技術です。
上記本文中に記載された製品名は、法律により保護されています。
【出典】
ESHRE guideline: management of women with endometriosis. Dunselman GA, et al. Hum Reprod. 2014.
A long-acting anti-IL-8 antibody improves inflammation and fibrosis in endometriosis. Nishimoto-Kakiuchi A et al. Science Translational Medicine. 2023;
http://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.abq5858
(2023年2月アクセス)