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投稿日:2024年09月18日 投稿者:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所

実験的自己免疫疾患発症モデルにおけるミネラルオイルの重要性 ー構成成分であるトリデシルシクロヘキサンが実験的自己免疫疾患誘導に関与ー

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市、理事長:中村祐輔)生体機能分子制御プロジェクト・サブプロジェクトリーダーの飯島則文らは、国立病院機構北海道医療センターや国立大学法人東京大学医科学研究所と共同で、ミネラルオイルに含まれるトリデシルシクロヘキサンが実験動物の自己免疫疾患誘導に大きく影響することを発見しました。

自己免疫疾患は、何らかの理由で免疫担当細胞が自己の細胞・組織に反応し、細胞死や組織損傷を引き起こす疾患の総称です。ヒトの生活習慣に基づいたさまざまな誘因が挙げられていますが、自己免疫疾患の原因は依然として不明です。一方で、自己の抗原と結核菌死菌を不完全フロイントアジュバント (Incomplete Freund's adjuvant: IFA)と組み合わせて実験動物に接種することで、自己免疫疾患の様な病態を実験動物で誘導することが可能です。 

(成果のポイント) 

  • 実験動物に自己抗原+結核菌死菌+IFAを接種して誘導する自己免疫疾患モデルにおいて、自己抗原+結核菌死菌を実験動物に接種しただけでは、自己免疫疾患が発症しないことを確かめました。
  • IFAの成分であるミネラルオイルを自己抗原と結核菌死菌と共に接種した場合に、自己免疫疾患 (少なくとも自己免疫性脳脊髄炎やコラーゲン誘導性関節炎) が誘導されることを発見しました。
  • ミネラルオイルに含まれるトリデシルシクロヘキサンを、自己抗原と結核菌死菌と共に実験動物に接種した場合に、最も強く自己免疫疾患が誘導されることを発見しました。

今後トリデシルシクロヘキサンを用いて自己免疫疾患誘導のメカニズムを解明することで、自己免疫疾患に対する新たな治療薬の開発に繋がることが期待されます。
本研究成果は2024年7月18日に『European Journal of Immunology』にオンライン掲載されました。
ウェブサイト: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/eji.202350957

研究の背景と意義

これまでの研究から、性別、遺伝、肥満、喫煙、感染症など、さまざまな因子が自己免疫疾患を誘発する要因として挙げられていますが、発症因子は特定されていません。
一方で、1900 年代初頭に完全フロイントアジュバント[結核菌死菌+不完全フロイントアジュバント (IFA)]が開発され、多くの研究者が実験動物に自己免疫疾患を発症させる実験条件について改良を重ねてきました。その結果、自己に発現する抗原を、結核菌死菌とIFAという2種類のアジュバントと組み合わせて実験動物に接種すると、さまざまな自己免疫疾患を誘導できるようになりました。そこで我々は、自己抗原のみを変えることによって、目的とするタイプの自己免疫疾患を誘発することができる点に着目しました。

本研究の内容

本研究では、結核菌の死菌と自己抗原だけでは自己免疫疾患が誘導されず、IFA と共に接種することで、自己免疫疾患の症状が誘発されることを発見しました。IFAは、主にミネラルオイルと界面活性剤であるモノオレイン酸マンニドとで構成されています。そこで今回、自己抗原としてMOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)を選択し、自己免疫疾患誘導に関係するIFAの成分を調べました。
始めに、MOG+結核菌死菌+ミネラルオイルをマウスに接種したところ、自己免疫性脳脊髄炎が発症することが明らかとなりました。一方、MOG+結核菌死菌+モノオレイン酸マンニドをマウスに接種しても、脳脊髄炎は誘導されませんでした。以上から、ミネラルオイルをMOGと結核菌死菌と共に接種した場合にのみ自己免疫疾患を誘導する効果があることが示されました。
ミネラルオイルを分析した結果、ミネラルオイルには少なくとも12種類の炭化水素がさまざまな割合で含まれることが明らかとなりました(図1A)。ミネラルオイルに含まれる割合と同じ量の炭化水素を、MOG と結核菌死菌と共にマウスに接種したところ、トリデシルシクロヘキサンを用いてMOG と結核菌死菌と接種した場合にのみ、自己免疫性脳脊髄炎が強く誘導されました(図1B)。以上の結果から、ミネラルオイルに微量含まれるトリデシルシクロヘキサンが、MOG と結核菌死菌と共にマウスに接種した場合に最も自己免疫疾患を発症する能力が高いことが明らかとなりました。IFA は、油中水型エマルジョンで抗原を封入し、ゆっくりと放出されることで効果を示すとこれまで考えられていましたが、IFA に含まれる微量のトリデシルシクロヘキサンのみ(0.9%)では、その100倍量以上の水溶液(抗原を含みます)をエマルジョンとすることができないため、抗原を封入することができるとは考えられず、これまで考えられていたメカニズムとは異なる可能性が考えられました。

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図1. ミネラルオイルに含まれる割合と同量の炭化水素を自己抗原及び結核菌死菌と接種した場合の自己免疫疾患誘導
Aミネラルオイルに含まれる炭化水素群の割合
B自己抗原(MOG)と結核菌死菌 を2,6,10, 14-テトラメチルヘキサデカン (0.5%)、トリデシルシクロヘキサン (0.9%) または ヘキサデカン (0.01%) をC67BL/6 マウスに接種後の臨床症状を示すスコア

波及効果

病原微生物に感染した場合や強い炎症で組織が破壊され自己抗原が露出される場合などに、ミネラルオイル、あるいはその構成成分であるトリデシルシクロヘキサンが存在すると、実験動物に自己免疫疾患を誘導する可能性があることが本研究から示唆されました。今後、トリデシルシクロヘキサンを糸口として自己免疫疾患誘導メカニズムが解明され、さらに自己免疫疾患に対する新たな治療薬の開発に発展することが期待されます。

研究支援

本研究成果は、科学研究費助成事業 (科学研究費補助金) (挑戦的研究(開拓))における研究課題「T 細胞による神経活動制御機構の解明」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)事業における研究課題「組織局在型メモリー T 細胞に着目した潜伏感染ウイルスの再活性化機構の解明」および公益財団法人 大樹生命厚生財団 第53回医学研究助成における研究課題「神経変性疾患を引き起こす自己反応性活性化 T 細胞の分化誘導機構とその機能の解明」を中心に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ワクチン・新規モダリティ研究開発事業、上原記念生命科学財団、武田科学振興財団、持田記念医薬薬学振興財団、内藤記念科学振興財団、第一三共生命科学研究財団、アステラス病態代謝研究会および公益財団法人ノバルティス科学振興財団等の支援を受けて本研究が遂行されました。

論文情報

論文タイトル:Tridecylcyclohexane in incomplete Freund's adjuvant is a critical component in inducing experimental autoimmune diseases

著者:Norifumi Iijima1*§,, Tomoya Hayashi2, Masaaki Niino3, Yoichi Miyamoto1, Masahiro Oka4 and Ken J Ishii2*(*責任著者、§,代表連絡先)

1. 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 創薬デザイン研究センター 生体機能分子制御プロジェクト
2. 国立大学法人東京大学 医科学研究所ワクチン科学分野
3. 国立病院機構北海道医療センター 脳神経内科 臨床研究部
4. 国立大学法人大阪大学 微生物病研究所

掲載雑誌:European Journal of Immunology

用語解説

1.結核菌死菌:
結核菌 H37Ra 株を加熱滅菌した製剤。結核菌に発現する細胞壁の糖脂質 TDM、リポタンパク質やリポマンナンなどが、抗原提示細胞に発現するC 型レクチン受容体 Mincle や TLR2 によって認識され、炎症に関わる転写因子の活性化が誘導される。

2.アジュバント:
アジュバントは、ワクチンと一緒に投与して、目的とする免疫応答の誘導を強化するために使用される物質のこと。一般的な弱毒化生ワクチンや不活化ワクチンには、免疫応答を活性化する病原体の構成成分や核酸が含まれているので、アジュバントを添加しなくても強い免疫反応を誘導することが可能である。病原体由来のタンパク質やペプチドを用いたワクチンを接種する場合は、強い免疫応答を誘導するためにアジュバントを必要とする。不完全フロイントアジュバントは、ミネラルオイルと界面活性剤であるモノオレイン酸マンニドとの混合物であり、結核菌死菌と不完全フロイントアジュバントの組み合わせは、完全フロイントアジュバントと呼ばれている。完全フロイントアジュバントに自己抗原としてミエリン抗原、2型コラーゲンまたは網膜S抗原などを加えて実験動物に接種することで、それぞれ異なる実験的自己免疫疾患の誘導が可能である。

医薬基盤・健康・栄養研究所について

2015年4月1日に医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が統合し、設立されました。本研究所は、メディカルからヘルスサイエンスまでの幅広い研究を特⾧としており、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため、研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした国立研究開発法人として位置づけられています。
ウェブサイト:https://www.nibiohn.go.jp/

担当研究者の略歴

飯島 則文:2004年北海道大学大学院薬学研究科修了、博士(薬学)。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、現在、創薬デザインセンター・生体機能分子制御プロジェクト・サブプロジェクトリーダー。

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お問い合わせ先

本件に関する問合せ先 <研究に関すること> 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 (NIBIOHN)  創薬デザインセンター 生体機能分子制御プロジェクト 飯島 則文(サブプロジェクトリーダー) 〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7-6-8 TEL:072-641-9897 E-mail:niijima※nibiohn.go.jp (※に@を入力して送信願います。) <報道に関すること> 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 戦略企画部 広報チーム TEL:072-641-9832 E-mail:pr※nibiohn.go.jp (※に@を入力して送信願います。)
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