政府資金でバイオテクノロジーのような破壊的イノベーションの種を生むことはできるか?御上頼みがばかりが目に付く我が国の企業や大学の関係者に問いかけたい根源的な問です。私の答えは、不可能。
今年ノーベル賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授が指摘するように最近政府は応用に軸足を置いたプロジェクトばかりに力を入れる傾向にあります。典型的なのは日本医療研究開発機構(AMED)の1400億円の研究費で、トランスレーショナル研究に配分されています。既に起こった破壊的なイノベーションの種をどうやって実用化するかという研究です。派生的に破壊的イノベーションの種が生じるかも知れませんが、意図的にそれを仕組むことはできません。
では、文部科学省の科学研究費補助金のような純粋基礎研究の資金はどうか?科研費の仕組みは、既存の科学研究の体系(分類)に応じた申請ジャンルが設定されており、まったく画期的である破壊的なイノベーションを生むような研究は、応募する申請ジャンルがないという皮肉な状況になっています。例えば量子コンピュータの実用化で、現在私たちが使用している公開鍵を使った暗号化技術は破綻することは見えていますが、DNAを活用した暗号技術の研究を申請するジャンルがありません。国民の血税を研究費に投入する以上、成功確率の高い研究に投入しようという公務員(国家)の誠意が背景にあるため、どうしても実績主義と多数決主義にならざるを得ないという国の宿命があるためです。真面目に検討すればするだけ、破壊的なイノベーションを生むような多くの人が理解できない研究や不真面目にさえ見える研究から、国家資金は遠ざかってしまうのです。
こうした国家の性は歴史的にも検証できます。30年前にヒト・ゲノム解読の最初の一歩を記した研究を支えたのは、英国ではウェルカム基金、フランスではジーン・ドゥセット財団、そして我が国では笹川財団(現日本財団)だったのです。
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バイオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長に就任し、2012年より現職。厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会委員、日本医療研究開発機構(AMED)革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業評価委員など、様々な公的活動に従事。