「バイオ・クラスターは日本では成立し得ない」
だいたいこんなことを言う輩の大凡は、まずバイオ・クラスターを真面目に形成した経験がない、バイオテクノロジーに対して80年代のレガシー技術である遺伝子操作、細胞融合といったイメージを抱き続けており、また、政府が主導して投資すれば、バイオ・クラスターが形成できると誤解しています。そしていつまでもバイオ・クラスターのロール・モデルをシリコンバレーに求めているのです。つまり、頭が古く、こころが硬直して、現実を直視せず、勝手に敗者の被害妄想を抱いているということです。
現実を直視すれば、世界のバイオ・クラスターの中心は地価と俸給が暴騰し、生命科学も没落しつつある米国の西海岸から東海岸のボストンとニューヨークに急速に移行、新しいR N A技術、ゲノム編集、全ゲノム(疾患リスク解析)とリアル・ワールドのビッグ・データ解析、そしてスパコンを駆使したin silico創薬、デジタル・セラピューティックスなどが花咲いています。また今後、バイオテクノロジーを変える人工知能の研究はカナダのモントリオールなどに集積しつつあります。勿論、深圳や上海も重要なバイオ・クラスターとして存在感を増しています。
欧州では小事では比較的賢い政府がロンドン・ケンブリッジ・オックスフォードのバイオ・クラスターの再構築に成功しそうに見えましたが、大事では愚かな政府と国民がEU離脱という未曽有の混乱を招いたため、櫛の歯が抜けるように力を失いつつあります。
世界は変化をし続けているのです。抗体医薬のイノベーションに乗り損ねた日本は21世紀にバイオ敗戦を味わい、バイオ・クラスターの形成は確かに一度頓挫しました。しかし、敗者の心理状態を継続しているだけでは、二度と勝つことはないのです。「日本にはバイオ・クラスターは成立しない」という神話を打破すべく、今、山形県鶴岡市でバイオ・クラスターの形成を支援しています。
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バイオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長に就任し、2012年より現職。厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会委員、日本医療研究開発機構(AMED)革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業評価委員など、様々な公的活動に従事。