先月の末に開催された「アフリカ開発会議」のサイドイベント として、「日経アジア・アフリカ感染症会議」を主催していました。 今回はアジアで臨床試験を行うプラットフォームを官民協力で 構築することが決まったことに加えて、多剤耐性菌を制御する ため抗菌剤を持続的に開発するプラットフォームを討議する部会 の設置が決まるなど、新しい成果も得られました。
この会議で私が一番驚いたことは、アフリカを知ることによっ て、イノベーションの真の敵の正体が分かったことでした。それ は既得権です。
今やアフリカでドローンがどんどんワクチンの輸送や血液サン プルの運搬に実用化されています。既得権の少ないアフリカは ドローンやデジタルヘルス(遠隔医療)などのイノベーションの 実用化のるつぼになっています。途上国にワクチンを供給する 非政府組織(NGO)であるGAVI アライアンスの関係者は「カリ フォルニア州でドローンを飛ばすことは規制がいろいろあって 難しい。だから、アフリカのドローンのベンチャーに投資した」と 明快でした。今や多数のNGOから国際機関のUNICEFまで、 投資ファンドを創成して、アフリカやアジアのベンチャー企業に 投資を始めています。ドローン業界で売り上げ世界第二位となった 日本のドローン企業、テラドローン社も規制でがんじがらめと なった日本を嫌い、アフリカの3か国に拠点を設け、ドローンを 輸送手段として実用化しているほどです。
日本や欧州、そして米国ですら、規制でがんじがらめです。例え ばドローンが落下したらどうする?損害をどう保証する?予め 政府の許可証が必要か?ドローンの安全性審査基準をクリアし たか?そして撮影した画像の個人情報管理などなど。山のよう に規制があります。既得権者保護圧力もあります。日本では遠隔 診療が規制緩和となりましたが、初回は患者と医師が面談しな くてはならない馬鹿げた規制が残りました。古い規制と既得権者 の集団こそがイノベーションの真の敵なのです。
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バイオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長に就任し、2012年より現職。厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会委員、日本医療研究開発機構(AMED)革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業評価委員など、様々な公的活動に従事。