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インタビュー・コラム

MIYAMAN's column vol.13 迅速さこそ、バイオベンチャーの命だ

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迅速さこそ、バイオベンチャーの命だ

新型コロナウイルス(SARS- CoV- 2)感染者数は今や10万人を突 破、新規患者はイタリア、韓国、イラン、米国、日本など中国以外の地域 で増加しつつある。SNSを見る限り、中国政府の感染拡大のピークを 過ぎたという発表は残念ながら全く信頼できない。全ての発端は1月 7日に中国政府が知りながら、2週間近く情報を隠匿したことにある。 今後、中国で企業活動が本格的に再開すると、再興する危険性を秘め ている。我が国は水際対策から、北海道や大阪、神奈川などで市中感 染のクラスター(患者集団)の封じ込めに対策が移行した。3月6日に 新型コロナウイルスPCR検査が保険適応となり、一般の医療機関が 感染抑止の最前線に立つことになった。  

最大の問題はSARS-CoV-2に治療薬がないことだ。このため、国 民は不安を隠せない。こうした緊急事態に我が国も含め、世界中の製 薬企業やバイオベンチャーが立ち上がっている。そして米 Johnson&Johnson社や米Merck社、仏Sanofi社などワクチ ン開発の老舗ビッグファーマを出し抜いて、世界で初めて今月から米 国でSARS- CoV- 2に対するワクチン(mRNA-1273)の治験を開 始したのが、ベンチャー企業Moderna社であった。  

背景には同社がリードするmRNA医薬という技術革新がある。 ビッグファーマは、不活化ワクチンや弱毒化ワクチン、組換えコンポー ネントワクチンという従来技術に拘泥しているが、いずれもワクチン の開発に少なくとも1年、安全性試験も考慮すると2年以上は治験開 始に必要だ。これに対してmRNAワクチンは、SARS- CoV- 2の殻蛋 白質を合成する設計図となるmRNAを直接患者の筋肉に注射する 製剤である。mRNA自体は我々の身体の中でも大量に合成される物 質で、安全性の懸念は少ない。しかもmRNAは酵素反応で大量合成 可能であり、SARS-CoV-2の遺伝子配列が公表されたわずか2カ月 弱でMrna-1273を米国衛生研究所に出荷することができた。我が 国でもアンジェスがDNAワクチン、Trans Chromosomicsが DNA免疫法によるヒト抗体治療薬開発に着手した。  

正に迅速さこそバイオベンチャーの真骨頂なのだ。

miyata.png 宮田 満 氏
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バイオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長に就任し、2012年より現職。厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会委員、日本医療研究開発機構(AMED)革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業評価委員など、様々な公的活動に従事。

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