創薬研究分野では疾患メカニズムの理解や新規治療法の開発などのさまざまなニーズに対して、新たな知見をもたらすシングルセルおよび空間的遺伝子解析が有効な手法として注目されています。
このオンラインシンポジウムでは、シングルセルと空間的遺伝子発現解析が解明するがん研究、そして新規治療法の開発と実用化について、2人の先生に議論していただきます。
がん研究と治療の新たな世界を切り開くシングルセル解析技術の最前線を学ぶ機会です。皆様のご参加を心よりお待ちしております。
『シングルセルマルチオミクスによる臨床検体の解析と日本発エピゲノム創薬』
東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 山岸 誠 先生
現在の疾患研究における、発症メカニズムの解明、新たな治療法の開発、精密な早期診断や早期治療介入の実現、などの多様なニーズに対し、シングルセル解析は新たな知見を生み出す有効な技術である。我々は極めて予後不良な成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)を対象に高深度ゲノム解析、シングルセルレベルの遺伝子発現解析(scRNA-seq)、オープンクロマチン構造解析(scATAC-seq)を組み合わせることによって多様な前がん状態の細胞の特性や多段階発がんメカニズムの一端を示した。さらにメチル化ヒストンに対する阻害剤の日本発創薬に成功し、有効性、作用機序、耐性化機序を最近明らかにした(Nature 2024)。本講演では、シングルセル技術を中心とした多層的なオミクス解析研究や創薬の実用化研究について、我々の経験を踏まえて議論したい。
『卵巣明細胞癌の治療抵抗性メカニズムの解明と新たな治療法の提案』
新潟大学医歯学総合病院 産婦人科 森 裕太郎 先生
本研究では、難治性癌の1つである卵巣明細胞癌の手術検体を用いてシングルセル解析と空間的トランスクリプトームの統合解析を行い、HIF-1陽性の治療抵抗性癌細胞群が癌関連線維芽細胞(CAF)と近接して存在していることを明らかにした。さらに、卵巣明細胞癌スフェロイド培養とCAFの共培養モデルを確立して機能的検証を行ったところ、癌細胞が放出するPDGFがCAFの活性化を介して抗癌剤抵抗性を促進することを発見した。共培養モデルおよび移植腫瘍モデルを用いた検証を行い、受容体型チロシンキナーゼ阻害剤によりCAFの活性が抑えられることがわかり、CAFの抑制が抗癌剤の腫瘍抑制効果を増強することが明らかとなった。これらの結果より、卵巣明細胞癌組織には癌細胞とCAFによる抗癌剤抵抗性領域が存在しており、CAFを標的とした薬剤は抗癌剤抵抗性の克服に向けた新たな治療法となる可能性があると考えられる。
参加費
無料