LINK-Jアカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム2025
Premium Networking Day参加企業に聞く①
メドテック(医療機器、デジタルヘルス、ヘルスケアサービス等)領域での事業化を検討中もしくは事業化直後の研究者やチームを支援する「アカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム」。2025年12月13日のPremium Networking Dayでは、全15チームがピッチと質疑応答に臨み、6チームに優秀賞、1チームにオーディエンス賞が贈られました。受賞したチームの代表者に事業内容や今後の展望などをお聞きします。今回お話を伺ったのは、株式会社bionto 代表取締役の妹尾浩充氏です。
妹尾浩充氏 (株式会社bionto 代表取締役)
映像コンテンツ制作からヘルスケアへ
――まずは自己紹介をお願いします。
妹尾 私は研究者ではなくビジネス畑の人間で、映画など映像コンテンツ作りに約20年従事してきました。最終的にはプロデューサーとして作品の企画からお客様に届けるところまで携わり、Amazonプライムビデオではコンテンツ配信ビジネスの立ち上げに関わっています。
しかし、コンテンツを作ること自体に注力しても、それが誰に、どのような形で、どこまで届いているのかを把握できていないのではないかと思い、ビジネスのスキルや経験を積みたいと2019年、ITスタートアップに転職しました。折しも新型コロナウイルスの流行で、働く場所の選択肢が広がり、住環境などを考慮して、妻の地元である宮城県に移り、フルリモートで勤務したことが、仙台とのご縁との始まりです。
自分が望んで得たスキルとキャリアが社会でどう評価されるのかと次のステップを考えていたところ、縁あって東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社の「客員起業家(EIR)」に選ばれました。
2024年2月の活動開始以降、フルコミットで共同創業することを前提に東北大学を中心にいろいろな技術や研究者をリストアップし、実際にお会いして話を伺い、半年くらいで数人の候補に絞りました。
素晴らしい技術を使ってどんなビジネスが作れるかという観点や共同創業する研究者とのパートナーシップなどを考慮し、西澤松彦教授(東北大学大学院工学研究科・医工学研究科)とともに2025年3月に創業しました。自分が医学やヘルスケアに関わるとは思っていませんでしたね。
「技術がユーザーに届く」とイメージできた
――西澤先生の技術に着目されたのはどういう観点からですか。
妹尾 イオンとエレクトロニクスを組み合わせた「生体イオントロニクス技術」が基盤技術ですが、製品にどのように応用され、エンドユーザーに届くかがイメージしやすかったのです。例えば、水を加えるだけで発電し、皮膚に安全な微弱電流を流すことが可能な「バイオ電池」。金属電池などのデバイスは使用しないスキンパッチシートの形状で用い、微弱電流が薬効成分や美容成分の浸透を促します。顔や指など体のどこにでも柔軟にフィットし、かつ安全です。
台形型マイクロニードルを皮膚に押し当てるデバイスは、まさに「刺さない注射」です。電気浸透流をつくり出して皮膚内部への一方向の水の流れを生成させ、非侵襲的な薬剤投与を可能にします。
このほか、イオントロニクス技術を発展させたカフ型のハイドロゲル電極は、てんかんなどへの応用が考えられます。脳の神経束などに柔らかく巻き付き、固定を維持。金属を使用しないのでMRIなどの画像診断を妨げません。これについては、西澤先生が別途医療機器メーカーと組んで医療機器として承認申請を目指しています。
――2025年3月の創業ということは、資金調達はこれからですか。
妹尾 資本金300万円で始め、2025年9月にベンチャーキャピタル(VC)から最初の出資を受けて今に至ります。シードラウンドを長めにして、ファーストクローズ、セカンドクローズの形で動いているところです。
VCからは、大手化粧品メーカーと商品の共同開発契約を締結したことやチームを構築できたことなどが評価されました。上市までの計算は立っているので、市場のニーズと合致すれば、成功軌道に乗ると思っています。
現在、社員は私を含めて4人。正社員が3人で、うちビジネス側に2人。もう1人は、量産化に向け研究室とエンジニアリングの橋渡し役を担う技術開発責任者になります。西澤先生は、最高科学責任者(CSO)として執行役員のようなポジションです。
成分を皮膚から浸透 医薬にも美容にも
――ビジネスとしてはどのステージですか。
妹尾 先ほど紹介したコア技術をさまざまな形の製品に応用していくため、商業化に向けて開発が進むものもあれば、より基礎に近い研究が必要なものもあります。
現在、動いているのは大きく2本。1つは、成分を角層奥深くに届ける美容用途のプロダクトで、メーカーと商品開発あるいは研究開発をしています。もう1つは、薬物を皮膚から表皮への局所投与、また真皮への投与による全身に送達するDDS(ドラッグデリバリーシステム)で、製薬企業と共同研究に向けて「前臨床の前の検証」に取り組んでいます。
さらにオーラルケアデバイスなどもあり、計4、5本の開発プロダクトがあります。いずれも我々が直接販売するのではなく、マーケットを知るメーカーに製品を卸すビジネスモデルです。
――上市はいつ頃を予定していますか。
妹尾 早いものとしては、バイオ発電スキンパッチシートを2026年に、フルパワーの製品を2027年に上市する予定です。
――フルパワーとなると、薬機法などの規制対象になりますか。
妹尾 製品を使う部位や、どんな成分をどの程度浸透させるかによって対象になる場合とならない場合があるでしょう。法令遵守のもと、一般商品のカテゴリーで訴求する機能と、美容医療やいわゆるドクターズコスメの用途が考えられるため、それぞれの場面で検討が必要です。
――基本的には、B to B to Cで進める計画ですね。
妹尾 会社の形ができるまでは堅くいきます。その後、伸びしろがあればエンドユーザーへの直接販売に舵をきる、医薬品の方に注力するなど、いくつか道があるかと。
――そのあたりの、西澤先生のご意向は?
妹尾 「自らの技術が、論文ではなく、世に役立ってほしい」というのが創業前からの合言葉です。それに10年かかるものと翌年上市可能なものでは、課題の深さや提供の仕方が異なる。早く出せる製品を上市することも必要だ、という認識は一致しています。

イノベーター発掘プログラムで想定外のこと
――イノベーター発掘プログラムに参加されましたが、きっかけは何ですか。
妹尾 東北大学のスタートアップ事業化センターより、「推薦するから、出てみたら」と紹介されて応募しました。参加者の顔ぶれを見て、「場違いなところに来た」と思いましたが、しっかり聞いていただき、適切なフィードバックをいただけたという感想です。メンターの方とその後も連絡をとることができたり、このようなインタビューの時間をいただいたりしたのが、想定外のありがたい機会です。
――メンタリングではどのようなことがありましたか。
妹尾 メンターは3人で、Beyond Next Ventures株式会社の方、東北大学病院の方、私の先輩にあたるテック系スタートアップの創業者の方でした。先輩からは、創業経営者にしかわからない悩みを赤裸々に聞け、かなり心理的安全性を保つことができました。Beyond Next Venturesさまからは選択と集中の話を伺い、もう1人の方には医療機器の薬事に関して協力をお願いしました。メンタリングは非常に役立つと思いました。
――先輩起業家と付き合いが続いているのはいいですね。
妹尾 通常は会いたくても会えないですし、起業家としての修羅場の話も教えていただきました。「今の状態は、特別なことではない。皆が通る道なのだ」と理解しました。
――ということは、妹尾さんも修羅場を……
妹尾 先輩が経験されたレベルまではいかないと思いますが、乗り越えてきた話はとても参考になりました。我々も必ず同じ道をたどるかは別として、「どうやってくぐり抜けて今に至るのか」、「抱える不安をどう乗り越えたか」といったことです。その先達が、バイオ創薬やデジタルヘルス以外の領域にいらしたことも大きいですね。
美容や医薬の企業とつながり、次の展開へ
――ビジネスのパートナーはどのようにして探しているのですか。
妹尾 展示会やイベントに積極的に参加しています。この技術の研究者が限られることもあって、2025年は美容や医薬の有名企業を含め、100件ほどの面談を行いました。「玄関口」までは行けたので、次に何を持っていくかが今年、来年のテーマとなります。もう1つは海外展開ですね。
――海外と言えば、韓国メーカーとの提携を発表しました。
妹尾 イオントロニクス技術と相性がよい原料加工技術を持つ韓国HAEWON T&D社と、韓国市場での美容関連事業の共同検討に合意しました。韓国は美容のトップランナーなので、他の地域に展開するときにも手を組めることになります。
薬物を皮膚から送達するのは世界的なトレンドで、シンガポールやインドなどからも興味を持たれています。私たちが気づかないニーズもあるでしょうから、この記事を読まれた製薬企業の皆様から、「この疾患にこんな課題があるが、biontoの技術を活かせるか」と宿題をいただきたいですね。仲間が増えることも期待しています。
妹尾浩充(株式会社bionto代表取締役) 映画・コンテンツのマーケティングや企画制作、プロデューサーなどを経て、Amazonプライムビデオでコンテンツ配信ビジネスの立ち上げに従事する。2019年にはデジタルマーケティングのスタートアップに移り、事業開発を担当。2024年、東北大学ベンチャーパートナーズに客員起業家(EIR)として採用された後、2025年3月にbiontoを創業。 |


