インタビュー・コラム

尿漏れに「骨盤底筋をほぐす」新発想アイテム(株式会社moreover)

LINK-Jアカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム2025 
Premium Networking Day参加企業に聞く③


 メドテック(医療機器、デジタルヘルス、ヘルスケアサービス等)領域での事業化を検討中もしくは事業化直後の研究者を支援する「アカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム」。
2025年12月13日のPremium Networking Dayでは、全15チームがピッチと質疑応答に臨み、7チームが選出されました。受賞したチームの代表者に事業内容や今後の展望などをお聞きします。今回は、株式会社moreover代表取締役の大西安季氏です。
 

大西安季氏 (株式会社moreover 代表取締役)

リハビリ現場でこっそり打ち明け

――事業を始めたきっかけを教えてください。

大西 私はもともと理学療法士で、整形外科クリニック、回復期リハビリテーション病院、訪問リハビリなどで様々なフェーズの臨床に携わってきました。そうして経験を重ねるにつれ、脳梗塞後、骨折後、腰痛、五十肩といったリハビリ対象の疾患・症状の他に、下半身の悩みを耳にすることが増えてきたのです。尿漏れや頻尿などで「外出したくない」、「水分を控えている」、「周囲に匂っていないか気になる」と、こっそり打ち明けられるようになりました。

ある時は、訪問リハビリをしていた患者さんの娘さんから「実は」と相談がありました。30代の方でしたが、尿漏れパッドを5年以上使用しているとのことで、「まあ、いいか」という気持ちだったそうです。そこで、自主トレーニング的な対処法を紹介すると、尿漏れパッドが不要になるくらい改善したと、こちらが驚くくらいに喜んでくださいました。

「たかが尿漏れ」と思われがちですが、デリケートな部位ということもあり、小さなことの積み重ねがその人の生活に大きな影響を及ぼしていると痛感しました。早い段階から骨盤底筋をケアし、尿漏れを予防できる社会を作りたいと思ったのです。

筋肉を鍛える前に「ほぐす」

――ケアと言えば、筋トレですよね。

大西 骨盤底筋を鍛えるトレーニングについては日本でも海外でもエビデンスが蓄積されていますが、残念ながら症状が良くならない人もいます。速効性に乏しく、やり方が正しいかどうかも分かりづらいため、効果が得られる前にドロップアウトしてしまうケースも少なくないと思います。

腰、肩の痛みや凝りはつらいですし、生活に支障をきたして“pain”が強いのに対して、尿漏れは痛くも痒くもなく、パッドを当てておけば吸収してくれて、日常生活は可能です。「まあ、いいか」、「当てておけばいい」という方向に行きやすい。泌尿器科の受診を促しても、抵抗があったり、「それほどではない」と思ったりして、データでは受診率は1~4%です。

――アンメットニーズがある、と。

大西 一般的に筋肉は、ストレッチや準備運動で温めてからトレーニングすると、より効果的に鍛えられるのですが、骨盤底筋に関しては、鍛える方にばかり目が向いていたのが現状です。

そこで、市販のボールを使って「少しほぐす」というアプローチをしてみたところ、患者さんは「感覚が分かりやすくなった」と筋肉に力が入りやすくなり、症状が消失したケースがありました。これをきっかけに、骨盤底筋についてもその柔軟性に着目したのです。

――リハビリでボールを使うことはあるのですか。

大西 基本は、理学療法士が手で筋肉が硬いか柔らかいかを評価し、手を使って施術することです。一方で、筋肉はゴムのように元に戻りたがる性質があるので、ほぐした後、次のリハビリまでに使うアイテムとしてゴルフボールやテニスボールなどを提案することはあります。

「粘土で試作→座ってみる」を繰り返し

――そこから骨盤底筋セルフケアアイテム「SOKOAGE(ソコアゲ)」を開発するまでにも障壁があったのでは?

大西 マッサージ自体は古くから行われている治療法なので、尿漏れにも効果がありそうだと考えました。そのために筑波大学大学院に入学し、ボールを使って筋肉をほぐす効果を検討しました。ランダム化比較試験を含む延べ150例規模の研究で、ほぐすだけでも一定の効果があることに加え、鍛えることとの組み合わせでより高い効果が示唆されました。

ただ、丸いボールを骨盤底筋に正しく当てるのは難易度が高いようで、参加者からは「ボールを当てるのが難しい」という声が……。誰もが簡単に骨盤底筋を押圧できるアイテムが必要だと感じました。
 

――製品の設計は専門家に依頼されたのですか。

大西 まずは自宅で粘土を使って試作を行い、その後専門家に調整を依頼しました。さらに東京・有楽町にあるTokyo Innovation Base(TIB)の実証フィールド「TIB FAB」の3Dプリンターを活用して何回も何回も試作を重ね、自分自身を含めさまざまな方に座っていただきながら検証を繰り返しました。男女や体格を問わず正しく当てられる形状を追求し、販売可能なレベルまで仕上げていきました。
 

――専門家はどちらかの紹介ですか。

大西 偶然、知人の飲み会で、ある町工場の方と一緒になり、「こういうのを作りたい」と話したところ、「今度持ってきたら」とおっしゃっていただいたんです。実際にお持ちするとアドバイスをいただくことができ、何回か作り直して完成に至りました。いつか恩返しをしたいと心から思っています。
 

――椅子の座面に置き、その上に座れば自然とほぐれるのですね。

大西 そうです。自分の体重をかけると、「指圧」している状態になります。筋肉がストレッチされて血流が良くなり、ほぐれてくる。製品の底面はラウンド形状になっていて、骨盤の前傾を促します。骨盤を前後左右に揺らすと骨盤底筋も一緒に動くように設計しています。
 


「まあ、いいか」と思っている層に届けたい

――プロトタイプができたのはいつですか。

大西 骨盤底筋を押すだけの雑貨モデルと、製品が振動して筋肉を鍛えるモデルがあるのですが、雑貨モデルは2025年2月頃です。振動モデルは2026年2~3月にプロトタイプができましたが、まだ改良中です。

――振動モデルも医療機器ではなく、雑貨品として販売するのですか?

大西 そのつもりです。実は最初に市場投入するのは振動モデルの予定でしたが、振動の最適化にもう少し時間がかかることや、尿漏れを「まあ、いいか」と思っている層に早く届けることを優先して、雑貨モデルから発売しました。応援購入サービス「Makuake」で先行販売を実施しました。現在は先行販売を終了し、量産に向けた準備を進めており、2026年8月頃からの販売開始を予定しています。
 

――資金面はどういう手当てをされていますか。

大西 自己資金と銀行融資、それに東京都からの補助金です。当初、M&Aを目指してVCやエンジェル投資家も含めていろいろな方とお話ししましたが、「今は製品のコンセプトをしっかり構築する時期。実績を積んで市場性を確認した段階で、エクイティを検討すればよい」という結論に達しました。

――チームのメンバーはどこで出会ったのですか。

大西 整形外科クリニックで一緒に働いていた理学療法士、TIBに掲示したヘルスケアデバイスの人材募集の付箋を見て連絡をくださったエンジニアです。
 



参加者、内容ともに「学び」 イノベーター発掘プログラム

――メドテックイノベーター発掘プログラムはどこでお知りになりましたか。

大西 筑波大学の国際産学連携本部から提案がありました。LINK-Jのホームページを拝見すると多岐にわたる取り組みをされていたので、「ぜひ」と手を挙げました。

――他のコンテストに出場経験がある中で、どのようなことを期待されていましたか。

大西 これまで出場したビジネスコンテストには、大学発や研究開発型のスタートアップの参加者はあまりいなかったと思います。今回は要項にヘルスケアとあったので、そのような人が集まる中で研究開発の視点でアドバイスをいただくことができそうだ、気付きや学びがありそうだと参加しました。

――他のチームの発表をお聞きになって、いかがでしたか。

大西 同じ研究室や大学のメンバーで構成するチームも多かったのが印象的でした。専門的な視点とビジネスの視点、どちらも重要ですから、研究できる環境があってビジネスとしての検討もできるのはいいですね。私も、熱量と興味を持ってくださる研究機関、研究者を探したいとの思いが高まりました。

――フェムテックは注目されていますよね。

大西 先行販売の購入者で一番多いのが50代女性ですが、次は40代男性。フェムテックと言っても、下半身の悩みは女性に限らないので、男性もケアをしていただきたいですね。SOKOAGEをパソコンの横に置き、コーヒーを飲むのと同じ感覚で、疲れたらお尻の下に入れてもらうシーンを想定しています。

実際に、企業から「すべての会議室に置きたい」、「福利厚生として、気にしている社員に渡したい」という問い合わせがあります。デザインにもこだわりましたし、オフィスに普及させるB to Bも「あり」ですね。どちらにしても、症状の有無に関わらず、骨盤底筋のケアを始めていただきたいと思います。早いに越したことはありません。


大西安季 (株式会社moreover代表取締役)

理学療法士として10年以上、病院、クリニック、訪問看護ステーションなどに勤務し、患者のリハビリテーションに携わる。その後、筑波大学大学院人間総合科学学術院で骨盤底筋の柔軟性へのアプローチを研究し、筑波大学より博士(スポーツ医学)を授与。2022年より「SOKOAGE」の開発を始め、2024年1月に株式会社moreoverを設立。社名には「漏れ(more)を終わらせる(over)」という決意を込めた。同年11月、筑波大学発ベンチャーに認定される。
 

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