インタビュー・コラム

血管新生を促す「細胞×足場」技術で実用化へ挑む(株式会社セルフォールド)

LINK-Jアカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム2025 
Premium Networking Day参加企業に聞く④


メドテック(医療機器、デジタルヘルス、ヘルスケアサービス等)領域での事業化を検討中もしくは事業化直後の研究者を支援する「アカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム」。2025年12月13日のPremium Networking Dayでは、全15チームがピッチと質疑応答に臨み、6チームに優秀賞、1チームにオーディエンス賞が贈られました。受賞したチームの代表者に事業内容や今後の展望などをお聞きします。今回は、株式会社セルフォールド代表取締役の山原研一氏(兵庫医科大学先端医学研究所分子細胞治療部門 部門長・教授)にお話を伺いました。
 

山原研一氏 (株式会社セルフォールド 代表取締役)

細胞治療を「医療機器」で

――どのような技術をお持ちなのですか。

足の血流が非常に悪い「重症下肢虚血」の治療に対し、患者さん自身の血液から、CD34陽性細胞などの造血幹細胞、リンパ球や単球を含む単核細胞を採取して、これらの細胞が分泌する血管新生因子を活用する方法です。ただし、細胞をそのまま注射しても血流に乗ってその部位から離れてしまうため、局所に細胞を留めるための足場として、直径50マイクロメートルの注射可能な球状粒子を開発しました。

この「移植用細胞足場」(Injectable Cell Scaffold:ICS)を細胞と一緒に注射すると、粒子の周囲に細胞が保持できる仕組みです。粒子は、吸収性高分子の表面にハイドロキシアパタイトをコーティングした構造で、細胞が付着しやすいように設計しています。
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通常、細胞治療は再生医療等製品として扱われますが、本技術は培養フリーであるため、PMDAと相談すると医療機器で承認可能であることが分かりました。細胞を使った治療でありながら、医療機器の枠組みで細胞治療を実現できるアプローチであることが大きな特徴です。難治性潰瘍など他の虚血性疾患、あるいは脂肪幹細胞との併用で自由診療の豊胸術にも展開可能です。

――事業化のきっかけをお聞かせください。

10年ほど前に遡りますが、当時勤務していた国立循環器病研究センターで、別の研究室の古薗勉先生が開発されていた「細胞の足場であるICS」に出会ったことが始まりでした。古薗先生が近畿大学に移られ、私が兵庫医大に移った後も交流を続ける中、この技術の臨床応用にコミットすることになりました。基盤技術は確立されており、その臨床応用するところをお手伝いしています。

最大の課題は資金調達

――昨年8月に株式会社セルフォールドを設立されました。

探索的治験でヒトに使用して効果がありそうだとわかったので、自分で起業して事業化することになりました。製品開発には非常に高額な費用がかかり、アカデミアが公的資金で賄える規模を超えます。できるだけ早く創業して、資金調達を通じてより大規模な開発を実現したいと考えました。

それに、本技術は細胞を使った治療ですが、「医療機器のカテゴリーでいけるかもしれない」と早い段階で直感したことも創業につながった大きなきっかけです。医療機器の場合、比較的明確な治験プロセスを経て上市を目指せる点も背景にあります。

――チームメンバーはどうなっていますか。

これまでの研究活動を通じて信頼関係を築いてきたメンバーで構成しています。この医療機器を開発した古薗先生に技術顧問、また、同じく大阪公立大学で血管新生の専門家であり、動物モデルでの有効性を確認してこられた福本真也先生に医学顧問として参画いただいています。コアメンバーとして、私がCEO、バイオX株式会社でR&Dを担当する小粥康充先生がCTO、再生医療で長年の付き合いがあり、東京都健康長寿医療センターで臨床研究をやってこられた金井信雄先生にCMOとして参画いただきました。

――起業に当たってどのような苦労がありましたか。

実は私にとって4社目の創業となるため、最初に行う登記や定款作成などの基本的な手続きは慣れています。メンバーを集めるのもさほど難しくありませんでしたが、現在最も苦労しているのは資金調達です。

以前と比べて投資環境が厳しくなっており、VCの方々も慎重に投資判断をされるようになっていると感じてます。市場規模の詳細な分析や年間の売上規模など、より厳密な事業計画が求められるようになりました。

そこで、今回のイノベーター発掘プログラムをはじめ、様々なピッチイベントに積極的に参加し、投資家の皆さまへの情報伝達、認知度向上、接点作りに努めています。その過程で、市場規模を考慮した投資家の意見もあって海外展開を視野に入れるようになり、米国でのFDA相談も準備を進めています。

米国展開を目指す中で感じたジレンマ

――米国市場は大きいのですか。

はい。市場規模は日本より大きいのですが、重症虚血肢に対する治療のアプローチが異なります。日本では非侵襲的な治療法から手術まで、患者さんの状態、生活状況、意向に応じて治療を組み立てていく傾向がありますが、米国では入院期間短縮や医療費節減の観点から、切断が選択されるケースが比較的多いとされています。人口比からすると、米国の方が患者数は多いのですが、我々の医療機器の適応となる患者は想定より少ない可能性があります。保険システムも複雑です。

一般論として米国の承認審査では主たるmode of actionが重視されるので、細胞治療による血管新生療法と判断され、要求される試験が異なる可能性がありますが、ぜひ資金調達をして次の日本での検証的治験を成功させ、米国でも上市したいと思っています。

――患者さん視点では、治療の選択肢は増えることは望ましいことだと思います。

研究者および医療者として「安くて良い治療」を目指してきましたが、研究成果に対してアカデミアからの評価は高くても投資家の評価は今ひとつと、ズレがあります。有効性が同じでより安価な治療が必ずしも良いとは言えず、原価を抑えすぎると、流通経費などを考慮した際にビジネスとして成り立たない可能性があるからです。この点は研究とビジネスが全く異なる点で、大変勉強になりました。現在は簡便な投与法の開発などで付加価値を高めることも議論しています。

同じステージの起業家から「見せ方」を学ぶ

――イノベーター発掘プログラムに参加してみて、いかがでしたか。

VC、CVCの方々の認知度の維持・向上は図れたと思います。特に製薬企業の方に、我々の医療機器がどのように映るかわかりませんでしたが、ネットワーキングで「医療機器なのか、再生医療なのか」など、いろいろな質問をいただきました。

さらに、同じようなステージの起業家と横のつながりができたことが大きな収穫でした。見せ方やアプローチの仕方大変参考になりますし、同じ思考回路を持つ研究者がいることは励みになります。
 

起業支援や投資のサポート、情報共有を

――これまでの起業経験から見えてくるベンチャーの課題はありますか。

繰り返しになりますが、ネックは資金調達につきます。大学の研究者が起業して資金調達をするには別のエネルギーが必要で、簡単にはいきません。海外の投資家からは、大学との兼業ではなく、事業専任であることが求められます。研究者からすれば、うまくいくかどうかは結果を見ないとわからないので、難しいところです。

大学の研究者が起業する際のサポート体制の充実や、研究者から事業を請け負うような人材が必要ではないかと考えています。

米国を見ると、サイエンスを理解している投資家の層が圧倒的に厚く、ボストン、フィラデルフィア、ヒューストンなど各都市に充実したエコシステムが構築されています。日本では東京にVCが集中している傾向があり、サイエンスに対する「目利き」の人数も限られ、1回の投資額も小さい。それもあって日本はチーム数が限られますが、悩んでいることは共通するので対面で定期的に情報共有したり、課題について議論したりする場があると良いですね。
 


山原研一氏 (株式会社セルフォールド 代表取締役)

1996年、大阪市立大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院第二内科で研修。その後、京都大学大学院医学研究科博士課程、インペリアル・カレッジHarefield Heart Science Centre博士研究員を経て2006年9月より国立循環器病研究センター再生医療部室長を務める。
 2018年4月、兵庫医科大学先端医学研究所医薬研究開発部門准教授。2021年4月、同研究所分子細胞治療部門 部門長、准教授。2022年4月より部門長、教授(現職)。2025年8月に株式会社セルフォールドを設立し、代表取締役となる。
 

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