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インタビュー・コラム

MIYAMAN's column vol.14 新型コロナが暴いた政治と科学の隙間風

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迅速さこそ、バイオベンチャーの命だ

新型コロナウイルスの流行は、政府と科学との微妙な関係を露わにした。社会にとって科学とはどんな機能を果たすべきか、一度整理する必要がある。科学無しには経済や医療が動かなくなった今、私たちは科学に何を期待し、何を期待すべきではないのか?

 「その件を私は聞いていない」と狼狽気味に答えたのは、新型コロナウイルスの流行を先進国の中では最小限にとどめることに貢献した「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下、専門家会議。脇田隆字座長)の副座長である尾身茂独立行政法人地域医療機能推進機構理事長だ。その失望と疲労がにじんだ表情が、わが国の政府や政治家が科学を疎んじてきた現実を表していた。

 20年6月24日、新型コロナウイルスの流行第一波が収まった時点で、専門家会議は流行の第二波に備えるため、今までの専門家会議の反省と機構改革を提案する記者会見を日本プレスセンターで開催していた。まさに同時刻、西村康稔経済再生担当大臣が記者会見を開き、専門家会議の解散を唐突に発表したのだ。専門家会議のメンバーは誰一人承知していなかった。廃止の理由は専門家会議は法律に基づいておらず、インフレンザ特措法に基づく有識者会議の分科会に再編成するというもの。後日、西村大臣は言葉が足りず専門家会議に失礼な扱いをしたことを詫びる失態を示した。

 専門家会議の記者会見で気になったのが「『一年以上の長期戦となる』、『無症候の感染者も新型コロナウイルスを感染させる』という文言を報告から政府によって削られた」という発言。国民がパニックになるという憶測で削除したことは、国民の知る権利の侵害だ。

 専門家会議は中立的な立場から科学的意見を政府に具申し、国民にも広く知らせる。政府は科学者の意見を聞きながら、経済活動や出先機関や自治体の能力、外交関係を考慮しながら、感染防止策を練り上げ国民を納得させる。こうした理想的な科学と政府の距離感を我が国でも実現しなくては、政府への信頼を失い第二波の備えはおぼつかなくなる。

miyata.png 宮田 満 氏
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バイオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長に就任し、2012年より現職。厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会委員、日本医療研究開発機構(AMED)革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業評価委員など、様々な公的活動に従事。

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