11月6日から7日、国内外より感染症対策に関連する行政機関・団体・学会など、産官学のステークホルダーをパシフィコ横浜に集め、第7回日経・FT感染症会議を開催した。2014年から日経アジア感染症会議として立ち上げ、毎年パンデミックに対する備えとアジアの感染症を解決するための官民協力(P3)プログラムを提案してきた。人類の歴史を考えれば、感染症対策こそ文明の盛衰や各国の経済の浮沈を決めてきた。感染症への良き備えのある国が栄えるのだ。時には物事を巨視的に考えると、今やるべき事が見えてくる。バイオベンチャーの創業も歴史観の裏付けのある先見性が必要である。
会議では我が国の新型コロナ感染症対策の総括(中間評価)を行った。我が国政府の感染症対策を科学的に支えてきた尾身茂地域医療機能推進機構理事長が、日経・FT感染症会議の議長を務めており、内情に触れる議論となった。以下が指摘された問題点である。1)パンデミックに対する準備不足、H1N1インフルエンザの流行の報告書は策定されていたが、紙では記憶や危機感覚を伝えきれなかった、2)欧州からの第二波を阻止できなかった水際対策、3)臨床検査の標準化と品質管理が未確立、4)PCR検査のキャパシティ不足と法定検査への拘泥、但し、検査数と感染抑制には整合性がなかった、5)現場の情報が意思決定部署と十分共有できなかった、国が掌握していたデータは都道府県の記者発表の集計に過ぎない、6)IT基盤と情報活用の制度が未整備だった、7)HER-SYSなどデータ共有システムの機能不全、8)プライバシーと公共の福祉のバランスに関する国民とのコンセンサス不足、9)感染対策を構築するために必要なClinical Questionを解く研究組織未整備、10)オールジャパン体制の構築の遅れ、当初は厚生労働省のみが対応していた、11)専門家と意思決定者の不明確な責任分担、12)マスクや診断試薬などは海外に過度に依存、13)リスクコミュニケーション不十分、14)特にパンデミックが慢性化した時期に必要な感染症対策の意思決定への市民参画が不十分、などである。
これらを一言でいえば、我が国の国家としてのガバナンス不全だ。この病を規制緩和と民間活力の導入で治療しなくては、この冬の流行第三波に対応することも覚束ない。
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バイオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長に就任し、2012年より現職。厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会委員、日本医療研究開発機構(AMED)革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業評価委員など、様々な公的活動に従事。