起業を通して医療と向き合う医師にフォーカスを当て、起業経験のある医師たちによる現状と課題について議論するイベント、「起業家医師リアルトークナイト~起業した医師に飲みながらゆるーく何でも聞いてみよう~」を1月29日(水)、日本橋ライフサイエンスビルディングにて開催いたしました。今回は、12名の起業家にご登壇頂き、ショートピッチとパネルディスカッションを行いました。
【登壇者】
内田 毅彦(株式会社日本医療機器開発機構)
山本 雄士(株式会社ミナケア)
鍵本 忠尚(株式会社ヘリオス)
石見 陽(メドピア株式会社)
佐竹 晃太(株式会社CureApp)
原 聖吾(株式会社MICIN)
物部 真一郎(株式会社エクスメディオ)
杉本 真樹(Holoeyes株式会社)
藤本 幸弘(株式会社BioFotic)
矢崎雄一郎(元テラ株式会社)
金子 和真(株式会社Linc'well)
小川 晋平(AMI株式会社)
まず、本イベントの企画者の一人であるLINK-Jサポーターの内田氏より、イベント趣旨をご説明いただき、各登壇者から事業内容やビジョンについて3分間にてご紹介頂きました。
医療機器など医療イノベーションの研究開発や製造販売、スタートアップ支援、コンサルティング業務実施している(株)日本医療機器開発機構の代表取締役である内田氏から、同社について「良いアイディアつまり、発明とインプリメンテーション(事業化)がセットになって社会に価値を生み出して初めてイノベーションになります。日本ではインベンションとして良いものをつくる人は多くいますが、ヘルスケア、特に医療機器においてはインプリメンテーションについてはあまり強みがないところに問題意識を持っています。そこをワンストップで事業化し、インプリメンテーションする会社です」とご紹介頂きました。
健康経営やデータヘルス支援事業を展開する(株)ミナケアの山本氏は、「医療の制度設計や医学部教育、医療のビジネスモデルをもっと新しくしていくことで、医療のバリューを上げることができるという強い信念があります。事業ではデータを用いて、医療の様々なステークホルダーを巻き込み直し、新しい価値を生み出すことを目指しています。まずは企業や自治体、保険者を対象に健康や医療へのコンサルティングを提供しています」とご紹介頂きました。
細胞医薬品・再生医療等製品の研究開発や製造を事業とする(株)ヘリオスの鍵本氏は、「医学部卒業後にバイオベンチャーを起業し、眼科で用いられる手術補助剤がFDAで承認されました。ヘリオス社は、2011年に事業を開始し、2015年にマザーズに上場しました。現在は、脳梗塞とARDS(急性呼吸窮迫症候群)の治験を実施しています。iPS細胞のプラットフォームや細胞医療の新たなフロンティアに対して、グローバルに医薬品を出していきたい」とご紹介頂きました。
医師専用のコミュニティサイト「MedPeer」の運営をするメドピア(株)の石見氏は、「2004年に創業、2014年に上場し、会社としては16期を迎えます。医師をしっかり支援して、その先にいる患者を救うようなサービスを世の中に出す会社として事業をスタートしました。今は医師の3人に1人、12万人がMedPeerの会員です。代表的なサービスに日本初の"医師による医師のための医薬品の処方経験共有サービス"である薬剤評価掲示板があります。」とご紹介頂きました。
治療用アプリという新たな医療アプローチを展開する(株)CureAppの佐竹氏は、「創業して6年目となります。『ソフトウェアで治療を再創造する』を掲げ、医療現場で医師が薬ではなく、アプリを処方して病気を治療する取り組みを世の中に広めたいと考えています。ニコチン依存症治療用アプリについては、一昨年日本で初めてアプリの治験を実施し、承認手続きを進めています。他に、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)や高血圧などの臨床試験も実施しています」とご紹介頂きました。
医療データをAIなどで解析、活用するデータソリューション事業や、オンライン診療サービスなどのアプリケーション事業を提供する、(株)MICINの原氏は「『すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界』をビジョンとしています。医師と患者をオンラインでつなぎ診療するサービスは、導入医療機関数約1700件と広がりを見せています。医薬品の臨床試験への技術活用も進めており、試験の低コスト化や医療従事者の効率化、臨床試験時のデータの質の向上等が期待されます」とご紹介頂きました。
ネットワークを利用した医療支援ソフトウェアやITサービスを提供する(株)エクスメディオの物部氏は、「2014年12月に創業し、6年目となりました。ヒポクラ×マイナビというサービスをしています。医師と医師をつなぎ、臨床や研究現場での課題解決に導くサポートツールです。医局のソファをオンラインで再現することを目指しています。ユーザは約5万人となり、昨年の4月にマイナビにグループインすることが出来ました。」とご紹介頂きました。
医療情報を活用し、医師を助けるツールを提供するHoloeyes(株)の杉本氏は「レントゲンやCT撮影したデータを専用サイトへアップロードすることで、10分でVR/MR用のアプリを自動生成します。市販されているゴーグルで見ると、3Dで内臓が透けて見え、若い医師の教育や、手術時の安全性を高めることに使うことができます。世界各国で約70施設に導入し、個人情報がない状態のビッグデータが集まってきています。田舎の病院でも簡単にできるような医療サービスや、データビジネスへの展開を考えています」とご紹介頂きました。
医療機器や医薬品のエビデンスを検証する業務をされている(株)BioFoticの藤本氏は、「物理、化学、生物という自然科学3系統の手法によって様々な製品や機械の立証に取り組んでいます。キャリアとしては、医師、研究者、経営者としての経験があります。医療では、レーザー医療を専門にしており、教科書が元々ない分野のため、自らエビデンスを取得する必要がありました。脳と音楽との関連性について関心があります。ファンクショナルMRIによる解析ができるようになってきたので、今後も音楽を解くというところに取り組んでいきたいです」とご紹介頂きました。
樹状細胞ワクチン療法や細胞医療を提供するテラ(株)の元代表である矢崎氏は、「2018年の3月末で退職し、現在は医療現場で免疫療法の開発をしています。テラ(株)を2004年に創業し、樹状ワクチン療法を自費診療からスタートし、現在はすい臓がんを対象に治験を開始し2020年に承認を目指しています。改めて医療現場に入り、がんの早期診断、検査など予防医療で免疫療法を活用しようと取り組んでいます。新しいビジネスの可能性が出てきたら実用化していきたいと思います」とご紹介頂きました。
クリニック向けの業務改善SaaSや診療予約プラットフォームなどを提供する(株)Linc'wellの金子氏は「クリニックチェーンを事業とする会社を2018年に創業しました。医師が非常に多くの労働時間を割いていることに対し、病院経営が赤字であることに疑問を感じたことがきっかけとなっています。マッキンゼー・アンド・カンパニーでの仕事などを通じ、海外の仕組みの良いところを日本でも実現しようと考え、テクノロジーで医療業界を改善していきたいと考えています」とご紹介頂きました。
医師の耳と脳を超える「超聴診器」や遠隔医療システムの研究開発を特徴とするAMI株式会社の小川氏は、「4年前に一人で事業をスタートし、2年間は一人でした。現在は社員も増え、資金調達を受け、特許の出願や臨床研究も積極的に行っています。「超聴診器」の医療機器開発では、センサーから接触部や外枠など様々な組み合わせでパターンを構築し、臨床研究と組み合わせながら取り組んでいます。データ解析では医療従事者が多く関わっており、もうすぐ世の中に出せる所です」とご紹介頂きました。
パネルディスカッションと質疑応答のセッションでは、杉本氏がモデレーターを務め、全登壇者が議論に参加しました。前半は起業経験のある医師同士で質問や本音トークが展開され、後半は会場からの質問に答える形式で、Q&Aを行いました。
前半のテーマでは、「エグジット経験、IPOやM&A後の会社の変化」「株主との関係について」「資金調達の総額」「資本政策」について議論を展開しました。
後半のテーマでは、「人材をどう集めるか?」「大企業に求めるもの」「MBA取得に対して、考慮しておくべきことは」「勤務医や開業医を続けた場合と、起業した場合の給与の違い」などの質問が投げかけられ、「起業は早ければ早い方がいい」、「早めに起業して1回は失敗した方がいい。2回目ならもっとうまく事業ができる」、「失敗といっても、株主には迷惑をかけない程度に」、「自分が知っている以上のことに挑戦しないと学びがない」などの、登壇者からの熱いメッセージが寄せられました。
講演後は登壇者と参加者によるネットワーキングを行いました。当日は、医師の方をはじめ、医療機器メーカー、製薬企業、学生など100名以上の方に参加頂きました。参加者からは、「とても生々しいトークで楽しめました。」「こういう企画は初めてなのでワクワクしました。年配高齢の先生だけではなく若い先生の話が聞けて良かったです。」「非常に面白かったです。ぜひまた開催してほしいです。」といったご意見をいただきました。