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イベントレポート

エンジェル投資家清泉先生のリアルボイス from San Diego ~プレゼンの極意スタートアップの資金調達~を開催(5/14)

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2021514日(金)LINK-Jは「エンジェル投資家 清泉先生のリアルボイス from San Diego ~プレゼンの極意 スタートアップの資金調達~」をオンラインにて開催しました。本イベントは、LINK-Jネットワーキング・トークの第10回目として、LINK-Jサポーターでサンディエゴを拠点に長年エンジェル投資家としてご活躍の清泉貴志先生をお迎えし、アメリカでのベンチャーを取り巻く状況やエンジェル投資についてご講演頂きました。



ヘルスイノベーションのエコシステムの変遷

アメリカのヘルスイノベーションの変遷について、黎明期である1980年代~現在にかけてご説明頂きました。ベンチャーが成立するためには「革新技術」、「ベンチャー経営」、「ベンチャー資金」と三要素が必要ですが、その役割を担ったプレイヤーは年代ごとに異なっています。そしてベンチャーのエグジットにも時代の流れがあるそうです。

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90年代以前は革新技術の担い手はハーバード、MIT、スタンフォードの著名大学の教授たちに限られ、VC(ベンチャーキャピタル)は教授たちが起業をする前から相談に乗り、会社の経営の構想を練っていました。ベンチャーの経営は教授本人がサバティカルなどを利用して行い、VCが補助する形でした。

90年代前半、バイオテックバブルの中で大手企業とベンチャーとの提携(アライアンス)が多くなっていきます。その一方ベンチャーに出資していたVCは出資した分を回収し利益を上げる必要があり、IPO(株式上場)を提案します。結果、アライアンス+IPOというのが90年代の定番になりました。ベンチャーの経営は大学教授から、大手製薬会社の経営者をリタイアした人たちが担うようになります。しかし、創業者の大学教授が経営トップを退任したとしても、株主として取締役会での力は大きく、経営陣と相性が合わないと、経営者を辞めさせてしまうという事態も起こりました。

90年代半ばはチャレンジングな時期になります。バイオテックバブルが終わり、ベンチャーのエグジットはIPOだけでは難しくMA(合併と買収)で解決していく方向に向かいます。

90年代後半に大手製薬企業の合併が相次ぐと優秀なトップ層が流出し、ベンチャーのトップとして経営に携わる人々が増えてきます。また、VCは大学教授の研究内容はよいものであっても、投資段階としてはアーリーで直ちにM&Aの対象となるのは難しいと気がつき始めます。そこで革新技術も教授だけでなく製薬ベンチャーを含めたプレイヤーで作り出すように変化していきます。加えて、製薬会社の合併で研究所が縮小する中、製薬会社はブロックバスター(売上高10億ドル以上の医薬品)を生み出す必要が生じました。そのため既に革新技術を持つベンチャーをまるごと買い取ることで研究開発のコストやリスクを抑えることができるM&Aへの関心がさらに高まりました。ベンチャーやVCにとっても、IPOは株式市場に大きく左右され、また多くの手間や資金がかかるので、M&Aによるエグジットの流れができました。

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2000年以降になるとMAがさらに普及します。技術革新は従来の大学教授によって生み出されるだけでなく大手企業やアカデミア以外の様々なプレイヤーも担うようになり、ベンチャー資金もVCだけでなくエンジェル投資家が登場し、経営も実際にベンチャーを経験したプロのベンチャー経営者に託されることになりました。VCはファンド規模が大きくなり、規模に見合ったリターンを確保する観点から1件当たりの投資金額が大きくなり、アーリー段階のベンチャー投資には目を向けなくなりました。一方この時期に登場したエンジェル投資家はアーリーステージのベンチャーにも投資をしていきます。80年代初めは、「技術がよければ売れるはずだ」という確信から起業が始まっていましたが、今は売れ筋が作れるかどうか、市場性は高いかという市場性志向が強くなっています。

アメリカのエンジェル投資の実際

清泉先生は次に、エンジェル投資家とはどのような人を指すのか、エンジェル投資家とVCや株式投資とは何が異なるのか、についてお話頂きました。

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日本にはエンジェル投資家やエンジェルグループがまだありませんが、そもそもエンジェル投資家とはどういった人物なのかというと、アメリカでは所得面と資産面での投資適格基準が複数あり、そのうち一つでも当てはまればエンジェル投資、つまり未上場株式への投資を行えます。
エンジェル投資家とVCの違いは、何といってもエンジェル投資は個人投資であり、損得の責任は全て個人に帰すのが前提です。その点では株式投資と同じですが、一方株式投資とエンジェル投資では投資先が異なります。株式投資できるのは開示義務を果たした上場企業だけですが、エンジェル投資が投資する先は情報の開示義務のない未上場会社です。そのため投資先としてふさわしいかどうか、多くの具体的な質問を投げかけ、吟味したのちに投資が開始されます。投資先としては、5年で10倍のリターンがあるかどうか、が基準になります。もちろん5年以内で結果が出るという確約はありませんが、事業が上手く行かず投資価値がゼロになるリスクがあるので、この程度の数字を見込んでおかないと、銀行の預金と利益が変わらなかった、という話にもなりかねないそうです。ヘルスケア関連のベンチャーを投資先に選定する上でのポイントとして、最近では革新技術が「医療従事者の仕事の効率の改善に貢献する」か、「医療保険会社のコストの軽減に貢献すること」の二点に注目しているといいます。

最後に、清泉先生は冒頭でもお話された問い「なぜ患者さんは「早く健康になりたい」と思うのでしょうか?」を改めて参加者に投げかけプレゼンを終えました。清泉先生ご自身の考えとして、日々人々は「~をやりたい」という小さな幸せpetite happinessを楽しみに生活しているが、健康を害すればそれはできなくなる。病気が治れば治療は終わりというものではなく、ヘルスケア従事者は(間接的に関係する方々も含めて)、患者さんが健康になった先の「~をやりたい」というhappinessを日々積み重ねるために健康を目指している、ということを頭の片隅に置いて仕事をしていただきたく思うそうです。

質疑応答

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質疑応答は、司会のLINK-J境をファシリテーターに、視聴者からの質問に清泉先生が答える形で展開しました。時間の都合上全ての質問に回答することはできませんでしたが、「エンジェル投資家の皆さんはどのように出資額を決めているのか。アーリーフェイズのどのあたりに出資しているのか。」「投資先を判定するときに、現状の評価軸に加えてハピネスの動きで評価することはあるのか」「どのようにエンジェル投資家にアクセスすればよいのか」といった質問に、エンジェル投資家グループの実際の動き方や考え方を示しながらお話されました。

イベント後のアンケートからは「日本と全く違うエンジェル投資の環境を知ることができ、大変勉強になりました。」といった日米のエンジェル投資家の立場の比較についての感想や「今後のビジネス開発に参考になりました」といった実際の事業の見直しへの気づきとなった感想を頂き、有意義なイベントとなりました。

ご視聴いただいた皆様、誠にありがとうございました。今後もLINK-Jネットワーキング・トークへのご参加お待ちしております。

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