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投稿日:2024年11月19日 投稿者:特定非営利活動法人日本医療政策機構

【調査報告】日本の看護職者を対象とした気候変動と健康に関する調査(2024年11月14日)

特定非営利活動法人日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)(事務局:東京都千代田区、代表理事:乗竹 亮治)と新潟大学大学院 保健学研究科は、国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)の開催を前に、気候変動と健康、持続可能な医療システム、気候変動政策に関する意見を集めるため、日本の看護職者を対象に自記式質問紙票によるオンライン調査を実施しました。調査は2024年8月28日から31日にかけて実施され、日本全国の看護職として働く1,200人の看護職者から回答を得ました。

主な調査結果

【気候変動に関する認識】

  • 看護職者の多く(約70%)は、世界のあらゆる地域で気候変動が起きている事実を認識していた
  • 看護職者のほとんど(93%)は、日本において何らかの異常気象が発生していると認識しており、異常気象により生命の危険を感じている者もいた
  • 異常気象を認識している者の内、ほとんどの者(94%)は、気候変動が原因であると回答している
  • 異常気象を認識している者の多く(75.3%)は「対策をとらない限り、次世代までずっと続いていくと思う」と回答した

【気候変動に関する知識】

  • 多くの看護職者は気候変動と健康影響に関する正確な知識を有しておらず(全問正答率42%)、「プラネタリーヘルス」という言葉も浸透していない(11.2%)
  • 気候変動が健康に与える影響に関して、看護職者が教育を受ける機会はきわめて限定的である(13.5%)

【気候変動に関する職務的見解】

  • 多くの看護職者は、気候変動は重要な課題であると回答した(72%)
  • 多くの看護職者は、「気候変動と健康」に関する知識を学ぶ必要があると回答した(80%)
  • 多くの看護職者が、「気候変動と健康」に関しての学習意欲があると回答した(84%)
  • 保健医療分野に起因する温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)排出量を知っていると回答した者は少数(20%)であったが、その事実についてほとんどの看護職者が問題であると考えており(90%)、過半数が「今後も現在以上にGHG排出量が増加することを懸念している」と回答した(58.4%)
  • 多くの看護職者がより環境への負担が少ない保健医療サービスを提供するための選択肢がある場合、積極的にそれを採用すべきだと思っている(78%)一方で、約半数が具体的な実践方法が分からないと回答した(49.7%)
  • 所属施設における取組みについてそれぞれ、廃棄物管理(63%)、デジタル技術の利用(45%)、エネルギー管理(22%)、環境に配慮した施設管理(18%)、持続可能なサプライチェーンの利用(16%)、移動・輸送に関する取組み(16%)で実施していると回答した
  • 半数の看護職者(約50%)は、気候変動が及ぼす健康への影響について、患者/対象に教育する役割を担うことができると回答した
  • 多くの看護職者が、仕事以外の時間で、家族や友人・近隣住民など身近な人々に、健康・医療に関する情報提供や相談・支援をすることがあると回答した(約70%)

本調査に対して、公益社団法人日本看護協会 中野夕香里 常任理事から下記のようなコメントいただいています。

"気候変動による影響は、熱中症患者の増加や豪雨災害での対応など、最早、私たちの日々の生活や看護活動の中においても実感させられる身近な事象となっています。国際看護師協会(ICN: International Council of Nurses)は2018年の所信声明において、日本を含む各国の看護職には、人々の健康とウェルビーイングを保護し、気候変動への適応(悪影響に対する脆弱性の軽減)と気候変動の緩和(温室効果ガス排出の削減または防止)に貢献する責務があり、看護実践を変革するだけでなく、社会構造の変革を起こすために社会や政策立案者に対して働きかけるよう求めています。

気候変動の影響が日常的に感じられる今、平時~非常時の各レベルでの健康リスクについて、その影響の最小化、対処、意識の向上に向けた、様々な対象への看護の関わりが重要です。日本はとりわけ災害大国であり、すでに多くの災害時の看護支援の仕組みと経験があります。それだけでなく、私たち看護職の日々の活動の中には既に気候変動対策と重なる部分が多く存在します。

人々のいのちと健康をまもるものでありながら、同時にまた、温室効果ガス(GHG; Greenhouse Gas)排出源のでもある医療システムの一員として、そして、健康に関わる専門職として、私たち看護職が、その既存の知見や活動に「気候変動と健康」、「プラネタリーヘルス」という概念や問題意識を組込み、統合させていくことが、今後の議論と取組みを推進します。本調査が、気候変動の重要性への気づきと知見を提供し、日本の看護全体としての取組みを後押しするものとなることを期待しています。"

本調査に対して、特定非営利活動法人 日本医療政策機構 菅原丈二 副事務局長は下記のようにコメントをしています。

"日本医療政策機構では、”プラネタリーヘルス”という概念のもとで、地球環境と人間の健康が相互に影響し合うメカニズムを解明する取り組みを進めています。日本政府もこの重要性を認識しており、2023年12月に改定されたSDGs実施計画では、地球規模の課題に対する包括的な視点が強調されています。また、2024年5月に閣議決定された環境基本計画では、『勝負の10年』と称して、2030年頃までの政策選択が未来に与える影響を重視し、プラネタリーヘルスの考え方を政策の基軸に据える姿勢が示されています。さらに、2024年5月の世界保健総会(WHA)では、加盟国が気候変動に強靭で持続可能な保健医療システムの構築にコミットする重要性が強調され、日本も『気候変動と健康に関する変革的行動のためのアライアンス(ATACH)』への参加が表明され、骨太の方針にもその推進についての記載がなされています。これは、気候変動と健康の統合的な対応を推進し、革新的な解決策を国内で進めるとともに、国際的な連携の必要性に基づいています。世界的にもこのテーマへの関心が高まっており、10月末にブラジルで開催されたG20保健大臣会合では、初めて『気候と健康』に関する歴史的な宣言が採択されました。今後、世界各国で政治的な変動も生じる中で、このようなG20による共通の文書がまとめられたことは極めて重要です。また、現在開催されている国連気候変動枠組み条約(UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change)の第29回締約国会議(COP29)においても、気候変動対策と健康が主要な優先事項として掲げられており、健康、教育、雇用、グリーンスキルを含む多面的なアプローチで気候レジリエンスを強化する取り組みが進められています。この、気候変動と健康の流れは、2025年にブラジルで予定されているCOP30においても継続されます。私たちは、本調査が国内の気候変動の重要性や健康への影響に対する認識を深め、保健医療関係者の行動を促進する契機となることを期待しています。"

調査まとめ

本調査では、日本の看護職者の多くが気候変動と健康との関連性について認識している一方で、正確な知識を持っている者は限定的であることが明らかとなりました。また、多くの看護職者は気候変動が重要な課題であるとの認識を示しており、気候変動と健康の関連に関する学習やGHG排出削減の取組みに意欲的であることが分かりました。これらの結果は、他国の看護職者の認識・知識・見解とも大きな乖離はみられず、日本の医師とも同様な結果が得られました。一方で、教育の機会が限定的なことや所属施設において組織的取組みが乏しい現状は、看護職者の学習や行動意欲を満たすことができない要因となっています。

調査結果から今後、期待されること

気候変動問題に関する、看護職者の学習機会の充足:

  • 職能団体・学会等が、看護職者それぞれの専門領域・関心領域に関連させて気候変動のトピックを扱い、教育機会を増やしていくことで、正確な知識を持つ看護職者が増えていくことが考えられます。

気候変動問題に関する、看護職者の取組みの推進方法および活躍の可能性:

  • 看護職者が日々行っている業務(廃棄物管理・エネルギー管理・デジタル技術の活用など)に環境への意識を広げることで、労力や負担を抑えて取組みが推進されることが考えられます。
  • 保健医療施設において多くの人数を占める看護職者が環境への配慮を意識した行動をとることで、施設の構造やシステムのようなハード面のみならず、施設管理や業務慣行などのソフト面からの取組みにおいても変化が期待できる可能性があります。
  • 多くの看護職者が私生活の時間においても身近な人々に健康・医療に関する情報提供や相談・支援をする機会をもつことから、看護職者が気候変動に関する正確な知識や行動規範を獲得することで、市民にとっての擁護者あるいは保護者、もしくは気候変動政策の提唱者として気候変動への適応策および緩和策の策定に向けての重要な役割を担うことが期待されます。
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