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インタビュー・コラム

サポーターコラム #1 『再生医療(細胞医薬品)に関わる知財と研究開発』

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現在ホットな話題や今更中々聞けないコト・・・など、ライフサイエンスに関わるあらゆる話題についてLINK-Jサポーターの意見を聞いてみたい!ということでスタートした「サポーターコラム」。
第一回は、技術開発、商業化において、押さえておかなければいけない「知財」についてです。ライフサイエンス、特に創薬における知財戦略はどういったものなのでしょうか?かつてLINK-Jサポーターでもいらっしゃった柴崎氏(現LINK-J事務局メンバー)に語ってもらいました!

再生医療(細胞医薬品)に関わる知財と研究開発

知財を特許化すれば、その内容は公開されますが、法で認められた一定期間はその知的財産権を排他的に独占することが出来ます。一方、知財をノウハウのような形で秘匿管理すれば、その内容を競合他社に知られる可能性は低くなり、また独占期間も無期限になりますが、競合他社によって先に特許化される(事業に支障が出る)などのリスクが付いて回ります。

製品におけるこの知的財産権の位置付けは、医薬品、特に低分子医薬品と自動車や家電などの工業製品では随分と違うようです。製品に関わる特許の数で言えば、工業製品には数百から数千の特許が存在し、一方、低分子医薬品に関わる特許は基本的に1製品につき1つの基本特許(物質、用途)のみと言われています。然るに、工業製品では1つの特許が製品に及ぼす影響は小さく、医薬品では基本特許が製品に及ぼす影響は甚大です(下図)。

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見方を換えると、基本特許が取得出来なければ、その医薬品に関する研究を断念せざるを得ない事態も起こり得るということになり、従い、低分子医薬品では主成分となる物質(化合物)とその用途を競合他社に先駆けて基本特許として権利化すべく、水面下でしのぎを削ることになる訳です。

昨今、研究開発の盛んな再生医療、特に細胞医薬品は、低分子医薬品とは製品の特性が根本的に異なるだけでなく、それに関わる知財も様相が異なるようです。

幾つかの疾患を対象に治験が進行中の間葉系幹細胞を例にすると、「生体内に存在することが公知の当該細胞で新規性を訴求することが出来るのかどうか?」。別の例では、「ヒト生体内のある細胞(と思われる細胞集団)を採取・培養・分化させ、その分化した細胞がある疾患に対して治療効果を示したとしても、その細胞(製品)を明確に規定・定義することができなければ(例えば、当該細胞を規定するバイオマーカーなどが無ければ)、基本特許を取得するのは難しいのではないか?」。このような疑問が細胞医薬品の知財上の課題の一つになっていると聞いた覚えがあります。

また、このように細胞医薬品では基本特許の取得が難しいケースも多々想定される為、細胞の培養方法や分化誘導方法など、当該細胞に関わる複数の周辺技術について特許を取得し、製品を保護する例が多いとも聞きます。さらに、細胞の培養技術などの中にはノウハウとして秘匿化する例もあるようです。

低分子医薬品に関わる知財は基本特許を中心にした幾つかの特許とノウハウであり、数は少ないことから1企業でそれらの全てを所有することも可能です。実際に1企業が自社保有の知財のみで製品を開発し、製造販売する例は多いはずです。一方、細胞医薬品では、上述の如く基本特許の取得が難しいことも多く、さらに、製品化までに複数の特許やノウハウも関わる為、これら知財の全てを1企業が所有するのは難しい、或いは非効率的と考える人も多いようです。

そこで、細胞医薬品を研究開発する企業の多くでは、例えば、「治療手段(モダリティ)となる細胞自体に関わる部分では、どこは特許化が可能で、どこはノウハウ化するのが得策か」、「製造プロセス上で、自社に無い技術やノウハウを自社で研究開発するのか、第三者との提携(共同研究、ライセンス・インなど)によって補完するのか」、などをケースバイケースで検討されているのではないでしょうか。

低分子医薬品の場合、一連の創薬プロセスを各企業が競合する領域と、各社で協働することが個社の技術開発の強化にも繋がるような領域(プレコンペティティブと呼ばれることの多い領域)に分け、後者では競合する企業が集まり(コンソーシアムなどを立ち上げ)、各社の知財などを活用し、例えば、創薬基盤技術などを開発する例が見受けられます。

細胞医薬品は、その研究開発、製造、知財などでも低分子医薬品と異なる点が多いことから、プレコンペティティブな領域やそのような領域に対する考え方も異なるのかもしれません。日本は再生医療の基礎研究で世界トップクラスにあり、先進的な法体系も整備されています。そのような中、再生医療(細胞医薬品)のビジネスで欧米の後塵を拝することが無いよう、企業個社の努力もさることながら、協働で競争優位性を高める工夫も必要ではないかと思う次第です(多分、そのような工夫は既に開始されていると思いますが)。

筆者は知財の素人ですが、本コラムでは再生医療に関わる知財を話題にいたしました。本コラムに続くコラムでは知財の専門家からコメントをいただければ幸甚です。
(本部中の見解に関わる部分は筆者の私見であり、筆者の在籍している或いは在籍していた組織の見解ではありません)

柴崎 雅之 氏 (元サポーター)

旧・山之内製薬およびアステラス製薬の研究部門で循環器や糖代謝領域の創薬研究に30年以上従事。研究の現場を離れてからは創薬研究の オープンイノベーションを担当し、アステラス製薬の創薬公募サイトを立ち上げる一方、産学連携・コンソーシアム 事業の展開などにも携わる。その後、再生医療イノベーションフォーラムに活躍の場を移し、事務局長に就任。この時にLINK-Jサポーターを務めたのが縁で、退任後はLINK-J事務局メンバーに加わる。

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