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インタビュー・コラム

サポーターコラム#9 『オープンイノベーションは愚の骨頂である』

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攻撃的なタイトルであるが、本心である。オープンイノベーションは2000年代初期にヘンリー・チェスブロウ氏が提唱し、二十年近い月日が経った中で、実際にデータとしてプラス効果が見える化がされ、その効果は疑いようもない。私が問いたいのは、二十年前から何が変わったのか?である。

アカデミアの研究者はバーゲニングパワーを持つべきである

大学では産学連携を中心にオープンイノベーション(以下、OIと記載)が活発に進められてきた。しかし、米国モデルをしっかり検証されないまま進められてきたがために、本来のOIの目的である新規技術の推進や画期的な技術の実用化にはまだ不十分である。特に創薬などを含めた医療・ライフサイエンス分野ではアジア諸国にも後塵を配している。

その原因の一つとして、大学の知財が、現実的なマネタイズではなく、特許の数として紹介されていることにある。特許とは新規性・進歩性を問われる一つの関門でしかなく、技術の実用化という本来の意味での実績にはならない。実用化したものの中で、特許戦略が存在するべきあるが、そこへ行く前に塩漬けになったり、複雑な局面があったりして、多くが賞味期限を過ぎてしまうのである。

欧米では特許を安く売って、ロイヤリティやマイルストーン達成を支援し、そこからのリターンなどで収益を得るというケースをよく聞くが、日本ではあまり好まれないビジネスモデルのようである。これからのイノベーションはここに目をつけるべきで、特許や知財の流動性、汎用性を広げ、有効活用していく方向に転換してはどうだろうか。昨今H先生とO社との法廷での争い(令和311月に和解)により、この辺りの締め付けがより厳しくなることを著者は危惧している。

また、大学は早期な研究内容でも「特許を取るまで」と研究者に指示を出し、情報提供を出し渋る保守的な姿勢になりすぎるのにも問題がある。コラボレーションのための議論の基本的なスタンスは、Give Give Giveでその延長線上にTakeがある。どのようにコア技術の開示をせずに相手を引きつけておく資料を作成するかは、産学連携部隊の腕の見せ所である。そしてその中でバーゲニングパワーを見出すことである。バーゲニングパワーは重要で、交渉を優位に持って行くための情報を持つことで、研究者が求めるコラボレーションの形により近づけることができるのである。

新たなイノベーションの創出のために利益を維持しつつエコシステムを創る

30年前の低分子医薬が中心であった頃は、世界の医薬品の12−15%が日本から創出され、現在のブロックバスターであるバイオ医薬品の元となる創薬ターゲットについても日本発のものが多くある。しかしながら、創薬研究の成果としての抗体医薬では大きく世界に遅れ、新たなモダリティである遺伝子治療や細胞治療は大学主導で行われているのが現状である。OIは、企業が利益に直結するために積極的に取り組まれてきたが、そのモデルは皆がやっているために、秀でた利益が出せなくなっており、新たなイノベーションが求められている。

多くの製薬企業は国内市場と長期収載品に利益を委ねていて、いくつかの企業は積極的に対外的なコラボレーションを活用して新規事業を進めてきたが、国内市場が目的のうちは保険償還や薬価改定などの規制のハードルを十分に越えられないでいる。また、新規モダリティ(再生医療など)は商業戦略なども行政、市場のバランスで打開策は見られていないのが現状である。その中で一部の企業は保険会社など、製薬企業ではない相手と手を組むことで、商業戦略でのイノベーションを創出している。企業は利益を維持し続けることで、新たなイノベーションを生み出すことが可能となるため、このような取り組みは、エコシステム全体としても支えてもらいたいものである。

VCはスタートアップの事業にハンズオンで関わり、投資を受ける側もサポートを駆使する

ベンチャーキャピタル(VC)からのスタートアップへの投資は増加しており、大学からのベンチャー創出は過去に例のない数で増えつづけている。しかし、OIでの関与という意味ではまだまだ暫定的で新興事業だと思う。

多くのVCはLPへの償還の義務があるため、利益回収の時間軸と戦略に制限があり、創薬研究のようなリスクが高く、長期での利益しか見込めないところへの投資は控えめである。その一方でMinimal Viable Productの創出や出口が見えやすいメドテックやプラットフォーム型のベンチャーは日本国内でも多い。ただ、多くのプラットフォーム型企業は前臨床でのライセンスを求めるためパートナーがいないと成立しない事業になってしまっている。欧米ではある程度、事業が確立してからライセンス獲得や協業という形で利益を取るモデルがあるが、日本ではVCがIPOにこだわりすぎている節がある。日本のIPOは数が限られており、上場した後も決して楽ではないことから、海外導出やM&Aなども積極的にEXITプランに組み込み、それをサポートできる人材を育成していただければと思う。

またVCには優秀な人材が揃っているため、研究を実用化させるためのモデル作りに対し、誰よりもサポートやアドバイスができる立場にも関わらず、日本はお互いに遠慮している印象を受ける。投資される側はVCのサポートを駆使してノウハウを学び、またVC側もより事業にハンズオンで関わり、ネットワークを駆使して人と人とをつなぎ、さらに成功確率を上げる活動をやってみてはいかがだろうか。

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さんざん他人の文句を言ったが、あなた自身どうなの?行政はどうなの?LINK-Jはどうなの?おそらく読者の皆さんの中に疑問が出てきたことだと思う。自己反省も含めて言いたいことはたくさんあるのだが、また次の機会にお話ししたい。

オープンイノベーションは真骨頂である。が、私はそう唱えない。
企業の成長や新事業の開拓などに関して、今のご時世はそれが大前提だからである。国際競争がより厳しくなる中、言葉にのみに惑わされるのではなく、実用化をベンチマークとしてみてはどうだろうか。

瀬尾 亨 氏  Lucidaim株式会社 代表取締役、エンジェル投資家・パラレルアントレプレナー

米国ウェイクフォーレスト大学医学部で博士号取得後、コロンビア大学医学部小児科准教授として教育に従事。2007年以降はGSK社, メルク社、大正製薬にて研究開発や事業開発に従事し、2015年よりPfizer Inc.にてWorldwide Research & Development、External Science&Innovationの日本およびアジア統括部長として着任。日本・APACにおいて事業開発に従事する一方、オープンイノベーションの推進、ベンチャーなどのエコシステム構築に携わり、大学や研究施設などで講師としても務める。2021年に退職後、創薬バイオベンチャーおよびエンジェル投資、コンサルティング会社を設立し、代表取締役に就任する。その他、日本医薬ライセンシング協会の幹事、大阪大学外部評価委員や早稲田大学で客員講師を兼任。
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