COVID-19の感染拡大とその流行制御をめぐっては、医療提供体制のあり方やワクチンの安定供給・接種体制の確立といった課題に直面したばかりでなく、正体の明らかではない未知の感染症という脅威に対して一日も早く有効な対処法を確立しなければならないというレギュラトリーサイエンス上の問いにあらためて直面することになりました。
レギュラトリーサイエンスとは、一般に薬事申請・承認、販売等に関する評価や規制のあり方をめぐる概念としてとらえられています。しかしながら、レギュラトリーサイエンスという概念は、必ずしも薬や医療機器・再生医療等製品に関する審査・承認に限定されるものではなく、未病やヘルスケアはもちろん、健康・医療とは全く異なる領域を含めて、製品やサービスに対する科学的な評価を要するあらゆる技術領域に適用可能な非常に広義の概念です。
神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科(SHI)では、こうした広義のレギュラトリーサイエンスの概念についての理解を深めることを目的としたセミナーシリーズを公開講座として開催する運びとなりました。レギュラトリーサイエンスとは何か、いまなぜレギュラトリーサイエンスなのかという問いを出発点に、全3回のセミナーを通じてレギュラトリーサイエンスのエッセンスを俯瞰的に学修する機会を提供します。各回のセミナーでは、いまだ評価方法が確立していない萌芽的技術に基づく製品やサービスに対する評価や危機管理下のような有効性・安全性の評価を十分に行うことが困難な状況下における承認のあり方、そして財政的なコントロール手段としての評価のあり方などをテーマとして取り扱います。
本セミナーシリーズを通じて、レギュラトリーサイエンスに関する多角的な理解を深めていただくことはもちろん、コロナ禍であらためて問われつつある科学的評価の意義とその重要性について再考する機会になれば幸いです。
【第3回概要】
第3回のテーマは「財政とイノベーションの両立」です。
薬事における安全性・有効性の評価とは異なる形で、特に価格面に関する実質的規制ともいうべきものとして公的なプライシングシステムが挙げられます。世界的にみても極めて特徴的なわが国の保険制度と深く結びついたこの仕組みのもとで、我々は革新的な製品をどのように評価していけばよいのでしょうか。従来に比べて極めて高い効能や効果を持った革新的な製品やサービス、さらには後発でありながらも改良・改善等を通じて高い効能や性能を持った製品・サービスが現実に登場しつつあるなか、いま改めてこの問題を問い直す必要があります。
2021年度レギュラトリーサイエンス公開講座の最終回となる第3回は、財政的な持続可能性を担保しつつ、開発者のインセンティブとしてのイノベーションの評価を同時に両立していくための方策とその課題について議論したいと思います。
申込締切:2022年3月22日(火)12:00
プログラム
Opening Remarks 昌子 久仁子 (神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科 教授)
Keynote1 森田 朗 ((一社)次世代基盤政策研究所 代表理事、東京大学 名誉教授、神奈川県立保健福祉大学 客員教授)「保険制度の今後のあり方」
Keynote2 中村 良太 (一橋大学 社会科学高等研究院 教授)「Value based pricingの考え方」
panel discussion テーマ:「財政とイノベーションの両立」
パネリスト:森田 朗、中村 良太、加納 信吾(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)
モデレータ:渡邊 亮(神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科 准教授)
Closing Remarks 大谷 泰夫 (神奈川県立保健福祉大学 理事長)
参加費
無料
主催
主催:神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科(SHI)
共催:神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センター(CIP)