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SANDBOX

Session.1-3:風邪に抗菌薬【後編】

LINK-Jは、次世代のライフサイエンスを牽引する様々なプレイヤーの出会いと学びの場として "LINK-J Sandbox" を設けました。
ここは、医学・医療系のみならず、理学・工学・社会科学・人文科学・デザイン等を学ぶ学生が集い、分野を超えて知的に "遊ぶ" 砂場(sandbox)です。こけら落としとなる最初のセッションのテーマは「風邪に抗菌薬」。学生たちの激論が始まります。

***

大川 隆一朗  慶應義塾大学医学部医学科5年
小野 すみれ  東京工業大学大学院修士1年
織部 峻太郎  東北大学医学部医学科3年
久保 慧悟   東京大学文学部行動文化学科(社会学専攻)4年
荘子 万能   大阪医科大学医学部医学科6年【話題提供者】
外山 尚吾   京都大学医学部医学科3年

平林 慶史   『DOCTOR-ASE』編集長/有限会社ノトコード代表【Moderator】
宮崎 尚     LINK-J参事
清本 美佳    LINK-J事務局

どうすれば「風邪に抗菌薬」を減らせるのか?

――少し話を戻して、どうしたら「風邪に抗菌薬」を減らせるのかについて考えてみましょう。

織部:僕はもともと「制約」で縛るのは好きじゃないので、できるだけ医療者と患者の意識を変えて、自律的に抗菌薬の使用が減っていけば良いと思っていました。けれど、こんなにリスクがあるのに行動が変わらないのだとすれば、何かしらもう少し行動変容につながる具体的な施策が必要なのかもしれません。例えば、コストに働きかけるとか。

平林:それは例えば、「タバコをやめましょう」と呼びかけるのではなくて、タバコを1箱2000円にする、といったアプローチですか?

織部:そうです。

荘子:医師の側に働きかけるのか、患者の側に働きかけるのかという議論もありますよね。

外山:内発的な動機付けと、外発的な動機付けという観点もあります。

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織部:医師に対する外発的な動機付けということになると、必要の無い抗菌薬の処方に対して、何かしら診療報酬で締め付けるくらいしか思いつかないですね。逆に、抗菌薬の値段をメチャクチャ高くすれば、「そんなに高い薬は要りません」という患者が増えるかもしれないですね。

荘子:医師の内発的な部分に働きかけるなら、やはり多剤耐性菌のリスクを広く告知したり、職業倫理に働きかけるようなキャンペーンを行うような感じですかね。

久保:抗菌薬の値段を高くするのは、本当に抗菌薬が必要な人にとっては負担が増えてしまうという側面もあります。

小野:患者や市民のリテラシーを高めれば、抗菌薬を出さない医師が「薬をくれない医師」ではなく、「ちゃんと考えて薬を出す医師」だと思われるようになるのではないでしょうか。

外山:むやみに抗菌薬を出したら医師に罰則が与えられるというのはダメなんですか?

平林:それは結構難しいですね。その抗菌薬が本当に必要だったかどうかを、誰がどうやって判断したら良いかという問題がありますね。実際、抗菌薬が必要な症例もあるので・・・。

荘子:誰を対象にするのかという観点と、どうやって動機付けるかという観点から、整理してみましょう(下表)。

内発的動機付け外発的動機付け
対医師 【エビデンスを示す】
→風邪に対する抗菌薬使用に診療上のメリットがあまり無いことを伝える(課題:そもそも風邪と診断することが難しいのでは?)
【職業倫理に働きかける】
→医師という専門職として、将来を見越して効果のある抗菌薬を守っていくという意識に訴えかける
【診療報酬】
→必要の無い抗菌薬の処方に対して、何かしらのdisadvantageを課す。(課題:抗菌薬投与の必要の有無をどう判断するか)

対患者・市民   【リテラシーを高める】
→風邪に対しては抗菌薬が効かないことを周知する(課題:正しい知識だけに触れるとは限らない)
【抗菌薬の価格】
→抗菌薬の価格を非常に高くし、気軽にもらえる状況を変える。(課題:本当に抗菌薬を必要とする人の負担が増える)
【抗菌薬の副作用を強調する】
→抗菌薬のデメリットの部分を強調して広報する。(課題:抗菌薬を必要とする人まで、ネガティブイメージを持ってしまう)

小野:自分で言っておきながらですが、「リテラシーを高める」という部分はとても難しいですね。全然わからない人は「先生にお任せします」というスタンスでしょうが、中途半端に知識があるとかえって誤った判断をする可能性が高まる気もします。

平林:確かに、「鼻汁に色がついていると細菌感染の可能性がある」といったネットの記事を読んで、すぐに抗菌薬を欲しいと言う人もいそうな気がします。

小野:実際に医者にかかって、抗菌薬がもらえなかった時に不満を持つという時点で、色々と情報には触れているんだろうなと思うんです。けれど、様々な情報を俯瞰的に把握して判断するのは難しいので、限られた情報や誤った情報に振り回されるリスクも高いですよね。

荘子:この表を、もっとブラッシュアップしていきたいですね。誰に、どんな風にアプローチしていけば、現実的かつ効果的に「風邪に抗菌薬」を減らしていけるのかを考えていきたいです。

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次のセッションに向けて

――熱い議論を始めて3時間以上が経ちました。

平林:次のセッションに向けて何の議論を深めて行くか、今後の方向性を考えていきましょう。

荘子:この「風邪に抗菌薬」という話は、やはりプロモーション的な側面が強いと思います。医療・保健分野のプロモーションももちろんですが、他の業界のプロモーションの成功事例みたいなものも参考になるような気がします。例えば、「結婚指輪は給料の3ヶ月分」とか、最近のハロウィーンの盛り上がりとか、そういうプロモーションの知見を入れて議論してみたいです。

織部:目の前の利益と将来の害を比べることの難しさ、というあたりも是非深めていきたいですね。例えば僕は、アルコールの健康上のリスクについて死ぬほど学校で勉強していますけど、やっぱり学ばないんですよ。自分で飲みながら、食道がんのリスクが何パーセントあがるのか――と頭をよぎるんですが、それは今すぐに起こることではないので、気にせずに飲んでしまうんですよね。

大川:どのくらい先のことだと、将来の害のことを実感を持って受け止められるのでしょうね。いま飲んでいるアルコールの影響はおそらく数十年後に現れるだろうし、いま使っている抗菌薬に対する耐性菌に苦しめられるのも、おそらく数十年後なんです。数ヶ月先に影響が出ると言われれば真剣に考えるような気がしますが、数十年後のことだと行動を変えられる気がしません。

外山:僕は人間の行動について考える時に、アリストテレスの弁論術に出てくる「ロゴス・エトス・パトス」の3つの要素の配分を考えるようにしています。ロゴスは論理、パトスは感情や情緒といった意味ですが、どうしてもパトスの部分が勝ってしまうことがあるんですよね。

久保:実際の診療で、抗菌薬を出すか出さないかの判断をしている人の話も聴いてみたいですね。今日の話はどちらかというと、多剤耐性菌を産まないことをメインに進んでいましたが、目の前の人の感染症を良くしなければならない医師には、違う世界が見えるのではないかと思います。

荘子:少し違う切り口ですが、僕は診療ガイドラインの質向上に取り組んでいるMindsというプロジェクトにも関わりがあって、以前から抗菌薬使用についても診療ガイドラインがもっと活用できるのではないかと思っていました。抗菌薬に関する診療ガイドラインを調べて、そのあたりも議論してみたいと感じます。

外山:個人的に、自分の家族が抗菌薬や耐性菌のことについて、どのくらい理解していてどんな考えを持つのかを知りたいなと思いました。次回までにインタビューして、共有できたらなと思います。

――みなさん、今日はありがとうございました。引き続き次回も「風邪に抗菌薬」をテーマに、熱い議論を展開していただければと思います。

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