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投稿日:2025年03月31日 投稿者:株式会社東レリサーチセンター

細胞外小胞医薬品の開発及び申請向けの品質評価サービスの開始について ~細胞外小胞の社会実装に向けた総合的な分析支援をご提供~

【要旨】

 当社(以下、「TRC」)は、細胞外小胞(※1)の社会実装に向けた分析支援として、「細胞外小胞医薬品の医薬品申請向けサービス」を開始しました。
 細胞外小胞とは、細胞が分泌する小胞(膜に包まれた小型の袋状の構造)で、タンパク質や核酸などの生体分子を運搬し、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たします。近年、細胞外小胞をドラッグ・デリバリー・システムに応用した医薬品(細胞外小胞医薬品)の開発が進められていますが、厳格な医薬品申請の基準に対応した分析が可能な企業は少なく、医薬品申請に向けた分析体制の構築が急務です。そこで、TRCでは、細胞外小胞医薬品の開発及び申請向け品質評価サービスを開始し、細胞外小胞の社会実装に貢献します。

【背景】

 細胞外小胞を利用した医薬品開発が急速に進められていますが、医薬品として上市するためには、厳格な品質確保のための分析が重要です。これらの分析は、申請資料の信頼性の基準などの規制下での分析という制約を受けますが、前例がなく、規制下での分析が現状、困難な状況です。TRCでは、人工的に合成したmRNA(※2)を体内に投与し、治療薬やワクチンとして用いるmRNA医薬品を初めとする新しいモダリティ(※3)に挑戦しており、このような状況を打破してきた経験を有します。TRCでは、まず細胞外小胞医薬品の申請向けの品質評価メニューを取り揃え、同時に主に研究・技術開発用途としての細胞外小胞の形態評価をメニュー化しました。これらメニューを通じて、細胞外小胞医薬品の上市に大きく貢献できると考えています。

【細胞外小胞医薬品の開発及び申請向けの品質評価サービスの詳細】

 現在、細胞外小胞の臨床応用のガイダンスとして、一般社団法人日本再生医療学会が2024 年4月30日に発出した「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)」があります。本ガイダンスから以下の項目が必要となります。

●確認試験・定量: 細胞外小胞であることを確認し、その量を求める試験
●純度試験: 不純物の量を確認し、細胞外小胞の純度を求める試験
●力価: 細胞外小胞の量と実際の効果の関係をin vitro(※4)レベルで確認する試験
●示性値:これら以外の細胞外小胞の品質に関わる重要な値をモニタリングする試験

上記をもとに、当社では以下のようなメニュー(表1)を取り揃えました。また、図1に、取り揃えたメニューに対応する評価対象を模式的に示します。

 

表1 .細胞外小胞医薬品の開発及び申請向けの品質評価メニュー。各分析手法の説明は補足参照。また、*は申請資料の信頼性基準対象外

 

図1 .メニューに対応する評価対象(模式図)

図1 .メニューに対応する評価対象(模式図)

 TRCでは、上記の試験項目に対する分析手法を用意し、医薬品申請に必要な基準である「申請資料の信頼性の基準」(※5)に対応した分析が可能です。
 また、TRCではナノメートルオーダー(50~1000 nm程度;1 nmは1mの10億分の1)の分析が可能な「形態評価」のメニューを開発しました。細胞外小胞はナノメートルオーダーの非常に小さい粒子なので、細胞等の観察に通常使用される光学顕微鏡では分析が困難でした。しかし、この度メニュー化した手法により、細胞外小胞の一種であるエクソソーム(※6)に特徴的な脂質二重膜(※7)の観察や内部の詳細構造の把握、さらに細胞外小胞の硬さを評価できる弾性率測定などが可能となり、お客様の細胞外小胞の医薬品開発に貢献できると考えています。

【今後の展開】

 今回、提供する品質評価サービスで細胞外小胞医薬品の医薬品申請や開発に大きく貢献できると考えております。しかし、分析は日進月歩ですので、さまざまな細胞外医薬品に対応できるようさらに分析メニューを拡充してまいります。今後も「高度な技術で社会に貢献する」という基本理念に基づき、より一層の技術水準の向上に努めるとともに、最新の分析サービスをいち早く提供し、お客様の課題解決を支援することで、健康の増進や生活の質の向上に貢献していきたいと考えています。 

【用語説明】

※1 細胞外小胞:細胞が分泌する小胞(細胞内にある膜に包まれた袋状の構造。細胞中に物質を貯蔵したり、細胞内外に物質を輸送するために用いられる)のこと。細胞内のエンドソームと呼ばれる小胞から発生するものと、細胞膜から発生するものがある。細胞外小胞は、タンパク質や核酸などの生体分子を内包しており、血流等に乗って、別の細胞に取り込まれ、細胞間コミュニケーションに重要な役割を果たしている。

※2 mRNA(Messenger ribonucleic acid):メッセンジャーRNA(伝令リボ核酸)。塩基がつながった分子。細胞の中でタンパク質を合成するための情報が塩基の並び方として記録された設計図の役割を果たす分子。人工的に合成されたmRNAを利用したワクチン(mRNAワクチン)やmRNA医薬品の開発が進んでいる。

※3 モダリティ:低分子医薬、抗体医薬、mRNA医薬品、遺伝子治療といった治療手段のこと。

※4 in vitro: 試験管内実験という意味で、試験管や培養器内で細胞や菌などを培養して試験すること。

※5 申請資料の信頼性の基準: 薬機法施行規則第43条のこと。医薬品申請の資料として満たすべき条件であり、「正確性」、「完全性」、「網羅性」、「保存性」が要求される。この基準をクリアできない場合、最悪のケースとして医薬品販売の許認可が得られない可能性がある。

※6 エクソソーム: 細胞外小胞の一種でエンドソームと呼ばれる小胞から発生する。サイズは50-150 nm程度の小胞であり、脂質二重膜を有する。

※7 脂質二重膜:  細胞膜の基本構造で、リン脂質と呼ばれる脂質で二層になった膜のこと。エクソソームのような細胞外小胞の一種においても脂質二重膜を有するものがある。

【補足】表1の分析手法の説明

手法名

説明

ウェスタンブロット

特定のタンパク質の存在や量を確認するための方法。通常、タンパク質をポリアクリルアミドゲルで分子量の違いにより分離し、ニトロセルロース膜などに転写する。その後、抗原抗体反応を利用し、目的のタンパク質を検出する。

酵素結合免疫吸着法

(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay;ELISA)

試料中に含まれる特定のタンパク質の濃度を定量するための方法。特異的な抗原抗体反応と酵素反応を利用して、目的のタンパク質の濃度を測定する。

ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction;PCR)

特定のウイルスや病原体のDNAを増幅して検出する方法。

プライマーと呼ばれる増幅領域の両末端に結合する短い合成DNAとDNA合成酵素を利用し、目的のDNA配列を増幅し、検出する。非常に微量のDNAでも検出できるため,新型コロナウイルスなどの診断や遺伝子解析に利用される。

デジタルPCR

PCRの原理を利用し、目的のDNAの量を求める方法。測定対象がRNAの場合は、逆転写酵素を利用してDNA変換し、定量する。

サイズ排除クロマトグラフィー-多角度光散乱

(Size Exclusion Chromatography-Multi-Angle Light Scattering; SEC-MALS)

試料の絶対分子量と分子サイズを測定する技術。SECは分子をサイズに基づいて分離し、MALSは多角度からの光散乱を測定して分子量や回転半径を決定する。この組み合わせにより、分子の形状や構造を詳細に解析できる。高分子やタンパク質の特性評価に適している。

セルベースドアッセイ

細胞を用いて試料の生物活性を評価する技術。細胞の生理学的な反応を観察し、薬剤の効果を効率的に調べることができる。

動的光散乱

(Dynamic Light Scattering; DLS)

液中のナノ粒子のサイズを測定する技術。レーザー光を粒子に照射し、ブラウン運動による散乱光の強度変化を解析することで、粒子径を算出する。

液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)

液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)を組み合わせた分析技術。LCは試料中の成分を分離し、MSはそれらの質量を測定して識別する。複雑なサンプル中の有機分子や生体分子の分析に広く利用されている。

クライオ電子顕微鏡

試料を低温(通常は液体窒素温度)で観察する透過型電子顕微鏡法。試料を凍結することで、生体分子の自然な構造を高分解能で観察可能。タンパク質やウイルスなどの構造解析に広く利用され、2017年にはノーベル化学賞を受賞した。

原子間力顕微鏡

(Atomic Force Microscope; AFM)

試料表面と探針の間に働く原子間力を検出して、表面の凹凸を高分解能で画像化する顕微鏡。弾性率測定では、探針を試料表面に接触させて力を加え、探針と試料の間に働く力をカンチレバーのたわみとして検出し、フォースカーブ(力とたわみ量の関係)を解析して弾性率を算出する。

小角X線散乱

(Small-Angle X-ray Scattering;SAXS)

物質にX線を照射し、分子の並びによる散乱を観測する方法。ナノスケールの構造解析が可能。通常、1~100 nmの範囲の構造を解析でき、ナノ材料や生体分子の研究に広く利用される。

お問い合わせ先

株式会社東レリサーチセンター
〒103-0023
東京都中央区日本橋本町一丁目7番2号 KDX江戸橋ビル6F
(03)3245-5666(ライフサイエンス営業部、営業企画部)

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