この度、弊所プロテオームリサーチプロジェクト・創薬標的プロテオミクスプロジェクトの足立淳プロジェクトリーダーは、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院消化管内科朴成和前科長(現東京大学医科学研究所附属病院腫瘍・総合内科教授)、平野秀和医員らとの共同研究により、分子標的治療薬※1トラスツズマブ※2の投与前後に内視鏡を用いて採取した胃がん患者の生検検体※3から、1万4千個を超えるリン酸化部位を網羅的に測定し、患者毎に治療に対するリン酸化応答が異なることを明らかにしました。
近年、個人の体質や、がんの特徴に合わせて治療する「がん精密医療」※4が、日本でも本格的に開始され、がん治療の変革が期待されていますが、本研究は、がんの増殖や薬剤感受性を決定するのに重要なリン酸化シグナル※5を測定する技術を臨床応用するものであり、新たな「がん精密医療」の開発に応用可能であると考えられます。
今後、本研究で開発した技術を用いて、治療中に治療の効き目を迅速に判断し、適切な治療を患者毎に選択できる「がん精密医療」の実現に取り組んでいきます。
なお、本研究成果は、2022年3月25日10:00(ロンドン時間)にScientific Reports誌に掲載されました。
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-022-08430-7
用語解説
※1分子標的治療薬
体内の特定の標的分子を狙い撃ちし、その機能を抑えることによって、病気を治療する目的で開発された薬剤。
※2トラスツズマブ
癌遺伝子HER2/neuの遺伝子産物であるHER2タンパクに特異的に結合する抗体。癌の増殖などに関わる特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬の一つである。HER2過剰発現が確認された乳癌、切除不能な進行・再発の胃癌、唾液腺癌に用いられている。
※3生検検体
病気の診断を行うために、特殊な針や内視鏡を用いて臓器組織の一部を採取したもの。
※4がん精密医療
がん患者が個々に有する遺伝子・タンパク質・代謝物等の特徴から個人レベルで最適な治療方法を分析・選択し、それを施すこと。
※5リン酸化シグナル
胞内外の刺激に対して細胞膜上・細胞質中のタンパク質が、キナーゼ(リン酸化酵素)によるリン酸化反応を介して、情報伝達を行うこと。がん細胞の増殖、転移、細胞死などに重要な役割を果たしている。