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インタビュー・コラム

新規ドラッグデリバリーシステムを用いた「がんワクチン」開発に挑戦 DiveRadGel株式会社

スタートアップ支援プログラム「UNIKORN」第二期参加企業(UNIKORNファミリー)に聞く③

メンタリングや展示会参加支援、プロモーション支援などを通じて、国内スタートアップの英国/欧州市場進出を手助けするプログラム「UNIKORN(ユニコーン)」。第二期となる今期も、前回に引き続き、多数のご応募を頂き、厳正な審査と選考を経て、4社のライフサイエンス系スタートアップが選出されました。本企画では、新たにUNIKORN第二期ファミリーとなる皆様に、現在の事業内容や今後の展望などをお聞きしました。
UNIKORNに関する詳しい情報はこちらから。

今回お話を伺ったのは、DiveRadGel株式会社の中井貴士氏(代表取締役社長)と黒澤丈朗氏(取締役副社長)のお二人です。

中井貴士氏(代表取締役社長・右)、黒澤丈朗氏(取締役副社長・左)
 

【企業紹介】DiveRadGel株式会社
DiveRadGel株式会社は、経済産業省の「大企業等人材による新規事業促進事業」を利用して誕生した、旭化成株式会社発スピンアウトベンチャーです。代表取締役を務める中井貴士氏が開発発明した、新規ドラッグデリバリーシステム基剤「ヒアルロン酸ナノゲル(ソナノス™) 」を用いて、新規がんワクチンの実用化および難治性がんに対する革新的治療法並びに予防法の開発に挑戦します。

中井社長が発明したドラッグデリバリー技術でがんワクチン開発に挑戦

――まずは、自己紹介からお願いいたします。

黒澤 わたしも中井も、元々は旭化成の社員でした。私は学生時代から医療の世界に関心があり、当時は臨床検査技師を目指していました。大学院に進学した頃から、興味の対象がビジネスの世界にシフトし、卒業後は経営コンサルタントやプライベート・エクイティ・ファンドなどの仕事に就きました。旭化成に移籍後は、中井が発明したドラッグデリバリーシステム基剤(ソナノス™)の海外展開などを担当しました。その後、同技術を用いたがんワクチン技術を開発すべく、旭化成からスピンアウトする形で当社が設立されました。

中井 大学時代に、恩師である秋吉一成教授の「薬効がどれほど高くても、体内動態や毒性の問題で投与できない薬が数多くある。しかし、薬物送達技術があれば、患者さんを救う本当の薬に変えることができる。」という言葉に感銘を受け、以後一貫してドラッグデリバリーシステムを研究しています。卒業後は製薬企業に就職しますが、社会人向けの博士課程を利用して大学院に通い、そこでヒアルロン酸ナノゲルを発明します。後に日本のがん免疫療法の第一人者である故・珠玖洋先生(三重大学)と出会い、旭化成移籍後も、珠玖先生や三重大学の方々と共にがんワクチンの共同研究を続けてきました。また、旭化成ではヒアルロン酸ナノゲルを医薬品添加剤「ソナノス™」として開発しました。

競合技術と比べると製造が簡便で安定性も高いという利点も

――旭化成で製品化するという選択肢はなかったのでしょうか?

黒澤 旭化成本体の主力事業は、あくまで化成品製造開発です。一方で医薬品の開発は、ただ物質を作るだけでなく、人体での有効性や副作用を確認する臨床試験なども行う必要があり、化成品の製造開発を担う旭化成株式会社内での開発は困難と判断されました。グループ内には、旭化成ファーマ株式会社もありますが、同社の主力品は整形外科疾患やリウマチ関連疾患などであり、がんワクチンとは事業の方向性が異なります。  そこでスピンアウトさせて会社を作り、外部の企業や投資家とも連携しながらがんワクチンの実用化を進めることになりました。

――貴社のコア技術である「ヒアルロン酸ナノゲル ソナノス™ 」について教えてください。

中井 ソナノス™は、水中で自己会合し、ナノサイズのハイドロゲルを形成するという特徴を有する、新規のドラッグデリバリーシステム基剤です。簡単にいえば「水に溶かせば、勝手に数分子が集まって100nmほどのボールになる」性質を有するゲルです。低分子化合物からタンパク質まで、様々な医薬品原薬を封入できます。封入する工程も簡単で、ナノゲルに原薬を加えて混ぜるだけで、疎水性相互作用によって自然に原薬が取り込まれます。複雑な装置や工程を必要とせず、シンプルな製造が可能です。競合技術と比べると製造が簡便で安定性が高く、品質管理も容易です。

いまだ解決しない「再発・難治性がん」の治療法を開発したい

 ――「ヒアルロン酸ナノゲル ソナノス™ 」を用いることでどんなワクチンが作れるのですか?

黒澤 ソナノス™自体は、難溶性原薬の可溶化や徐放化など多様な応用可能性を秘めた技術ですが、我々が着目したのは「がん免疫誘導作用」でした。これまでの研究で、がん抗原を封入したナノゲルは、樹状細胞のサブセットの1つに対して効率的にがん抗原を送達できること、結果としてがん免疫を高効率で誘導し、加えて長期免疫も誘導する働きが確認されています。共同研究でも、がん抗原封入ナノゲル+遺伝子改変T細胞療法+アジュバントの3剤併用で、難治性腫瘍モデルマウスに対して革新的効果を有する可能性が示唆されています。

 
 ――実用化された場合、どのようながんに使用されることになりますか?

黒澤 現在のがん領域は、遺伝子改変T細胞療法に代表される新規モダリティが続々と登場しており、治療成績も向上しています。一方で、いわゆるCold Tumor(冷たい腫瘍)と呼ばれる難治性固形がんに対しては、治療手段が限られ、中には選択肢がないものもあります。また一旦は寛解達成しても、時間が経つと再発する「再発がん」もいまだ防ぐ方法がなく、多くの患者さんが再発の不安に怯えています。我々は新規がんワクチン開発を通じて、再発予防を、そして難治性がん患者さんたちの「最後の砦」となる治療方法の開発を目指します。

がん免疫療法発祥の地である英国で事業展開に挑戦したい

――UNIKORNプログラムに関心を持ったきっかけをお聞かせください。

黒澤 我々が本格的に事業始動をしたのは昨年8月ですが、そこから半年間かけて情報収集などを進めるうちに、やはり当社のがんワクチン技術は、様々なHLAの患者さんへの適応を目指すべく、日本だけでなく、世界中に展開して臨床開発を推進していく必要があると強く感じました。一方で、当社はまだ誕生したばかりであり、海外展開に割けるリソースがありません。そこで、海外展開を支援するプログラムを探しているうちに、UNIKORNプログラムを紹介する記事を見つけました。そこで「次回は我々も応募しよう」と常に情報をチェックしていました。

――数ある支援プログラムの中から、なぜ本プログラムを選ばれたのですか?

黒澤 今後の海外展開を考える上で、まずは欧州医薬品庁や米国食品医薬品局など、高い信頼性を誇る審査機関の承認を取得する必要があると考えました。中でも、英国(※英国が欧州連合を離脱した後は、Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency[MHRA:英国医薬品医療製品規制庁   ]が管轄する)は、がん免疫療法の発祥の地でもあり、英国に行けばシナジー効果が期待できると考えました。そこで、英国進出を支援してもらえる本プログラムを選びました。欧州および英国への渡航費用が提供されるのも、当社のような駆け出しのスタートアップには魅力的でしたね。

――英国以外にも着目している国はありますか?

黒澤 ドイツにも注目しています。当社の技術はヒアルロン酸ナノゲルであり、がんワクチンの開発にあたっては、外部からがん抗原の提供を受ける必要があります。近年では、従来のがん抗原よりも高い免疫原性を誇るネオアンチゲン(がん細胞特異的な遺伝子変異により新たに生じる抗原)の研究が白熱しており、特にドイツの研究機関や企業が先行している印象です。我々としては、がん免疫療法の発祥の地である英国と、新規のがん抗原の研究開発でリードするドイツの2カ国を中心に事業展開したいと考えています。

メンタリング担当者は経験豊富かつ積極的で「感謝しかない」

――実際にプログラムに参加されてみた感想もお聞かせください。

黒澤 特に素晴らしいと思うのは、UKメンターの魅力ですね。彼の支援があればこそ、いま我々は自力では面談すら組めない企業の方々とも連絡を取れています。当社のメンタリング担当者のTim Hart氏は、人脈だけでなく研究者としても経験豊富です。その彼が当社の技術力を高く評価した上で、さらに将来有望な面談相手につないでもらえるという関係性は、非常に魅力的ですね。Hart氏とは、週1回ないし2週に1回の頻度でミーティングを実施しており、欧州展開や事業方針についても密に議論を重ねています。

――メンタリング担当者との相性はばっちりというところですね。

中井 Hart氏には、とても感謝しています。我々から何かをお願いする前に、たとえば膨大な企業リストを作成して「この中に興味がある会社はあるか?」と聞いてくれたり、彼の判断で「この会社に接触しよう」、「面談の約束を取れたよ」と動いてくれたり。メンタリングも手慣れており、我々の意見や活動を頭から否定したりせず、我々の活動や見解も尊重した上で、積極的に議論を深めていく雰囲気づくりをしてくれます。

ここまで多くの方々のご協力があったからこそ進めてこられた

――最後に、本記事を読まれる読者へのアピールをお願いします。

中井 我々は、既存治療では十分な治療効果が期待できない再発・難治性がんで苦しむ患者さんたちに、革新的治療法を届けたいと考えています。もちろん簡単なことではありませんし、事実これまでに何度も挫折を経験しました。しかしその度に、様々な方々のご献身に救われました。今回の起業にあたっても「がんワクチンの実用化は珠玖先生の悲願であったから」と、先生を慕う多くの方々にご支援頂きました。ここから先は我々の役割です。この技術を世界中の患者さまに届けられるよう、頑張りたいと思います。

中井 貴士氏(代表取締役社長)
京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、中外製薬にて抗体医薬・ドラッグデリバリーシステムの研究に従事。東京医科歯科大学(当時)在学中にヒアルロン酸ナノゲル(ソナノス™)を発明し、博士号を取得。後に旭化成に入社し、同ナノゲル技術の実用化に取り組むとともに、三重大学と共同でがんワクチンの臨床試験を主導している。

 

黒澤 丈朗氏(取締役副社長)
国立台湾大学、ボルドー大学、筑波大学大学院にてAgro-BioMedical Science の修士号を取得後、プライベート・エクイティ・ファンドにアナリストとして入社。後に経営コンサルティング会社で、企業価値向上のための戦略業務などにたずさわる。旭化成では「ソナノス™」のグローバル展開を統括。ダイブラッドジェル社の立ち上げでも様々な役割を担う。
 

 <UNIKORN第二期ファミリーインタビュー>
UNIKORN第二期ファミリーに聞く① 誰もが「陽子線がん治療」を利用できる世界を 株式会社ビードットメディカル
UNIKORN第二期ファミリーに聞く② 高品質な医療データの提供を通じて機器開発や創薬に貢献 株式会社Surg storage

<UNIKORN第一期ファミリーインタビューはこちら>

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