Menu

インタビュー・コラム

高品質な医療データの提供を通じて機器開発や創薬に貢献 株式会社Surg storage

スタートアップ支援プログラム「UNIKORN」第二期参加企業(UNIKORNファミリー)に聞く②

メンタリングや展示会参加支援、プロモーション支援などを通じて、国内スタートアップの英国/欧州市場進出を手助けするプログラム「UNIKORN(ユニコーン)」。第二期となる今期も、前回に引き続き、多数のご応募を頂き、厳正な審査と選考を経て、4社のライフサイエンス系スタートアップが選出されました。本企画では、新たにUNIKORN第二期ファミリーとなる皆様に、現在の事業内容や今後の展望などをお聞きしました。
UNIKORNに関する詳しい情報はこちらから。

今回お話を伺ったのは、株式会社Surg storageの平尾 彰浩氏です。

平尾彰浩氏(代表取締役)
 

【企業紹介】株式会社Surg storage
株式会社Surg storageは「データの力で次世代医療のイノベーションに応える」をミッションに、医療動画・画像を加工してデータセットを作成し、診断支援・治療支援AI技術などを研究開発する企業や研究機関に提供する、国立がん研究センター発スタートアップです。すでに欧州でも複数の実績があり、本プログラムを通じて更なる飛躍を目指します

学生時代からスタートアップには強い興味があった

――まずは、平尾様の自己紹介からお願いいたします。

株式会社Surg storageの平尾と申します。当社を創業する前は、医療機器系の会社でエンジニアや医用画像診断システム・診断機器のマーケティングなどを担当していました。学生時代は、理工学部で医工連携(感染症を対象とした光線力学的治療の研究)に挑戦する一方で、ちょうど当時は若手起業家たちの活躍が脚光を浴びていた時期でもあり、わたしもその頃からスタートアップの世界には強い興味を持っていました。

――学生時代からすでにスタートアップの世界に興味があったのですね。

とはいえ、当時はまだ自分の力で起業するノウハウも技術もなく、卒業後は医療機器系の大企業に就職しました。就職当初からスタートアップの世界には興味を持ち続けていましたが、実際に大企業で働き、現場の課題や構造を肌で感じる中で、その関心は徐々に確信と情熱へと高まっていきました。実務の傍ら、社外から投資家やスタートアップ関係者を招いてイノベーションに関する講演を企画したり、研究者とビジネスパーソンを結びつけるマッチングプログラムに参加するなど、自分の興味を具体的な行動に移していったのもこの時期です。こうした経験の積み重ねが、後の創業に直結しました。

――御社を創業された経緯についてお聞かせください。

当社のはじまりは、伊藤雅昭先生(国立がん研究センター東病院 現副院長)が代表を務められていた、AMEDの大規模プロジェクトにさかのぼります。本プロジェクトは、高品質な手術動画を体系的に収集・整理し、医療水準の維持・向上を支えると同時に、商業利用可能な形での医療データベースの構築を目的としていました。私は、国立がん研究センター東病院が依頼していた人材エージェントを通じてこのプロジェクトをご紹介いただき、プロジェクトマネージャーとして参画しました。医療機関主導で進めるプロジェクトでしたが、蓄積されたデータを産業界に展開していく段階になり、そこにはビジネス面でのノウハウや制度設計、スピード感が求められました。実際に整備・収集されたデータを産業側へ展開する機能創出として私が創業を担い、現在のSurg Storageが誕生しました。

産業用途に高付加価値化した医療データセットを提供

 ――現在の御社の事業についてご説明ください。

当社は現在、日本全国の大学病院を始めとした140以上の病院の協力を得て動画像を中心とした医療データを収集し、アノテーション(AI開発用に、データに情報を付加するプロセス)などお客様の需要に合わせて加工した上で提供します。ご存知の通り、研究用途での医療データの利用はもう珍しくはありません。しかし産業用途の場合は、契約プロセスや倫理面での配慮が必要で、患者さまの同意取得などの必要性もあって、まだまだ進んでいないのが現状です。その点をクリアしているのも当社の特徴といえます。

 
 ――具体的にはどのような医療データを扱われているのですか。

現在はがん領域を中心に、脳神経疾患や心血管系疾患なども対象とした医療データを取り扱っています。データの種類としては、手術動画や内視鏡動画、画像検査、病理画像など、多様なモダリティのデータを収集・整備しています。今後は、治療内容(レジメン)やその後の転帰を記録した診療記録の収集・活用も進めていく予定です。
当社の強みは、これらのデータをすべて倫理審査に基づいて取得し、匿名化・標準化された形式で産業用途に導出できる体制を確立している点にあります。医療データを活用する際には、単一施設のデータでは開発対象となる技術の汎用性評価が困難であり、多施設・多症例から得られる多様なデータが不可欠です。これまでにご協力頂いている全国140以上の医療機関(うち大学病院50施設超)と連携し、AI開発や薬事申請に対応可能な構造的データセットの導出を可能としています。医療現場と産業界をつなぐ“データのインフラ”として、今後もその機能を進化させていきたいと考えています。

メンタリング担当者の話は「いつも学ぶことばかり」

――このたび、御社は二期生としてプログラムに参加されることになりましたが、本プログラムに関心をお持ちになったきっかけは何でしょうか。

実は一期に採択された株式会社アークスの棚瀬さん(代表取締役)とは旧知の仲で、同社の活躍ぶりも常に耳にしていました。第一期プログラムに採択された後にお祝いのメッセージをお送りする機会があり、「次は平尾さんも参加してみてください!」とお返事頂いていました。またプログラム側にも知己の方がいたこと、我々としても、今後は積極的に事業内容をオープンにして、より多くのお客様およびお客様候補の皆様とのつながりを強固にしたいという展望もあり、プログラム応募を決意しました。

――まさに人と人とを結ぶ「御縁」の世界ですね。

まさにその通りで、友人を通して以前から林幾雄さん(LINK-J事業部長)とは接点があり、2020年に遡りますが、松永昌之さん(LINK-Jサポーター・Biospire株式会社代表取締役)が以前企画された英国向けのイベントにおいて曽山明彦さん(LINK-J 理事兼事務局長)とも面談する機会がありました。その林さんと松永さんが今回のUNIKORNプログラムを担当されていたことは、今回わたしが応募を決意した大きな理由でした。もちろん、選考プロセス自体は厳正かつ公正に行われたものと思いますが、それでも人と人との御縁があって現在があることは間違いないと思います。

――当プログラムに対する率直なご感想もお聞かせください。

メンタリングのすごさに驚かされました。当社の事業は、具体的なプロダクトがあるわけではなく、契約に基づき先方が必要とする医療データセットを提供するスタイルなので、いまひとつわかりにくい部分もあるのですが、我々の担当UKメンターは、当社の事業の本質を瞬時に把握され、どうプレゼンすれば我々の魅力を理解してもらえるか?などピッチの詳細まで細かく指導頂きました。英国や欧州の土地勘もお持ちで、彼の話はいつも学ぶことばかりです。ぜひプログラム終了後も一緒に仕事をしたいですね。

UNIKORNファミリーとも資金調達などの情報交換をし合う仲に

――今回採択された他の3社の方との交流などはありますか。

これまで何度も交流の機会があって、実際に参加者の間に積極的な交流が生まれています。今回採択された会社の皆さんは初対面の方ばかりですが、交流を重ねるうちに距離も縮まり、いまや資金調達や事業進捗などを積極的に情報交換する仲になりました。これって実は素晴らしいことだと思いますし、全く知らない者同士が仲良くするのは、たとえば「知り合いの知り合い」のような繋がりでもない限り、難しいものです。その点でも、本プログラムは積極的にチーム同士の交流を促進して頂いていると思います。

――今秋予定の欧州・英国訪問および対面商談には何を期待されますか。

まずは将来の当社の顧客となる候補先が見つかることに期待しています。既に欧州では3か国の顧客企業に導出実績がありますが、現在の欧州市場では、GDPRをはじめとした患者プライバシー保護に対する規制が非常に厳格である一方で、AIによる診断支援や創薬支援の現場では「多様かつ高品質な実臨床データ」が求められています。
その結果、産業利用に適した医療データの取得と活用が制度面で難航しているという、構造的なジレンマが生じていると想定しています。そこに我々が日本の医療機関から収集したデータセットを提供することで、彼らの抱える課題を解決できると考えています。

――欧州市場には競合する会社はいないのですか?

米国市場はすでに競争の激しい世界ですが、欧州市場には、これという競合相手が見当たりません。ニーズは確実に存在しているが市場としてはまだ開花していない、ビジネスでいえば「超アーリーフェイズ」といった段階です。そこで我々としては、いまのうちにデータを導出するサプライチェーンを構築し、それを精度高く提供する体制を構築しておきたいと考えています。

将来は医療データ提供を通じて新薬開発にも貢献したい

――御社がいま思い描いている「将来の展望」についてもお聞かせください。

まずは対象疾患の拡充(脳疾患・心臓疾患・がんの三大領域)および収集したデータの一元化、そして法整備やセキュリティなども含めたスタンダード(標準化)の確立を目指します。データ収集ネットワークについても、当社は現在、日本国内の大学病院の約半数にご協力頂き医療データを収集していますが、将来的には国内すべての大学病院のご支援の下で医療データを収集する体制を整えたいと考えています。特定病院群の病院についても、いずれは国内の施設すべてにご支援頂き、次世代の医療イノベーションが起こりやすい素地にしていきたいと思います。また現在の顧客は医療AI開発を行う企業が主流ですが、いずれは製薬企業と一緒に新薬創出にも挑戦したいですね。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

当社はこれまで露出の機会も少なく、業界でも「知る人ぞ知る」存在でした。しかし今後は、多くの方々に当社の事業を知ってもらおうと考えています。特に医療データの利活用を検討中の方々には、当社の存在を知ってもらい、当社のデータセットを活用することで、自社で構築するより時間も予算も節約できることを知ってほしいですね。我々としても露出の機会を通じて、当社をまだ知らない人には存在を知ってもらい、当社を知る人とはさらに強固な関係につながるきっかけにしたいと考えています。

for profile1.png平尾 彰浩氏(代表取締役)

慶應義塾大学理工学部に進学。学生時代から医療ビジネスに興味があり、研究室では医工連携(光線力学療法の研究開発)にも挑戦。また学生発スタートアップにも参画するなど、起業にも関心を寄せていた。卒業後は医療系会社などに就職するものの、スタートアップへの熱意はその後も冷めることなく、リクルーターから伊藤雅昭先生のプロジェクトを紹介されたことを契機に、Surg storageを創業。現在も同社の代表取締役を担う。

 <UNIKORN第二期ファミリーインタビュー>
UNIKORN第二期ファミリーに聞く① 誰もが「陽子線がん治療」を利用できる世界を 株式会社ビードットメディカル

<UNIKORN第一期ファミリーインタビューはこちら>

UNIKORNファミリーに聞く⑧ 4次元データを用いた創薬AIで化合物探索の「自動化」に挑む SyntheticGestalt(シンセティックゲシュタルト)株式会社
UNIKORNファミリーに聞く⑦ 東大発の人工知能×画像解析技術で世界市場へ エルピクセル株式会社
UNIKORNファミリーに聞く⑥ 体外受精の自動化技術で不妊治療のレベルアップを目指す 株式会社ARCS(アークス)
UNIKORNファミリーに聞く⑤ 革新的な合成ペプチド探索技術で再生医療・細胞治療・培養肉の更なる商業化に貢献! ペプチグロース株式会社
UNIKORNファミリーに聞く④ 小児希少難病に対する細胞治療薬を島根の地から世界に届けたい PuREC株式会社(ピュレック)
UNIKORNファミリーに聞く③ 医薬品の「製造プロセス開発」におけるコストダウンを実現する 株式会社Auxilart (オキシルアート)
UNIKORNファミリーに聞く② 細胞死メカニズムを利用した新規抗がん剤を開発 株式会社 FerroptoCure(フェロトキュア)
UNIKORNファミリーに聞く① 慶應義塾大発の最新技術で悪性脳腫瘍の新治療に挑戦! 株式会社 iXgene(アイエックスジーン)

pagetop