スタートアップ支援プログラム「UNIKORN」参加企業(UNIKORNファミリー)に聞く⑤
「UNIKORN(ユニコーン)」は、ライフサイエンス領域で事業展開するスタートアップの海外展開(英国および欧州市場への進出)を支援する新事業です。プログラムに選出された8社のスタートアップの皆様に、事業の概要や今後の展望、欧州展開に期待することなどをお聞きしました。UNIKORNに関する詳しい情報はこちらから。
【企業紹介】ペプチグロース株式会社 |
細胞培養に用いる成長因子を完全化学合成ペプチドで再現
――貴社の概要と事業内容についてご紹介ください。
当社は、東京大学発のバイオテックであるペプチドリーム株式会社と、三菱商事株式会社の共同出資会社として誕生しました。創立以来、数十種類の成長因子をターゲットに、完全化学合成で製造可能な「成長因子代替ペプチド」を開発しています。研究開発と製造はパートナーと協力しながら実施しており、当社は製品の販売・マーケティングを主に担当します。現在は11種類の代替ペプチド製品を取り扱っており、年度内に13製品まで拡大する予定です。今年10月には、FGF2(bFGF)の代替ペプチドを新たに上市しました。この因子は再生医療・細胞治療だけでなく、培養肉の領域などでも広く利用される、汎用性の高い成長因子であり、当社も起業当初よりペプチド開発を進めてきましたが、ようやく自信の持てる製品ができました。その汎用性(=市場規模)から、ペプチグロース歴史上、最も重要な製品になると考えています。
さらに今後は、ヒトに投与する再生医療等製品の製造に利用可能なGMPグレード製品の供給も開始します。既に国内外で複数の顧客からGMPグレード製品の引き合いを入手しており、製造を担うパートナー企業と協調の上、顧客・医薬品当局からの要望に合致した品質規格での製造を行い、来年には基準に合致した製品の供給を開始できる見込みです。
――貴社が手がける「成長因子代替ペプチド」とはどのような製品なのですか?
まずペプチドとは、アミノ酸が2個から50個程度つながった集合体であり、更にアミノ酸が50個以上つながった集合体をタンパク質と言います。再生・細胞治療製品の製造に使用される従来の成長因子はタンパク質であり、大腸菌や動物細胞を用いて製造する必要があることから、製造ロット間で品質・活性のばらつき、製造時に用いた細胞由来の不純物混入のリスク、また安定性が低く製造コストが非常に高価という課題がありました。
我々が開発している成長因子代替ペプチドは、従来の成長因子と同等の機能を持ち、かつ細胞を用いずに、完全化学合成で生産できるという特徴を備えています。そのため、従来の成長因子と同等かそれ以上の機能性を持ちながらも、従来の成長因子と比べて製造コストが安く、細胞由来不純物の混入リスクもなく、環状ペプチドなので安定性も高く、品質活性のばらつきもありません。従来の成長因子は非常に高価で、培地のコストの大半を占めていましたが、当社のペプチドを用いれば、非常に安価に培地を作ることが可能であり、かつ高機能な培地の開発も可能になる可能性が有ります。
――従来の成長因子と同等以上の機能性を有するペプチドも作れるのですか?
実は組み合わせて用いることで「同等以上のペプチド」もすでに実現しており、先週開催された国際幹細胞学会(ISSCR)の会場で、お披露目をしました。パートナーの先生に取得頂いたiPS細胞からNKT(ナチュラルキラーティー)細胞を作成する際に、当社の成長因子代替ペプチドを使ったところ、細胞製造の日数が1日短縮して、かつ細胞の増殖率が2倍以上になりました。完成したNKT細胞の活性も、従来の成長因子を用いた細胞と同等でした。ここまで良い結果が出るとは、正直我々にとっても予想外でしたが、ペプチグロース社技術と製品のポテンシャルを示すことができる非常に良い結果となり、このデータをきっかけに複数の潜在顧客からコンタクトがありました。
――牛丸様は、どのような経緯で事業に参画されたのでしょうか?
大学・大学院ではDNA無細胞複製系やmRNAの翻訳・分解機構等、バイオテクノロジーの基盤技術を研究していました。その経験から、ライフサイエンス領域で事業化に挑戦したい!と考えるようになり、卒業後は三菱商事株式会社に入社。のちに社内で「細胞培養に用いる培地成分である、成長因子などの代替物質を開発・製造・販売する会社を作る」というアイデアが誕生し、最若手のサポーターとして事業設立に関与しました。ペプチグロース設立時は、会社の登記を始めとした設立に関連する多くの業務を担当し、現在は会社運営、営業、総務、広報など社内の諸々の業務を全て担当しています。
2年前から英国進出に挑戦して「参入ハードルの高さを痛感」
――貴社の海外展開プランについてお聞かせください。
当社は、2年前から海外事業展開を本格的に開始しました。最初は三菱商事の米国・欧州子会社および販売代理店のある地域を中心にマーケティング活動を展開し、また現地の代理店やライフサイエンス業界に精通する人材などもフル活用してきました。日本では三菱商事やペプチドリームのネームブランドが通用しましたが、海外では通用しません。そこで学会や展示会に積極的に出展し、多くの人たちと面談するという活動を続けてきました。おかげで最近は当社の名前も少しずつ知られ、問い合わせの数も増えました。もっとも、それは米国市場の話で、英国市場では出遅れているのが正直なところです。
――欧州展開を考えると、やはり英国の存在は重要なのでしょうか?
欧州地域における細胞治療・再生医療業界に参入する上で、重要なポイントとなる国となると、設立されているスタートアップの数などを見ても、やはり英国が1位になるでしょうね。わたしの印象としては、次いでドイツ、フランス、北欧、オランダ、などが続くイメージです。
――「英国市場では出遅れた」とのことですが、その理由は何でしょうか?
他の欧州諸国は多民族国家だからか、オープンマインドに話を聞いてくれたり、面談の約束も取りやすかったり、製品サンプルを送付するとすぐテストしてくれたりと、日本人の我々でも関係性を構築しやすいのですが、英国ではその方法がうまくいかずに、大変でした。新技術に対して保守的な側面もあるのかもしれません。我々も2年間かけて開拓に挑戦しましたが、他の欧州諸国と比べても参入のハードルが高いという印象です。
英国で再生・細胞治療に取り組む全ての人たちに知られる存在を目指す
――UNIKORNプログラムに参加することになった経緯をお聞かせ下さい。
普段からLINK-Jのイベントには参加しており、メールマガジンも読んでいるので、UNIKORNプログラムの概要も、メルマガで知りました。現在の会社規模的にもスタートアップであると自負はしていますが親会社の存在から、UNIKORNへの参加を勝手に躊躇していた部分もありましたが、LINK-Jのご担当者様からご案内のメールを頂き、またお話をききペプチグロースに間違いなく必要なプログラムであると確信したため、参加を決断しました。
――実際に参加してみて、いかがでしたか?
まずメンターのマーカス・ヨー(Marcus Yeo)氏と「なぜ我々だけでは英国市場に参入できなかったのか?」という基本的なところから議論しました。結論として、「如何にして当社技術・製品のcreditabilityを上げるか」に向けてアクションすることになりました。具体的には、UK・EUにおける再生・細胞治療に関する著名な研究者(KOL)を、EU連合の研究支援プログラムのシステムなどから抽出し、業界に顔が効くマーカス氏からコンタクトし、興味を持って頂いたKOLと個別に協業に関する議論を行っています。マーカス氏には、顧客候補の研究者に当社の案内メールを送信するという実務的作業まで担当して頂いています。この出会いだけでも、参加して良かったと思っています。
――最後に、今後の貴社の展望をお聞かせください。
これまでも、我々なりに英国で事業活動を展開してきましたが、大学・企業での採用実績はまだまだ足りないのが現状です。今後はマーカス氏の協力も得ながら、英国の細胞治療・再生医療研究の皆様と出会い、成長因子代替ペプチドのサンプル品を提供して、当社の技術を知ってもらう機会を作っていくことが、当面の最優先目標ですね。将来的には、英国で細胞治療・再生医療に取り組む全ての人々に当社の名前が知られて、細胞培養用の成長因子といえばペプチグロースの名前が真っ先に浮かぶ存在になりたいと考えています。
大学院卒業後、ライフサイエンス技術の事業化を目指して、三菱商事に入社。現在の「細胞治療・再生医療に用いる革新的素材を作る」というコンセプトが誕生したのは、5年前。最初は三菱商事の社員の立場から、新会社設立に向けて最若手として奔走する。1年後の2020年4月にペプチグロース株式会社を設立。現在は同社の経営企画・営業部長などを担当する。代表取締役の杉本二朗氏と並ぶ、同社の最古参のひとり。
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