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インタビュー・コラム

細胞死メカニズムを利用した新規抗がん剤を開発 株式会社 FerroptoCure(フェロトキュア)

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スタートアップ支援プログラム「UNIKORN」参加企業(UNIKORNファミリー)に聞く②

UNIKORN(ユニコーン)」は、ライフサイエンス領域で事業展開するスタートアップの海外展開(英国および欧州市場への進出)を支援する新事業です。プログラムに選出された8社のスタートアップの皆様に、事業の概要や今後の展望、欧州展開に期待することなどをお聞きしました。UNIKORNに関する詳しい情報はこちらから。

0059.JPGのサムネイル画像大槻雄士氏(株式会社 FerroptoCure 代表取締役・最高経営責任者)

【企業紹介】株式会社 FerroptoCure(フェロトキュア)
株式会社FerroptoCureは、慶応義塾大学の研究室から誕生した新技術の臨床応用を目指して誕生したスタートアップです。フェロトーシス(ferroptosis)と呼ばれる、鉄依存性の細胞死メカニズムを利用して、悪性腫瘍や難治性神経変性疾患の治療技術の確立を目指します。会社名は、フェロトーシスと治癒(cure)に由来します。

「鉄依存性細胞死」現象を利用して悪性腫瘍の治療薬を開発

――貴社の事業内容についてご紹介ください。

我々は、フェロトーシスと呼ばれる鉄依存性の細胞死現象を利用して、新たな疾患治療薬の開発を行っています。元慶應義塾大学教授の佐谷秀行先生(現慶應義塾大学名誉教授、藤田医科大学教授、同社取締役)の研究室から誕生した技術の臨床応用を目指して、2年前に誕生しました。現在は乳がんをはじめ、様々ながん種に対する治療薬の開発に挑戦しています。フェロトーシスは、アルツハイマーなど神経変性疾患の発症にも関与していると考えられているため、神経変性疾患に対する開発も進めたいと考えています。事業としては、2023年5月に1回目の資金調達を完了。現在は乳がん及び動物がんに対するパイプラインの開発を進めています。

――大槻様は、どのような経緯で起業されたのでしょうか?

わたし自身の紹介をすると、臨床医(呼吸器外科)をしていました。呼吸器外科における手術例の大半は、肺がんの手術なのですが、肺がんは治療が難しく、術後補助抗がん剤治療を併用しても、なかなか治癒を達成できないのが現実でした。そこで「新しい抗がん剤が必要だ」と考えて、慶應義塾の研究室に入りました。その後、研究室の仲間の間で「この技術を臨床応用できないだろうか?」との考えが持ち上がり、我々アカデミアの研究者たち5名が共同創業者となって、当社を創業しました。


――「フェロトーシスを利用した抗がん剤」とはどんなものですか?

フェロトーシスとは、脂質過酸化物の蓄積により引き起こされる、鉄依存性のプログラム細胞死の一種です。正常細胞はフェロトーシスによって細胞死に誘導されますが、がん細胞は独自の抗酸化システムを持ち、フェロトーシスを巧みに回避します。そこで我々は、がん細胞の抗酸化システムを薬剤で破壊することで、細胞死に誘導する技術を開発しました。実際の治療では、既存の薬物治療に上乗せする併用療法になると考えています。フェロトーシスを利用した抗がん剤を開発する会社は米国にも数社ありますが、我々の技術は全ての固形がんを標的にできる点で、同業他社の技術とは大きく異なります。

――すべてのがん細胞を標的にできるということですが、がん以外の疾患にも利用できそうですね

フェロトーシスを回避して生き延びているがん細胞とは真逆で、神経変性疾患は、フェロトーシスの過剰発現によって発症することがわかっています。したがって治療アプローチも真逆で、フェロトーシスを抑制するという戦略が考えられます。フェロトーシス制御による神経変性疾患の治療に挑戦する会社は多く、海外にも沢山あります。

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「やりたいことは変わらない」が「やるべきことは常に変化してきた」

――自分たちで起業することに不安や抵抗感はありましたか?

もちろん不安はゼロではありませんが、それほど強い抵抗感はありませんでした。わたしは、「新しい抗がん剤を作りたい!」という目標を実現するために、臨床医から研究者に転向したので、当然ながら次の課題は「研究課題を実際のくすりに変えること」です。開発に必要な資金を得るためには、起業してVCから調達する必要があり、そのためにはアカデミアから飛び出す必要がありました。その意味では、「やりたいこと」は臨床医の頃から変わっておらず、その実現に向けて「やるべきこと」が、その場面ごとに常に変化してきたといえます。

――起業から2年経ちますが、苦労されたことはありましたか?

最も苦労したのは、資金調達と人材確保です。我々は、5人の医師・研究者で創業したので、後に事業を進めるにあたり、投資家の皆さんからは「ビジネス展開の専門家がいない」と指摘されました。そこで資金調達と人材確保の両方を達成するために、さまざまなイベント等に参加して、少しずつ我々の知名度を高めていきました。最初に挑戦したイベントは、慶応義塾大学が主催する「医療ベンチャー大賞」でした。資金調達と人材確保のどちらの方が大変か?といえば「資金調達」でしょうか。お給料を支払わないといけませんから(笑)。

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英国はがん医療のオピニオンリーダーが多く治験も実施しやすい

――海外進出を目指す理由について教えてください。

海外進出は、我々にとって必須条件だと考えています。つまり当社は、自社で薬剤を製造販売するのではなく、技術を外部の製薬企業にライセンスアウトするビジネスを目指していますが、製薬企業の担当者には、よく「開発早期の時点で人種の壁を超えてほしい」と要求されています。日本人患者だけの試験結果では、自信をもって海外展開できないというわけです。したがって、開発早期の段階で幅広い人種を対象とした試験を組むことは、我々に課せられた課題だといえます。

――なぜ英国および欧州市場に挑戦されるのでしょうか?

まず英国には、がん治療のキーオピニオンリーダーが沢山いて、がん治療薬の開発が進めやすいという利点があります。また、世界有数の規模を有する英国のがん研究チャリティ団体「Cancer Research UK」の本拠地でもあります。治験費用にしても、米国よりも安く試験が実施できるのも魅力的ですね。

今秋のバイオヨーロッパ参加時には現地企業や大学とつながりを作りたい

――本プログラムに参加を決めた理由を教えてください。

プログラムを知ったきっかけは、ソーシャルネットワーキングサービスでした。当社と同じく、慶應義塾大学発の技術で事業化を目指す、株式会社iXgene(アイエックスジーン)の水野さんとも連絡を取り合い、色々と相談しました。水野さんとは、過去に別の支援イベントで1週間共に過ごしたことがあり、よく連絡し合う仲なのです。そこで「面白そうな企画だ」と意見が一致し、応募を決めました。

――実際に参加してみた感想もお聞かせください。

ヒアリングでは「英国進出について、どう考えているのか?」といった質問も飛び出し、あらためて海外展開の意義を見直す良い機会になりました。5月に開催されたキックオフイベントでは、メンターの方々とも色々と話をしました。参加者の中には、水野さんをはじめ知り合いも多く、久しぶりに対面で話をしました。今後の目標は、まず今秋のバイオヨーロッパ参加時には、将来のライセンスアウト先の候補となる会社とのつながりを作ること。さらに可能であれば、実際にライセンスアウトに向けた交渉を進めたり、欧州のアカデミアとの交流を介して、治験サイトの掘り起こしにも挑戦したいですね。

――最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

我々はフェロトーシスを活用した抗がん剤を作り、がんで苦しむ患者さんに1秒でも早くこの治療薬を届けたい、がんで苦しむ人をなくしたいという想いを胸に起業しました。そのミッションの実現には、英国や米国を含めた海外展開が不可欠です。我々は、自分たちが開発中の技術には自信を持っていますが、その実現に向けては、皆様方のお力添えが必要になります。ぜひよろしくお願い致します。

resized retouched.png大槻 雄士氏(代表取締役・最高経営責任者)

北海道大学医学部卒業。研修期間を経て、呼吸器外科に入局。臨床現場で、がん治療の難しさに直面すると「新しいがん治療薬をつくりたい」との想いから、新たに研究者の道に転向。慶応義塾大学遺伝子制御研究部に進み、佐谷秀行先生のラボで、フェロトーシスを利用した抗がん剤の研究を担当。後に佐谷先生をはじめ、同ラボの研究者たちと共に「株式会社FerroptoCure」を設立。同社代表取締役を務める。

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