スタートアップ支援プログラム「UNIKORN」参加企業(UNIKORNファミリー)に聞く⑦
「UNIKORN(ユニコーン)」は、ライフサイエンス領域で事業展開するスタートアップの海外展開(英国および欧州市場への進出)を支援する新事業です。プログラムに選出された8社のスタートアップの皆様に、事業の概要や今後の展望、欧州展開に期待することなどをお聞きしました。UNIKORNに関する詳しい情報はこちらから。
左:加藤祐樹氏(エルピクセル株式会社 執行役員)
右:金子龍司氏(エルピクセル株式会社 グローバル事業推進室長)
中央:バイフォード・エリオット氏(エルピクセル株式会社 グローバル事業推進室)
【企業紹介】エルピクセル株式会社 エルピクセル株式会社は、AI技術による画像解析技術を用いて、医療画像の診断支援ソフトウェアや創薬支援技術などを提供する東京大学発のベンチャー企業です。現在は、医療機関向けの画像診断支援ソフトウェア「EIRL」と、製薬企業向けの創薬研究支援技術「IMACEL」を中核として事業展開しています。IT Japan Award(特別賞)、楽天テクノロジー&イノベーションアワード(Future Technology賞)など受賞多数。 |
国内では画像診断支援ソフトと創薬支援サービスを展開
――まずは貴社の概要と事業内容をご紹介ください。
加藤 当社は、東京大学の生物画像解析の研究室が開発した画像解析技術をコア技術として、2014年に誕生したベンチャー企業です。現在は、主に二つの事業を推進しています。ひとつは、X線画像や内視鏡画像といった医用画像を見て、そこから病変部を自動検出する診断支援ソフトウェアで、こちらの顧客は主に医療機関やドクターになります。もう1つの事業は、顕微鏡画像や病理組織画像などの画像解析を通じて、企業の創薬研究を支援する研究支援技術で、こちらの顧客は主に製薬企業になります。
当社は大学研究室から誕生したこともあって、当初は創薬研究支援を中心に事業展開していました。受託共同研究という形で外部の企業と契約を結び、成果を上げて料金を頂くというビジネスモデルです。その後、診断支援技術の開発にも着手し、2019年には深層学習を用いたプログラム医療機器として薬事承認を取得。現在は、医用画像から肺結節や脳動脈瘤、大腸ポリープなどを自動検出するソフトウェアを医療機関向けに販売しています。
――貴社の画像解析技術の「強み」は何でしょうか?
金子 当社の技術の強みは「生命科学に関する画像であれば何でも解析の対象にできる」点にあります。また、当社のAIエンジニアのほとんどが、ライフサイエンス研究の世界をバックグラウンドとしています。そのため、ライフサイエンスの研究者と同じ土俵で、同じ言葉で議論ができますし、研究者側の課題もすぐ理解できます。これも我々の強みといえますね。我々はこれまで複数の国内製薬企業や医療機器企業と何年もかけて共同研究を行い、成功事例を積み重ねて信頼を勝ち取ってきました。今後はさらに、欧米のメガファーマとも同様の関係を築いていきたいですね。
――これまでの研究支援事業のうち、具体的に紹介できる事例などはありますか?
金子 研究支援事業については、基本的には受託型事業なので、公表できる事例は少ないのですが、公表しているケースとしては、第一三共株式会社との包括的なAI創薬支援に関する事例があります。最近は多くの製薬企業が社内にAIチームを備えており、創薬研究に関する様々な課題の解決にAIを利用していますが、課題というのは各プロジェクト・各ステージでも異なること、大企業ほど課題の数も多く、社内のチームだけでは対応しきれないのではないかと考えました。そこで同社との仕事では、画像解析に関する課題を何でもすぐに相談できる「何でも相談室」的な部署を新設したところ、様々な課題が相談室に持ち込まれました。これは我々にとっても大きな発見でした。
新たに海外市場を目指してグローバル事業推進室を新設
――金子さん、エリオットさんが在籍する「グローバル事業推進室」について教えてください。
金子 グローバル事業推進室は2023年12月に発足した、誕生して1年にも満たない新しい組織です。当社はこれまで日本国内を中心に事業展開してきましたが、たとえばタイ・ベトナム・インドネシアといったアジア地域に目を向けると、医師不足という社会課題が深刻化しています。当社には医師向けの画像診断支援ソフトがあるので「海外事業にも取り組むべきではないか?」と提案したところ、わたしがその責任者を担当することになりました。最初はわたし1人でしたが、後にバイフォード・エリオット氏が加わり、現在は2人でグローバル事業推進室を担当しています。
――エリオットさんがエルピクセルに入社された経緯をお聞かせいただけますか。
エリオット エルピクセルに入社する前、4年ほど英国で医師として内科や血液内科で勤務する中で医学とテクノロジーの組み合わせに興味を持ちました。また学生時代に名古屋大学でインターンシップを経験したこともあり、いつか日本で働きたいと考えていました。そこで来日し、エルピクセルで約半年のインターン期間を経て、現在は正社員として金子氏と共に海外での事業拡大を目指し尽力しています。
――「グローバル事業推進」ということですが、対象は主にどの地域になりますか?
金子 当社の2つの中核事業のうち、医師の画像診断を支援する「画像診断支援ソフトウェア」は、主に医師不足が深刻なアジア地域の展開を目指します。一方で、創薬支援技術については、新薬研究が活発な欧州および米国の企業との協業を目指します。今年6月のBIO International Convention 2024(サンディエゴ)にも参加して、メガファーマとのマッチングに挑戦しました。もっともその壁は高く、その時は十分な成果を得られませんでした。
――やはりメガファーマとの交渉は難しいですか?
金子 はい。これまでの経験を通じて、たとえば海外のイベント会場に行って、行き当たりばったりにドアノックをして「Say Hello」を繰り返しても、そこからビジネスの関係を構築できる可能性は極めて低いことを痛感しました。そこで今後の戦略としては、当社の強みを明確にしてパートナリング相手へのメリットをより分かりやすくするとともに、メガファーマだけでなく海外のバイオテックにもアプローチをして、彼らとの共同事業を通じて海外でも実績を重ねて、その実績をベースに再度メガファーマの門戸に挑戦する方法も考えています。
――提携先のバイオテックがどこかの企業に買収されれば、貴社の技術力が知られるきっかけにもなりますね。
加藤:そうですね。会社ごと買収されるかもしれないし、開発パイプラインがメガファーマに導出されるかもしれませんが、その開発過程に当社の画像解析技術が活用されていれば、買収先でも当社の技術に注目が集まる可能性が高まると思います。最近では創薬支援だけでなく、たとえば国内光学機器会社との間で手術用AI技術の共同開発も進行しており、同じ文脈で欧米のメドテックと機器やソフトの共同開発に挑戦するという路線も検討中です。
UNIKORNで得た成果を今後の海外進出に活用したい
――UNIKORNプログラムに参加した動機をお聞かせ下さい。
加藤 海外進出は、当社にとって重要課題のひとつです。一方で、グローバル事業推進室は2人しかおらず、欧州市場の経験もないことから、ぜひプログラムを利用したいと思い、UNIKORNプログラムに応募しました。プログラムに参加してメンターの皆様の意見を拝聴し、さらに今秋開催されるBIO-Europe 2024(ストックホルム)への参加を通じて、欧州の関係者に我々の事業を知ってもらうことで、将来につながる関係を構築したいと考えています。
エリオット わたしは英国出身で内科医のバックグラウンドがあります。なので、当社の英国市場進出には大いに期待しています。英国と当社がつながることになれば素晴らしいと思うし、それをUNIKORNプログラムを通じて実現したいと考え、応募を決意しました。
――実際に参加して、どのような感想をお持ちになりましたか?
加藤 ピッチセッションでは、エリオット氏が中心となってピッチ資料を作成・発表したのですが、発表に対してメンターの方々から様々なご指摘を頂きました。LINK-Jの事務局長である高橋さんからも、個別相談を通じて資料の方向性などについてご意見を頂き、その意見を踏まえてさらに資料を書き直して再度ピッチを見て頂き――とブラッシュアップを重ねる機会があったのも、ありがたいですね。この成果を今秋のBIO-Europe 2024でも発揮したいと考えています。
エリオット メンターから頂いたフィードバックを通じて資料を修正したりと、本当に勉強になりました。
金子 今朝もブレックファスト・ミーティングがありました。これまで我々なりに海外展開に挑戦し、失敗した原因を咀嚼してきましたが、メンターの方々と議論するうちに、会話の中から具体的な課題が見えてきたので、その反省点を今秋のBIO-Europe 2024でも活用したいと考えています。特に当社の画像解析技術は、ライフサイエンス系のどのような分野、課題であっても対応できることが強みですが、特定の疾患や技術に焦点を当てた技術ではないため、技術のアピール方法を工夫しないと、顧客に対してどのような価値を提供できるのか理解してもらいにくいという課題があります。メンターとの議論を通じて、こうした点をはっきりと意識するようになったのが大きな成果です。その意味でも、UNIKORNプログラムに参加して良かったと思います。
――最後に貴社のグローバル事業の今後の将来展望をお聞かせ下さい。
金子 海外事業は、当社の成長ビジョンにおいて重要な位置を占めます。いまはまだ目立った実績はあがっていませんが、いずれは国内と同等、さらには国内を超える規模の成長を目指しています。具体的には、2025年までに1件でも多く海外の製薬企業との案件を取って、それをショーケースとしてさらに発展させていく予定です。とはいえ、まずは「最初の1件」の獲得が目下の目標。今秋の欧州渡航とBIO-Europe 2024参加についても、たとえすぐにはビジネスの結果につながらなくても、欧州の関係者に「我々に何ができるのか」を示す機会として活用したいですね。
前職は国内製薬企業の研究員として、創薬研究および薬理研究などを担当していた。研究だけでなくビジネス領域にも関心があったため、後に医療IT企業に転職し、製薬企業のセールスマーケティング支援などを担当する。その後、よりテックに近い現場の仕事に挑戦するため、エルピクセルに転職する。
2022年にエルピクセルに入社。以前は総合商社で30年以上にわたって海外事業開発を担当する。海外市場において日本企業のプレゼンスが年々低下していく現状を憂いて、今度は日本の成長に寄与する仕事に挑戦してみたいと考え、エルピクセルに転職。現在は海外事業展開の責任者を担当。
英国出身。内科医の資格を持ち、エルピクセル入社前は英国で内科医として働いていた。名古屋大学病院でインターンシップを経験したこともあり、日本語も堪能。エルピクセルには、インターン期間を経て今年3月に正式に入社。現在は金子氏と共にグローバル事業推進室で海外事業を担当する。
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