スタートアップ支援プログラム「UNIKORN」参加企業(UNIKORNファミリー)に聞く⑧
「UNIKORN(ユニコーン)」は、ライフサイエンス領域で事業展開するスタートアップの海外展開(英国および欧州市場への進出)を支援する新事業です。プログラムに選出された8社のスタートアップの皆様に、事業の概要や今後の展望、欧州展開に期待することなどをお聞きしました。UNIKORNに関する詳しい情報はこちらから。

右:島田幸輝氏(SyntheticGestalt株式会社 代表取締役CEO)
左:藤好鴻太郎氏(SyntheticGestalt株式会社 社長室室長)
【企業紹介】SyntheticGestalt(シンセティックゲシュタルト)株式会社 SyntheticGestalt株式会社は、独自開発した大規模化合物基盤AIを用いて、製薬会社が取り組む「AI創薬」を支援する会社です。従来のAI創薬が持つ様々な課題を解決するために、独自の理論に基づき設計されたAIと、膨大な量の4次元データ(化合物の立体構造×変化しうる複数の化合物の構造)の組み合わせによって、従来型の新規化合物探索用AIの課題解決に挑戦します。 |
4次元データと大規模基盤AIでAI創薬の課題解決に挑戦
――まずは自己紹介からお願い致します。
島田 代表取締役を務める島田です。この会社は6年前に起業しました。わたしにとって、起業は今回が2回目になります。前回はサイバーセキュリティの会社で、AIとヒトを区別するためのユーザーフレンドリーなCAPTCHA技術をもとに起業しました。その後、人工知能の研究で有名な、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに移り、そこで「深層学習をライフサイエンス領域に応用する」研究グループに参加。同グループで開発した「アミノ酸配列からタンパク質の機能予測をするAIモデル」を用いて、英国でSyntheticGestaltを起業しました。もっとも、事業については現在ほとんどの機能を日本に移管しています。
――「英国で創業」というのは、日本のスタートアップとしては異例ですね。
島田 現在も形式上はロンドンと日本の2箇所にオフィスがあります。とはいえ、日本の株式市場は世界的にも大きいこと、日本人である自分の強みを活かせる場所で事業をした方が良いと考えて、のちに日本に会社機能を移転しました。英国から参加しているスタッフが多いのも当社の特徴です。エンジニアの中には、全く異なる文化圏で働きたい!という人は結構多くて、彼らにとって日本や東京で働くのは、魅力的なのだそうです。
――貴社の事業でもある「AI創薬」の現在について教えてください。
島田 近年のAIの急速な進歩に伴い、製薬業界でもAIに対する認識が急速に高まりました。特に薬物動体予測モデルのいくつかは、すでに多くの製薬会社で活躍しています。一方で、AI創薬で大きく期待されているAIを用いた新規化合物の活性予測や設計などはいまだ難渋しているのが現状です。最初に用意したデータではうまく動くのに、いざ製薬会社の化合物ライブラリに適用すると、大して結果を出せないのです。我々はその原因として、学習データに問題があると考えました。すなわち、構造式のようにヒトが理解できる形に単純化されたデータでは、幾ら学習させても画期的な結果は出せないと考えたのです。さらに、データ数も限定されているので汎化性能をAIが得られないと考えています。
そこで我々は、化合物の本質的な構造である4次元の構造情報、すなわち化合物の立体構造(3次元情報)と、そこからさらに変化しうる複数の立体構造を学習データに用いた、新たな機械学習モデルの開発を行いました。既存のAIは、1次元情報や化学式などの2次元情報で学習をするのは得意ですが、4次元情報の学習は得意ではないので、我々はイチから機械学習モデルを作り、その上で10億件という膨大な量のデータで学習させた「大規模化合物基盤AIモデル」を作成しました。現在において、当社の大規模化合物基盤AIは世界的にみても大規模なものですが、今後も投資を継続し、唯一無二のモデルとして競争優位性を確保していくつもりです。
――島田さんたちが独自の回答にたどりついた理由はなんでしょうか?
島田 我々の開発チームはAI研究を得意とする人材が集まっており、必ずしもケミカル・バイオ領域の出身ではないことが、功を奏したのだと思います。我々には、AI側に課題があれば、その課題を分析して突破する能力があります。そこは、製薬経験を出発点とする他のAI創薬研究グループとは異なります。逆に化合物合成に詳しい方は、その知識を活かして既存のAIを利活用することは得意でも、そのAI自体が創薬研究に不向きであった場合は、新たなAIを開発することは困難なので研究が止まってしまいがちです。
――現在のコラボレーションについて教えてください。
島田 製薬会社などから依頼を受けて「AIを用いて解決したい課題」を一緒に解決します。いまや製薬会社側のAI創薬に関するリテラシーは非常に高く、AIに対する理解もひと昔前とは段違いです。ただ、AIで解決したい課題は会社ごとに異なり、各社ともその解決に苦労しています。一方でAI研究を得意とする我々のチームには、課題を分析し突破するケイパビリティがあります。そこは他社とは異なる特徴だといえます。具体的には、まずはお客様の課題をヒアリングし、解決に必要な提案(新規モデルを作成する必要があるか、すでにあるコンポーネントを利用するか)を行います。

海外製薬会社との大型研究契約を目指して欧州に進出
――貴社の海外進出プランについて教えてください。
島田 海外のAI企業と製薬会社との共同契約をみると、日本での契約とは規模が全然違います。そこで我々も、これまで日本のお客様と一緒に実績を作り、成長した強みを、今度は米国や欧州の製薬会社に提供して、さらにグローバル規模でも事業を進めていきたいと考えました。創薬AIの研究開発は、世界的にも競争の激しい領域ですが、我々には「4次元情報×大規模基盤AI」という唯一無二の技術があるので、海外製薬会社にとっても、当社と共にAI創薬に挑戦することの利点はあると考えています。
藤好 当社としては、事業計画の中でも「海外の製薬会社との大型契約」を挙げており、今後はより価値を出せる、より大型の契約形態で海外企業との協業に挑戦したいですね。事実、当社は今年6月にウクライナに本社を置く試薬会社Enamine Ltd.と、新薬候補探索に関する共同研究契約を締結しています。これは、日本国内では過去最大規模の新薬候補探索スクリーニングの取り組みとなりました。(同プレスリリースはこちら)
島田 これまで国内で一緒に仕事した製薬会社の皆様にも、好評頂いています。当社にはコンサルティング出身のスタッフもいるので、お客様に提出する報告書や分析内容も、わかりやすいよう心がけています。いくら技術力が高くても、アウトプットの内容が先方に理解できなければ、次の仕事には繋がりません。当社はその点も丁寧な仕事を心がけており、だからリピートのお客様も多いのだと思います。
これからは確実にAIの時代になる
――UNIKORNプログラムに参加することになった経緯をお聞かせ下さい。
藤好 LINK-Jには以前から会員登録していたので、そこでUNIKORNプログラムに関する案内を読みました。当社は英国で誕生しましたが、現在は国内事業に注力しており、海外ビジネスの知見は少ない状態でした。今年からは、米国の展示会にも出展を企画するなど、海外展開強化を検討していた最中でもあったので、まさに「渡りに船」でした。BIO-Europe 2024展示支援が含まれているのも嬉しいですね。
――実際に参加してみて、いかがでしたか?
藤好 メンターの方は非常にフレンドリーで、審査中もストレスは全くありませんでした。もし参加を検討中の方がいたら、臆せずどんどん挑戦してほしいですね。ピッチなど緊張する場面もありますが、得るものも非常に多いといえます。参加中は、他のスタートアップと仲良くなれるので、そこでの情報共有を通じて、たとえば海外の展示会に出るときは、来場者に提示できるマテリアルを持参し、強い気持ちで臨まなければならないことを教えて頂きました。5/22のキックオフイベントに参加されていたメンターにも、英国の市場特性や企業に対するアプローチについてご助言頂いたり、実際に提携候補となる企業を紹介して頂いたりしたことは嬉しい出来事でした。

――最後に、読者の皆様にメッセージをお聞かせください。
島田 「これからは確実にAIの時代になる」とお伝えしたいですね。文章生成や画像生成などでも、ようやくAI本来の性能の片鱗が見え始めたところですが、今後はさらに進化して、これまで不可能と思われていたクリエイティブな活動だってAIで代替できる時代に変わるし、我々も率先して変えていきたい。特に創薬研究は、金融・法律と並び、ヒトの知的労働が要求される世界であり、かつ3つの中で最もAI利用が遅れています。それがAIで代替可能になれば、世界もガラリと変貌するはず。AIをどう利用すれば実現できるのか? 我々も独自の視点で、今後も世界最高のAI開発に挑戦していきます。


京都大学卒業。大学卒業後は、サイバーセキュリティに関する会社を起業する。英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンでは、アミノ酸の配列からタンパク質の機能を予測する機械学習AI制作プロジェクトに参加。同技術を用いてSyntheticGestaltを起業する。同社の技術力は高く評価されており、Japan Venture Awards「中小企業庁長官賞」などを受賞している。経済産業省のスタートアップ支援プログラム「J-Startup」にも選定された。

英国オックスフォード大学卒業。大学では生物学を専攻し、卒業後は戦略コンサルティングファームで2年ほど活動する。SyntheticGestaltの事業内容に共感し、社長室室長として同社に入社。現在は室長としての業務のほかにも、資金調達や助成金申請など様々な社内業務を担当する。
こちらもぜひ