スタートアップ支援プログラム「UNIKORN」第二期参加企業(UNIKORNファミリー)に聞く①
メンタリングや展示会参加支援、プロモーション支援などを通じて、国内スタートアップの英国/欧州市場進出を手助けするプログラム「UNIKORN(ユニコーン)」。第二期となる今期も、前回に引き続き、多数のご応募を頂き、厳正な審査と選考を経て、4社のライフサイエンス系スタートアップが選出されました。本企画では、新たにUNIKORN第二期ファミリーとなる皆様に、現在の事業内容や今後の展望などをお聞きしました。
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今回お話を伺ったのは、株式会社ビードットメディカルの古川 俊介氏です。

照射装置と治療台モックアップ、古川卓司氏(代表取締役社長・左)、古川俊介氏(経営企画室・右)
【企業紹介】株式会社ビードットメディカル 株式会社ビードットメディカルは、がん放射線療法の一種である「陽子線がん治療」の治療装置を開発・販売する医療機器スタートアップです。「PROTON for everyone (陽子線がん治療を世界中に)」をミッションとして、革新的な技術で小型かつ低価格な陽子線がん治療システムを開発し、世界のだれもが陽子線がん治療を受けられる世界を目指しています。 |
「国立放射線医学総合研究所」発のスタートアップとして誕生
――まずは、古川様の自己紹介からお願いできますでしょうか。
株式会社ビードットメディカルの古川俊介と申します。大手メーカーや、デザイン事務所などで、インダストリアルデザインの仕事に従事してきました。以前から医療現場や介護福祉といった世界に関心があったことから、2年前にビードットメディカルに入社しました。現在は経営企画室で、デザインや事業開発、投資家対応、ブランド構築といった幅広い業務を担当しています。実は、高校卒業後から英国に留学し、現地でキャリアをスタートさせたため、今回の英国訪問は個人的にも楽しみにしております。
――御社の現在の事業についてもご紹介ください。
ビードットメディカルは、独自の陽子線がん治療装置の開発と製造を行う、放医研(国立放射線医学総合研究所、現在の量子科学技術研究開発機構)発の医療機器スタートアップです。創業者であり代表取締役社長の古川卓司は、放医研で長年にわたりがん治療技術の開発に従事しており、その研究開発と臨床の経験を活かして、技術者7人が8年前に起業しました。現在は第1号案件として、都内の病院で装置導入計画が始まっており、数年後には稼働を始める予定です。
陽子線がん治療の最大の利点は「治療に前向きになれる」
――「陽子線がん治療」とは、どのような治療なのでしょうか。
陽子線がん治療は、いわゆるがん放射線療法の一種です。水素原子の原子核(陽子)を加速器で光速の約6~7割まで加速し、がん細胞に照射して細胞を殺します。一般的な放射線療法であるX線治療と比較すると、深部のがんにも最大エネルギーで的確に照射できることから、線量集中性が高く、しかも周囲の臓器や正常組織にはダメージが及びにくいという特徴があります。陽子線がん治療自体は昔から行われていますが、装置が巨大かつ高額であり、日本をはじめ世界であまり普及していないのが現状です。
――他の治療と比べて「陽子線がん治療」最大のメリットは何でしょうか?
現在のがん治療の主流は外科手術、抗がん剤治療とX線治療ですが、手術に伴う痛みや抗がん剤治療に伴うつらい副作用は、患者さまにとっては身体的にも心理的にも大きな負担です。一方で陽子線がん治療は、体への負担が非常に小さく、入院の必要さえなく、実際に仕事や家事を続けながら受療している人もいます。陽子線がん治療の普及を通じて、たとえがんになっても前向きに治療を受けられる社会を実現したいです。
革新的技術を用いることで陽子線治療装置の小型化に成功
――治療装置を独自開発されていますが、その特徴を教えてください。
もともと既存の陽子線治療装置は、3階建てに相当する巨大な装置でした。当社が提供する製品には、様々な革新的技術が導入されており、独自開発した超伝導磁石を用いることで、陽子線を様々な角度から曲げることができ、装置全体の小型化に成功しています。装置自体が小型なので、それを収める建屋のサイズも小さく、これは初期投資の軽減に貢献しています。その他にも、がん治療の現場をよく知る技術者集団の知見を活かして、治療フローを再設計し、建屋レイアウトの見直し、自走式の治療台の開発などを通して、全体の効率化も実現しています。
――御社の製品のターゲットについてもお聞かせください。
現在のターゲットは、主に大学病院や地域中核病院などの大規模医療施設が中心です。ただし当社としては、今後も技術革新を進めていく予定であり、さらに小型化かつ低コスト化が実現できれば、中規模の病院なども対象に含まれてくると思います。地域の病院にも設置することで、全国どこにいても利用できる身近な治療にしたいですね。

1台の陽子線治療装置を作るには2万点以上の部品が必要
――これまでの挑戦の中でも、特に苦労したポイントなどはありますか。
たとえ卓越したアイデアがあっても、スタートアップが設計から製造まで単独で行う作業は、非常に大変です。当社の場合、創業者が放医研時代に築いてきた豊富な研究実績がありましたが、それでもアイデアを具体的な設計に落とし込むまでに、3年の月日と多くの企業の協力が必要でした。さらに、既存の装置よりも小型化かつ低価格化を実現しているとはいえ、高額な設備である点は同じであり、スピード感を持って多くの病院に届けていくにはさらに様々な企業と協力体制を築きながら進めていくことが重要です。
――それだけ巨大な装置だと、1社で製造できるものではありませんよね。
その通りです。陽子線治療装置の製造には2万点以上の部品が必要です。コアとなる部品に関しては自社で設計し、外注できる部分に関してはその分野のプロと契約をして必要な技術を集約させています。さらに陽子線治療装置導入の際には、装置を収容する建屋から建設する必要があり、行政各所に対する申請業務も発生します。とにかく、常に外部と良好な関係構築が求められる仕事です。
まさに「ファミリー」の雰囲気の中で共に挑戦できている
――UNIKORNプログラムに参加することになった経緯をお聞かせ下さい。
私たちとしては、世界に当社の陽子線治療装置を届けるという目標がありますが、スタートアップが、何のコネもなしに海外市場に闇雲に乗り込んでも、時間を浪費するだけです。そこで英国/欧州展開を支援する本プログラムに参加することで、多方面に豊富なコネクションを持つ方や、将来の顧客候補やパートナー候補の人たち、当社の技術力を高めてくれる人たちとのつながりを作りたいと考えました。
――実際に参加してみて、いかがでしたか?
主催者の意向で採択企業は「ファミリー」と呼ばれているのですが、まさにそういった雰囲気の中で、メンターの皆様や主催者からも積極的なご支援を頂いてます。5月に開催されたキックオフイベントでも、メンターの皆様ともすぐに打ち解けて、当社の悩みをお伝えすると、その場で次回の打ち合わせ日程を決めたり、さらに別の投資家の方をご紹介して頂いたりと、初日からフル活用させて頂きました。私たちとしても、ここは謙虚に大人しく構えているより、積極的にお願いをした方が良いだろうと考えて、担当UKメンターや主催者とも情報共有しながら、いっぱい注文を出しています(笑)

誰もが「陽子線がん治療」を利用できる世界を実現したい
――「将来の展望」についてもお聞かせください。
医療従事者ではない私たちが「命を救いたい」というと、少しおこがましいかもしれませんが(実際に命を救うのは、日々現場で活躍する医療者の方々なので)それでも、治療に伴う患者さまの負担を少しでも軽くしたいという思いは、私たちも同じです。究極的には多くの国と地域に陽子線治療が導入され、陽子線がん治療という存在が一般的になり、現在の外科治療や化学療法と同じように、誰もが利用できる世界を実現したいです。
――最後に、本記事を読まれる読者にメッセージをお願いします。
当社の目標である「陽子線がん治療の普及」は、当社単独で実現できるものではありません。世の中には、新たな医療機器や治療薬が次々と誕生していますが、それらがいまだ十分に普及しないのは、スタートアップが1社だけで頑張る傾向があるからではないかと推測しています。私たちは、自社の技術だけにこだわらず、他にも革新的な医療機器や治療薬が誕生したら、チームやファミリーの形を借りて、一緒になって世の中に発信して、がんと戦う患者さまに届けていく取り組みに挑戦したいです。
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英国キングストン大学プロダクト&家具デザイン科を首席で卒業。大学卒業後は、英国の事務所でインダストリアルデザインの仕事に従事する。帰国後も大手メーカーやデザイン事務所などで経験を積み、2年前にビードットメディカルに入社する。デザイン経営(デザインをブランド構築やイノベーション創出に活用する経営)を重視する社長の古川卓司氏の意向を受けて、現在は製品デザインだけでなく、事業開発など社内の様々な業務を担当中。
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