本研究のポイント
◇カチオン性脂質とpH応答性多糖の組み合わせにより免疫細胞からのサイトカイン産生量を約100倍に。
◇がん組織のM2型マクロファージを減少させ、M1型マクロファージを増加させることが判明。
◇従来の10分の1の抗原量でがん免疫を強力に活性化させることに成功。
概要
大阪公立大学大学院 工学研究科の弓場 英司准教授らの研究グループは、がん抗原を封入した微小カプセルであるリポソームにカチオン性脂質を組み込み、表面にpH応答性多糖を修飾することで、がん細胞を直接攻撃する細胞性免疫を強力に活性化できるドラッグデリバリーシステム(DDS)材料の開発に成功しました。
近年、免疫チェックポイント阻害療法などのがん免疫療法が、第4のがん治療法として注目されています。しかし、免疫チェックポイント阻害療法は2~3割のがん患者にしか効果がなく、がん細胞を直接攻撃する細胞性免疫を誘導するためのDDS開発が必要とされています。本研究グループはこれまで、pHによって状態が変化する多糖誘導体を表面に修飾したリポソームを用いて、がん抗原を樹状細胞へ運ぶデリバリーシステムの開発を行ってきました。本研究では、細胞性免疫の誘導効率をより高めるため、免疫細胞を活性化する作用があるカチオン性脂質に着目しました。
本研究ではまず、正に帯電しているカチオン性脂質をリポソームに組み込むことで、負に帯電しているpH応答性多糖のリポソームへの修飾量を高めることに成功しました。また、抗原提示細胞の一種である樹状細胞は負に帯電した粒子を取り込みやすいため、樹状細胞へのリポソームの取り込み効率が約5倍になり、樹状細胞からのサイトカイン産生量が約100倍に増加しました。次に、このリポソームをがん組織に投与したところ、がん免疫を活性化するM1型マクロファージが増え、がんの成長を促進するM2型マクロファージを減少させることが明らかになりました(図1)。さらに、がん細胞を移植したマウスにこのリポソームを用いたワクチンを投与したところ、抗原量が従来に比べて10分の1であったにも関わらず、強力ながん免疫が誘導され、がんの成長が抑制されたことが分かりました。本成果は、カチオン性脂質とpH応答性高分子を組み合わせることが、免疫細胞の強力な活性化を促すリポソーム型がんワクチンの作製に有効であることを示しています。
本研究成果は、Elsevierが刊行する国際学術誌「Journal of Controlled Release」のオンライン速報版に2022年10月31日に掲載されました。
弓場准教授のコメント
本研究では、機能性多糖とカチオン性脂質を組み合わせることで、従来の10分の1の抗原量でも強力ながん免疫を誘導できるワクチン担体の開発に成功しました。本成果を基に、実用的な抗原と組み合わせることで、がん免疫療法や感染症用ワクチンのための抗原運搬体の開発を進めていきます。
掲載誌情報
【発表雑誌】Journal of Controlled Release
【論文名】Cationic lipid potentiated the adjuvanticity of polysaccharide derivative-modified liposome vaccines
【著者】Eiji Yuba, Yuna Kado, Nozomi Kasho, Atsushi Harada
【論文URL】https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2022.10.016
資金情報
本研究は、科学研究費補助金(15H03024、17K20110、21H03822)の支援を受けて行われました。