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イベントレポート

LINK-J & UC San Diego Joint Webinar Series #1-#5(2020年12月-2021年2月開催)

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2020年12月18日、2021年1月15日、1月29日、2月5日、2月10日の5回にわたり「LINK-J & UC San Diego Joint Webinar Series #1-#5」をライブ配信いたしました(主催:LINK-J、共催:UC San Diego)。
UC San DiegoとLINK-Jはこれまで、UC San Diegoのトップ研究者を日本にお招きしてシンポジウムを共催してまいりましたが、新型コロナウィルスの影響を踏まえて今年度は、それに代えて、日本の大学とUCサンディエゴからそれぞれのトップ研究者をお招きするジョイントウェビナーをシリーズでお送りしたものです。各回の概要は以下のとおりです。

本ウェビナーの録画は下記よりご視聴いただけます。
なお、一部公開されていない講演がございますこと、一定期間経過後に非公開に変更させていただく可能性がございますことを予めご了承ください。
https://www.youtube.com/c/LINKJ
ぜひYouTubeチャンネルへのご登録もお願いいたします。

「第1回 with 京都大学 最先端のナノエンジニアリングとドラッグデリバリー技術」(2020年12月18日開催)

UC San DiegoからNicole F. Steinmetz先生を、京都大学から田畑泰彦先生をお招きし、ナノエンジニアリングとドラッグデリバリー技術の最新動向につきご講演いただきました。

画像1.png"NanoEngineering Gone Viral: Plant Virus-Based Immunotherapy and Vaccines"
Dr. Nicole F. Steinmetz(Professor, Department of NanoEngineering and Director, Center for Nano-ImmunoEngineering (nanoIE), Jacobs School of Engineering, UC San Diego)

哺乳類には感染しない植物ウイルスのカプシドをプラットフォームとし、ナノエンジニアリングで加工したウイルス様粒子のライブラリを用いた医療応用、農業応用の研究開発を行っています。このような粒子は植物内で安価で高品質に生産することができ、輸送におけるコールド・チェーンも必要としないため、資源が乏しい地域でも生産が可能です。植物ウイルスの医療応用として、がんの転移及び再発を防止する新たながん免疫療法の研究、COVID-19ワクチンの研究をご紹介いただきました。

画像2.png"Drug Delivery Technologies for Future Advanced Medical Treatment"
田畑 泰彦 先生(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 再生組織構築研究部門 生体材料学分野 教授)

将来の先進的治療法の一つとして、生体が本来有する自然治癒力を利用した組織の再生医療が期待されています。田畑先生は、生分解性のハイドロゲルを用いた組織再生部位周辺における細胞の増殖因子やケモカイン、遺伝子等の徐放化ドラッグデリバリーシステムにより、細胞の増殖と分化を促し、様々な組織の再生医療を実現することを目指しています。

「第2回with慶應義塾大学 再生医療と計算神経科学における最新の展望 Session 1 再生医療」(2021年1月15日開催)

シリーズ第2回目、第3回目として、UC San DiegoからAndrew McCulloch先生(Distinguished Professor of Bioengineering and Medicine; Director, Institute of Engineering in Medicine, UC San Diego)を、慶應義塾大学からLINK-J理事長でもある岡野栄之先生(慶應義塾大学大学院医学研究科 委員長/慶應義塾大学医学部生理学教室 教授)をモデレーターとし、「再生医療と計算神経科学分野における最新の展望」を開催いたしました。Session1では「再生医療」を、Session2では「計算神経科学」を取り上げました。
2015年、慶應義塾大学とUC San Diegoは、医学分野を中心とした研究者教育における共同交流を開始し、覚書としてMOUを締結しました。2020年にはMOUが更新され、協力範囲をバイオエンジニアリングに拡大し、それを踏まえて今回のウェビナーテーマが選定されました。

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"Using stem cells to probe mechanisms of Alzheimer's disease"
Dr. Lawrence S. B. Goldstein(Distinguished Professor, Department of Cellular and Molecular Medicine, Department of Neurosciences, UC San Diego; Scientific Director, Sanford Consortium for Regenerative Medicine)

アルツハイマー病は進行性の不治の病であり、疾患のプロセスは完全に解明されていません。近年主流となっているアミロイドカスケード仮説には問題点があり、それを示すように、アミロイドβやプラークを標的とした多くの大規模臨床試験は失敗に終わっています。Goldstein先生は、疾患への理解を深めるためにヒト幹細胞を用いた研究を行いました。本研究により、遺伝的・環境的影響の違いがどのようにしてアミロイドβやp-tauの変化をもたらし、最終的にはシナプスの喪失やアルツハイマー病につながるのかを考える上で、ある種のマルチパスウェイモデルが適切であることが示唆されました。また、結果としてヒトで有用と考えられる薬剤が同定されました。今後開発を臨床試験へと進め、ヒトを対象とした研究を進めようとしています。

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"Regenerative medicine for spinal cord injury using iPS cells"
「iPS細胞を用いた脊髄損傷の再生医療」
中村 雅也 先生(慶應義塾大学医学部・学部長補佐(産学連携・広報担当)/慶應義塾大学医学部整形外科学教室 教授)

かつて、脊髄は損傷を受けると再生しないため、脊髄損傷(SCI)により壊滅的な機能喪失をもたらすと信じられていましたが、近年の神経科学の進歩により、SCIを有する患者を治療できる可能性が出てきました。損傷した脊髄の再生には様々な要素が関係していますが、今回は「細胞移植」に焦点を当て、iPS-NSCの移植が脊髄損傷後の機能回復を促進する概念とメカニズム、直面した課題などを説明されました。また、亜急性期のSCI患者に対しては、機能回復を促進するためにiPS-NSCの移植を行っていますが、慢性SCI患者には細胞移植単独では効率的ではなく、細胞移植とリハビリテーションを組み合わせて、機能回復力を高める必要があると述べました。 慢性SCI患者を対象としたロボットスーツを用いた神経リハビリテーションの臨床試験がすでに始まっており、これらの治療法を組み合わせれば、近い将来、脊髄の再生という夢が実現できるとの期待で締めくくられました。

「第3回with慶應義塾大学 再生医療と計算神経科学における最新の展望 Session 2 計算神経科学」(2021年1月29日開催)

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"How memories are consolidated while you sleep"
Dr. Terrence Sejnowski(Professor and Laboratory Head, Computational Neurobiology Laboratory, Francis Crick Chair, Salk Institute for Biological Studies; Distinguished Professor of Biological Sciences, UC San Diego)

睡眠中、脳は徐波睡眠(深睡眠)とレム睡眠の間を循環しながら活動しています。
これら睡眠のステージにおける海馬と大脳皮質の間のメッセージが、長期記憶定着のためのステージをセットするというエビデンスが蓄積されています。
ヒトの大脳皮質の記録によって、ノンレム睡眠中のシナプス可塑性のメカニズムを誘発するのに貢献している可能性のある、動的な電気活動パターンが明らかになりました。

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"Real time KANSEI and Stress Extraction only using Frontal EEG"
「前頭部脳波のみを用いた感性とストレスのリアルタイム抽出」
満倉 靖恵 先生(慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 教授)

満倉先生は、脳波取得、ノイズ除去、データ解析を行い、数理モデル(システム同定)を作成することにより「感性」を定量化する方法を提案されました。感性は日本で最初に研究された日本語であり、感性は感情と似ていますが異なるものです。感情は生得的な能力ですが、感性は生まれつきの能力であり、生活習慣とともに後天的に身につけていくものであります。脳波には多くのノイズが現れますが、それをリアルタイム で除去する方法も提案しています。また、脳波を用いたストレスの定義も行っています。脳波を用いて感性とストレスを定義するのは非常に困難ですが、17年分のデータを用いてホルモンと関連づけながら定義することに成功されました。

「第4回with大阪大学国際医工情報センター 培養組織に対する物理刺激による機能化 Session 1 Mechanobiology and Cell Matrix Interactions」(2021年2月5日開催)

シリーズ第3回目、第4回目として、UC San DiegoからAndrew McCulloch先生を、大阪大学国際医工情報センターから紀ノ岡正博先生(大阪大学国際医工情報センター 副センター長)をモデレーターとし、「培養組織に対する物理刺激による機能化」を開催いたしました。セッション1はMechanobiology and Cell Matrix Interactionsを、セッション2はBiofabricationをテーマにご講演いただきました。
UC San Diegoと大阪大学は、教育と研究の分野で長きにわたり協力関係を築いてきました。近年では、バイオエンジニアリング、バイオインフォマティクス、組織工学、再生医療など、連携分野の拡大に努めてきました。

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冒頭、それぞれの機関を代表してお二方から開会の言葉をいただきました。
Dr. Sandra Brown(Vice Chancellor for Research, UC San Diego)
貴島 晴彦 先生(大阪大学国際医工情報センター センター長)

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"Systems engineering approaches to advance understanding of cell-ECM interactions regulating migration"
Dr. Stephanie Fraley(Associate Professor of Bioengineering, Jacobs School of Engineering, UC San Diego)

真核生物の最も基本的な機能を理解するため、また、多くの疾患のプロセスを理解するために不可欠な要素は、生細胞がどのようにして信頼性が高く組織化された方法で遊走するのかを理解することです。
細胞遊走は、多数の空間的・時間的スケールで数万個の分子の機械的・化学的相互作用から生じる、複雑で不均質な創発的な挙動であります。こうした複雑性により、現在でも、細胞がどのようにして環境キューや膨大な分子マシンを統合し、信頼性の高い全細胞や多細胞の挙動を引き起こすのかを、定量的に理解することはできていません。Fraley先生の研究室の中心的な仮説は、マルチスケールシステム工学的アプローチを応用することで、出現した細胞遊走は一般化・予測・制御が可能であるというものです。
本講演では、この目標達成に向けて技術的・概念的な進歩を遂げてきた研究のうち、3つの研究を紹介いただきました。第一に、データに基づいたモデリングを可能にするために、細胞遊走の基礎となる細胞と細胞外マトリックスの相互作用を同時に測定するための顕微鏡を用いた定量的なアプローチの進歩について説明されました。第二に、単細胞シークエンシングと遺伝子制御ネットワーク解析のために、表現型に基づいて細胞を物理的にソートする方法を紹介されました。第三に、基質の硬さをメカノトランスダクションのアウトカムに変換する伝達関数を開発し、矛盾した実験的傾向を説明できるようにした事を紹介されました。

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"Machine learning-based detection of cellular traction forces"
「機械学習を用いた細胞発生力の推定」
出口 真次 先生(大阪大学大学院基礎工学研究科機能創成専攻 教授)
物理的な"力"が細胞の様々な機能調節において本質的な役割を果たしていることが明らかとなっており、がん細胞を含む「増殖能を維持した細胞種」には広く普遍的に非筋II型ミオシン依存的に内在性収縮力が生じており、とりわけその収縮力が重要な調節因子となっている事を説明されました。力はモノではなく、(モノを同定することに焦点の置かれる)従来的な分子生物学の観点からは捉えにくい対象であり、特に、非筋II型ミオシンは膨大なシグナル分子の下流において働くものであり、何らかの分子擾乱(例えば、特定の遺伝子の発現抑制や変異、または薬剤投与)によりひいては細胞収縮力がどのように変化するのか、一筋縄には理解が困難です。出口先生は機械学習を利用して、高いスループットで個々の細胞が発生する収縮力を推定する技術を開発していらっしゃいます。本講演では、本技術を細胞の機能調節や病気の発生に関わる様々な研究課題へと適用した例を紹介いただきました。

「第5回with大阪大学国際医工情報センター 培養組織に対する物理刺激による機能化 Session 2 Biofabrication」(2021年2月10日開催)

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"Rapid 3D Bioprinting for Precision Tissue Engineering"
Dr. Shaochen Chen (Professor and Chair, NanoEngineering, Jacobs School of Engineering, UC San Diego)

精密なティッシュエンジニアリングに活用可能な高速3Dバイオプリントについてお話しいただきました。Chen先生はBio Printed Tissueの商業化を行うスタートアップ(Allegro 3D, Inc.)のFounder/ Scientific Advisorを務めていらっしゃいます。
同社のミッションは、損傷を受けた臓器の修復・再生、薬のスクリーニングへの3Dバイオプリントの活用です。今回ご紹介いただいた新しい3Dバイオプリントは非常に高速かつ正確であり、以下の特長を持ち、組織のスキャフォールドや生体組織モデルを作ることができます。
・いかなる形状、多孔性にも対応でき微細構造のプリントが可能
・物理特性の設定に優れている
・細胞外マトリックスの構成を正確にコントロールできる
・細胞の配置について実際の生体を擬態できる
この3Dバイオプリントを活用することで、従来と比較して費用的・時間的コストを抑えられる、試験において2Dや動物モデルではなくヒトのモデルを利用できるといった利点があります。

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"Biofabrication for 3D-Human Tissue Models by Nano/Micro-Biomaterials"
松﨑 典弥 先生 (大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 教授)

ナノ/マイクロバイオマテリアルを使った3Dヒト組織モデルのバイオファブリケーションについてご講演いただきました。ハイスループットスクリーニングシステムに応用可能な3D-Human complex tissue modelsの作成について、2つの方法が提案されました。これらは、医薬品や創薬研究への応用が期待されます。前述の2つの方法としては、細胞-細胞間の相互作用を刺激し層状構造を作るのに有用なナノコーティングや、コラーゲンマイクロファイバーを用いた高密度ECMを有するハードティッシュモデルの作成などが挙げられました。

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本ウェビナーシリーズでは、セッション毎にパネルディスカッションの時間も設けられ、視聴者との興味深い議論が交わされました。
ご視聴いただいた皆様誠にありがとうございました。今後のウェビナーもご期待ください。

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