■ 講演会「Autonomous Biomanufacturing of iPSC-Based Cell Therapies」開催のご案内
講演者:マリナ・マドリッド博士(Marinna Madrid, PhD、セルリノ・バイオテック社 Co-Founder & Chief Product Officer)
■ 講師略歴
マリナ・マドリッド博士は、ハーバード大学大学院にて応用物理学の博士号および修士号を取得したバイオフィジシストです。博士課程でナノスケールのレーザー光学技術を応用した細胞内デリバリー手法を共同発明し、複数の特許を取得しました。学部はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で生物物理学を専攻し、同大学卒業後に最先端テクノロジーによる医療革新を志して企業の道へ進みました。博士課程での研究成果を基に、レーザー、ロボティクス、計算技術(AI)を組み合わせて多様な細胞を作製するバイオテクノロジー企業Cellino Biotech社(セルリノ・バイオテック)を共同創設し、現在同社にて最高製品責任者(Chief Product Officer)を務めながら、個別化iPS細胞治療の自動製造プラットフォーム開発を牽引しています。
マドリッド博士はこれまでに数々の表彰を受けています。ハーバード大学大学院在籍中にGraduate Prize Fellowshipを授与され、ハーバード医科大学CatalystプログラムのAccelerator Grantにも採択されました。また2019年には米国Forbes誌によるヘルスケア分野の「30歳未満の30人(30 Under 30)」に選出されています。研究者として多数の査読付き論文を発表し、自家由来iPS細胞を用いた細胞療法に関する初の包括的レビュー論文の筆頭著者でもあります。
■ セルリノ・バイオテック社について
セルリノ・バイオテック(Cellino Biotech, Inc.)社は米国マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置く先端バイオマニュファクチャリング企業で、患者由来の細胞・組織・臓器のリプレースメントを実現する個別化医療の実用化に取り組んでいます。同社は独自の「光学バイオマニュファクチャリング」技術を開発しており、レーザー光学技術と機械学習・ロボティクスを融合した自律型プラットフォーム「Nebula」によって、高品質な誘導多能性幹細胞(iPS細胞)ベースの細胞治療製品を効率的かつ大量に製造することを可能にしています。セルリノ社のシステムでは、画像解析AIが最良の幹細胞コロニーを識別し、レーザーで不要な細胞のみを正確に除去することで、一細胞レベルで培養を最適化します。このように人手に頼らない自動選別と除去を行うことで、従来は職人芸とされたiPS細胞培養の再現性・効率性を飛躍的に高めています。さらに製造過程を完全に閉鎖系で行うため、従来必要とされたクリーンルーム環境への依存を減らし、汚染リスクを大幅に低減しています。
セルリノ社のこうした革新的プラットフォームは、アメリカ食品医薬品局(FDA)からも高く評価されています。2025年5月には、同社の光学的iPS細胞製造技術がFDAの先進的製造技術(Advanced Manufacturing Technology, AMT)指定を受けました。このAMT指定は、セルリノ社の自動化技術が高品質なiPS細胞をスケールアップして次世代の再生医療を産業化し得る画期的可能性を持つことを示すものです。またAMT指定の取得により、セルリノ社のプラットフォームで製造された治療法はFDA審査過程において優先的なサポートを受けられるようになり、実用化への道筋が加速することになります。セルリノ・バイオテック社は、こうした技術力を背景に他企業との提携も積極的に進めており、自社の自動化プラットフォーム「Nebula」を通じて個別化細胞治療のグローバル展開に貢献しています。
■ 講演概要
本講演では、「自律型バイオ製造」によるiPS細胞ベースの細胞治療の最新動向と今後の展望についてご講演いただきます。iPS細胞由来の細胞療法は、患者本人の細胞から目的の組織を作り出せる再生医療の新たなパラダイムとして期待されていますが、その製造プロセスは非常に複雑で、長らく多大な労力を要する手作業に依存してきました。限られた熟練技術者がコロニーの手作業継代や細胞のピッキングを行う必要があるため、生産規模の拡大が困難で、多くの有望な治療プログラムが初期の臨床試験段階を超えて進展しない要因となってきたのです。マドリッド博士はこれらの課題を解決すべく開発された自動化・標準化されたiPS細胞製造技術について解説します。セルリノ社が開発した画像認識AIとレーザー加工技術を組み合わせた光学的プロセスでは、細胞培養の各ステップにおいて精密さ、再現性、スケーラビリティが飛躍的に向上し、従来にない安定した品質でiPS細胞を製造できることが示されています。講演ではこの最先端プラットフォーム「Nebula」の仕組みと、それがいかに人手を介さない閉ループ自動製造を実現しているかが紹介される予定です。
自律型のiPS細胞製造は、患者ごとにオーダーメイドされる細胞治療を迅速かつ大規模に提供する上で鍵となる技術です。完全に自動化された光学バイオマニュファクチャリングにより、治療用細胞の生産工程が飛躍的に効率化されれば、臨床第1相から商業規模までスムーズにスケールアップできるようになり、従来は治療困難だった慢性変性疾患などに対しても患者自身の細胞を用いた根治的アプローチが現実味を帯びてきます。実際、米国だけでも1億人以上がiPS細胞由来の再生医療から潜在的な恩恵を受け得るとされており、本講演で取り上げる自律型バイオ製造技術の発展は、世界規模で再生医療を次の段階へと押し上げる原動力になると期待されています。最先端テクノロジーによる「生きた薬(Living Medicines)」の実現が目前に迫る中、本講演は再生医療・細胞製造分野の研究者・技術者にとって貴重な知見を得る機会となるでしょう。
■ 開催詳細
日時:2025年8月4日(月) 15:00–16:00 (JST)
会場:神奈川県川崎市 殿町キングスカイフロント(国内外の再生医療・細胞医療研究機関が集積する国際的研究拠点)
形式:対面(イン・パーソン)
対象:再生医療、幹細胞研究、バイオテクノロジー分野の研究者・学生・産業関係者
主催:慶應義塾大学 再生医療リサーチセンター
共催:かながわ再生・細胞医療産業化ネットワーク(RINK)、藤田医科大学 東京先端医療研究センター
後援:神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)
※本講演は慶應義塾大学 再生医療リサーチセンターの主催により、再生・細胞医療産業化ネットワーク(RINK)および藤田医科大学東京先端医療研究センターとの共催で開催されます。最先端のセルエンジニアリング技術にご関心をお持ちの研究者、学生、企業の皆様のご参加を心よりお待ちしております。参加費は無料で、事前登録は不要です。当日は直接会場までお越しください。質問やお問い合わせは下記担当者までお願いいたします。
日時: 2025年08月04日(月)15:00-16:00
川崎市キングスカイフロントマネジメントセンター 会議室
神奈川県川崎市川崎区殿町三丁目25-10
Research Gate Building TONOMACHI 2 (RGB2) 1階
申込締切
対象者
再生医療、幹細胞研究、バイオテクノロジー分野の研究者・学生・産業関係者
参加費
無料
定員
50名程度
主催
慶應義塾大学再生医療リサーチセンター(KRM)
お問い合わせ先
慶應義塾大学再生医療リサーチセンター(KRM)事務局
E-Mail: krm-group@keio.jp