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インタビュー・コラム

MIYAMAN's column vol.30 ここが不思議だ、我が国のバイオベンチャー市場(13)

ここが不思議だ、我が国のバイオ・ベンチャー市場(13)
官製ベンチャー・エコシステム創製を阻むもの

 イノベーションという言葉は、当時のオーストリア・ハンガリー帝国の経済学者ヨーゼフ・シュンペータによって20世紀初頭に提唱されました。14世紀のラテン語に語源を置く、この言葉は今ではすっかり日本語にもなり、各省庁も新年度の予算の目玉としていろいろな接頭語を付けて喧伝しています。しかし、残念なことにどうやら私たちはこの言葉の本質を把握することに失敗したようです。

 「国立がん研究センターなどナショナルセンター発のベンチャーには投資できません」
 一瞬耳を疑うような返答が返ってきました。旧帝大のベンチャー・キャピタル、そしてわが国で最もライフサイエンスの真髄を評価できると評価していたベンチャー・キャピタリストの言葉です。2014年に産業競争力強化法に基づき、大学がベンチャー・キャピタルに投資できる制度が整い、国が率先して、東京大学、京都大学、東北大学、大阪大学に合計1000億円を文通じて出資、民間資金と合わせて、大学発のイノベーションに投資が始まりました。現在では他の国立や私立大学までベンチャー・キャピタルを設立、積極的にアカデミアの研究成果をベンチャー投資によって還元しつつあるのです。最初は自らの大学の発明に出資限定されていましたが、やがて共同研究や他の大学の発明にも出資できるように規制緩和が進んできました。わが国の知恵を知財に、そして経済発展につなげる仕組みが成長してきたのです。

 てっきり、厚労省系列の発明に基づいたベンチャー企業への出資も検討していただけると思い申し入れた結果、制度的な壁にぶち当たったのです。まだ、省庁の壁を越えてイノベーションを起こす仕組みは、わが国には存在していませんでした。

 当事者たちは当たり前のようにけろりとしていますが、そもそも発明に文科省発も厚労省発もある訳はありません。ベンチャー・キャピタルが投資する対象は、世界と競争し勝ち抜く可能性がある発明であり、所属機関に忖度する必要は一切ないのです。シュンペンターは「イノベーションは今まで試みられなかった新結合によって誕生する」と喝破しています。文科省傘下の大学だけ、厚労省傘下の研究機関だけなど投資先に制約をかける制度は、イノベーションを阻害する仕組みそのものに他ならないのです。

 奈良時代の太政官制度を明治新政府が復活、150年間以上ほぼ変えずに来ました。既得権に踏み込めない政治の無能と国民の怠惰がイノベーションの開花を阻んでいます。まずこのエコシステムを打破せずにはわが国のバイオ産業は生き残れないのです。
 

miyaman_new_.png宮田 満 氏 
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に 日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バ イオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長 に就任し、2015年に株式会社宮田総研を設立、新Mmの憂 鬱などメディア活動を開始。2017年、株式会社ヘルスケアイノベーションを設立、2020年6月よりバイオ・先端医療関 連のベンチャー企業に投資を開始した。厚生労働省厚生科 学審議会、文部科学省科学技術・学術審議会、生物系特定 産業技術研究支援センターなど、様々な公的活動に従事。

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