世界は激動しているのに、硬直的な東証の上場日設定
今年3社目のバイオ・ベンチャーの東京証券取引所グロース市場への上場が2024年6月14日に成し遂げられた。武田薬品からスピンアウトしたChordia Therapeuticsである。 公開価格は153円だったが初値は255円まで上昇した。その後257円をピークに株価が下落、終値は192円だった。7月2日は私のベンチャー・キャピタルの1号ファンドで投資したPrism BioLabが上場を予定しており、同月もう一社の バイオ・ベンチャーが上場すべく、準備を進めている。過去最多のバイオ企業の上場数は2011年と2013年の5社であるから、今年はわずか半年でその数字に達することになる。株価の大暴落など不足の事態が起こらなければ、2024年は過 去最多のバイオ企業が上場するバイオ・ベンチャー上場ブー ムとなるだろう。
実はChordia社は昨年9月15日に上場予定だったが、 投資家の理解を得られず売り出し価格が見込みより低く設定 せざるを得なかったために、上場中止を発表していた。同社 は同年8月10日、東証から上場承認を得ていたが、この結果 を受けて、東証は上場承認を取り下げたのだ。Chordiaは その後、10か月を経て再上場を果たした。その間、CMOの 人事や開発中のフラッグシップ・パイプラインであるCLK阻 害剤の学会発表などがあったが、企業価値が著しく増大する イベントはなかったように見える。同社がIPOに成功した原 因は、株式市場の活況とバイオ・ベンチャー上場ブームに あるとしか思えない。実際、日経平均は2023年8月から今 月までに6500円以上も増加、一方グロース250指数は 100以上低下したが、バイオ・ベンチャーの上場数は勢い を見せた。
状況が好転することを受けてChordiaの決算期を跨がず、 上場をもっと早くできたのではないかと考える。遅れた原因 は東証が一度上場承認を取り下げたら、再び上場審査を行う という硬直的な運用をしているためだ。米国NASDAQのよ うに上場届け出後、1年間は状況を測って最も資金調達可能 なタイミングを選択できるように柔軟な運用をすべきではな いだろうか?
日米の株式市場は沸騰しているが、米国大統領選挙には暴 落のリスクも噂されている。激動する上場環境にバイオ・ベン チャーが対応するために、規制緩和が必要なのである。
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に 日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バ イオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長 に就任し、2015年に株式会社宮田総研を設立、新Mmの憂 鬱などメディア活動を開始。2017年、株式会社ヘルスケアイ ノベーションを設立、2020年6月よりバイオ・先端医療関 連のベンチャー企業に投資を開始した。厚生労働省厚生科 学審議会、文部科学省科学技術・学術審議会、生物系特定 産業技術研究支援センターなど、様々な公的活動に従事。