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インタビュー・コラム

MIYAMAN's column vol.23 ここが不思議だ、我が国のバイオ・ベンチャー市場(6) 監査法人の人手不足が足を引っ張るIPO

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ここが不思議だ、我が国のバイオ・ベンチャー市場(6)
監査法人の人手不足が足を引っ張るIPO

 最近、バイオ・ベンチャー企業が監査法人の監査を受けられなくて、上場できないという事例によく直面するようになった。中でも4大監査法人と呼ばれる大手監査法人に上場を目指すベンチャー企業が監査を受けることが至難の業となりつつある。今まで上場企業の監査は4大監査法人が担当することが多かったから、蓄積したIPOまでの監査の経験をバイオ・ベンチャーに活かすことが難しい断絶ができつつある。その背景には、度重なる不正会計などの金融スキャンダルによって、監査法人の業務が会計監査だけでなく企業のガバナンスの監査など業務が大幅に拡大する一方、会計士の数が制約されている結果生じている深刻な人手不足がある。膨大な業務をこなすため長時間残業は当たり前である。しかし、これは会計士の特権を守るため、会計士の資格取得者数を絞っているという背景があり、自縄自縛の姿である。自分たちの生活の質を上げるためにも、もうそろそろ会計士の数を増やす規制緩和を検討すべきであろう。上場に際して、株主に公明正大な情報を提供し、健全な経営を行っていることを担保する会計監査は確かに重要だ。しかし、監査法人の人手不足でバイオ・ベンチャーの成長にブレーキがかかるというのは本末転倒である。

 もう一つ4大監査法人の問題は、現場と本部の判断のねじれ状態である。現場はバイオ・ベンチャーの経営内容や経営者を熟知しているため、上場を支援する攻めの報告を出そうとするが、本部の保守的な判断によって監査報告が萎縮したり、酷い場合は監査報告が出せないといったりする悲劇的な結果に終わることもある。これは組織が肥大化して、リスクをなるべく取らない後ろ向きの組織風土が醸成されているためだ。リスクを取ってイノベーションを起こそうというベンチャーを監査するなら、監査法人も勉強して、妥当なリスクを算定できる能力を培わなくてはならない。特に、米国のNASDAQに上場を目指すベンチャーを支援できる会計事務所は我が国にほぼ1社しか存在しない惨状がバイオ・ベンチャーの海外雄飛の頸木となっている。人手不足にかこつけて、新技術、新製品、新規ビジネスモデルなどの理解を放棄、従来業務をこなすことに汲々としているだけなら、近い将来、我が国の監査法人がクラウド上のAIに取って代わられることは避けられないだろう。

miyata.png 宮田 満 氏
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に 日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バ イオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長 に就任し、2015年に株式会社宮田総研を設立、新Mmの憂 鬱などメディア活動を開始。2017年、株式会社ヘルスケアイ ノベーションを設立、2020年6月よりバイオ・先端医療関 連のベンチャー企業に投資を開始した。厚生労働省厚生科 学審議会、文部科学省科学技術・学術審議会、生物系特定 産業技術研究支援センターなど、様々な公的活動に従事。

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