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インタビュー・コラム

MIYAMAN's column vol.25 ここが不思議だ、我が国のバイオベンチャー市場(8)

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ここが不思議だ、我が国のバイオ・ベンチャー市場(8)
ベンチャーを破綻に追い込みかねないAMED CiCLE事業

 これは日本の文化なのか?
 建前と現実が余りに異なっている。そしてそのギャップが、政府がスタートアップ振興を謳いながら、まさにバイオベンチャーの成長を阻害するばかりか、冷酷にも息の根を止める。そんな愚行をAMED(日本医療研究開発機構)が行っていることが分かった。このようなことが続くようでは、自民党内や財界でくすぶっているAMEDの抜本的制度見直しも止むを得ないだろう。

 問題の事業は医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)である。2017年度から開始された制度で、大手製薬企業とバイオベンチャーに、創薬研究に対する資金を67件供給している。AMEDは2017年度に拠出を決めた初回の予算をホームページ上で公開していないため、1件当たりの平均拠出額から推計すると、現在までに1153億円もの資金投入が創薬や医療機器の開発に約束されている。ドラッグロスや新型コロナで馬脚を現した我が国の創薬力の低下を補う貴重な資金であることは間違いない。しかし問題は建前と現実のギャップである。何故、財務省がこんな大判振る舞いを許したのか、その理由はこの資金は投資ではなく、単なる融資であるためだ。申請した企業が持つ特許を担保に資金を供給し、新薬創製に成功した場合は特許使用料として売り上げの3%を15年間支払う。だが、新薬開発の成功確率は財務省が思っているほど高くなく、17件が既に中止認定されている。中止課題の内、大手企業は13件、バイオベンチャーは4件にとどまる。

一見バイオベンチャーが健闘しているようにみえるが、そこには地獄がある。中止課題のほとんどは自社都合による中止とAMEDが認定するため、受領した研究資金の全額を数か月以内に取り立てられる。しかし、収益力があり節税効果もある大手企業とは異なり、バイオ企業にとって数億円から数10億円の返済を求められることは、倒産を意味する。実際、少なくとも1社以上が会社清算の検討に入っている。バイオベンチャーは中止したくてもできないのが現状なのだ。実はAMEDは未達という認定も用意している。この場合、特許は返還されないが研究費の10分の1の返却ですむはずだ。が、その適用は未だないし、AMEDの関係者もそれはほぼないと認めている。建前そのものなのである。

 CiCLEは単なる融資事業で返済免除はないと、その正体を明らかにすべきだ。そして、一刻も早く真のバイオベンチャー振興のためのリスクマネーの供給事業(政府による投資)を始めるべきである。減税論議も然り、政府の欺瞞に国民の心が離れつつあることこそ、財務省は気付かなくてはならない。

miyata.png 宮田 満 氏
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に 日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バ イオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長 に就任し、2015年に株式会社宮田総研を設立、新Mmの憂 鬱などメディア活動を開始。2017年、株式会社ヘルスケアイ ノベーションを設立、2020年6月よりバイオ・先端医療関 連のベンチャー企業に投資を開始した。厚生労働省厚生科 学審議会、文部科学省科学技術・学術審議会、生物系特定 産業技術研究支援センターなど、様々な公的活動に従事。

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