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インタビュー・コラム

世界のライフサイエンス・エコシステムを歩く――欧州のライフサイエンス・エコシステムの魅力とは?(後編)

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Ikuo Hayashi

前回の記事で、ミュンヘンでのBIO Europe参加とJapan Night開催について話しましたが、私たちはその後、ドイツから英国・ロンドンへと移動し、当地のエコシステムの現状について伺ってきました。

英国のライフサイエンス・エコシステム

英国内の主要なバイオクラスターとしては、いわゆるゴールデントライアングルとして、ロンドン、ケンブリッジ、オックスフォードが知られています。後述するように、これらのバイオクラスターでは核となる大学から生まれたイノベーションを社会実装する仕組みが整えられています。

英国のエコシステム発展の歴史を紐解くと、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学など研究レベルの優れた大学から、スタートアップあるいは起業家の輩出へとすぐに結びついたわけではありませんでした。まずはケンブリッジ郊外にBabraham Campus、オックスフォード郊外にHarwell Campusのような広大なイノベーション/インキュベーション施設が設立され、大学からのスピンアウトの受け皿の充実が図られました。Babraham Campusには現在約40社のスタートアップ企業が集積しており、創業間もない企業が入居するスタートアップ区画と、成長期にある企業が入居するスケールアップ区画が用意されています。

また、Harwell Campusには4つのコア領域(Health、Energy、Aerospace、Quantum)で事業を行う企業が集積しており、異なる領域の研究者が一箇所に集まることによるシナジーを期待した設計がなされています。大学における発明(=インベンション)から社会実装可能なイノベーションへつなげていくためには、スケールアップを可能にする物理的な設備・施設が必要であることを改めて感じました。

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こうした取り組みによって、大学からスピンアウトしてスタートアップを増やす環境を整えたわけですが、それに加えて、英国およびアメリカの大学連合(TenU)が起業するためのノウハウを記載したガイドブックを発行し、標準化した知識・ノウハウの普及に努めていることもエコシステムの発展を後押しする要因となっています(The USIT Guide: Leading Universities and Investors Launch Set of Recommendations for the Innovation Sector -- TenU (ten-u.org))。

また、イノベーションの継続的な創出と発展のためには、大学・アカデミアに加えて、大手企業や研究所のような核となる施設が集積し、関連するプレイヤーが自然と集まってくるような環境整備も重要な要素となります。代表的な例はボストンですが、ロンドンのキングスクロス地区にも2016年にフランシス・クリック研究所(Francis Crick Institute)が開設されたことで、オープンイノベーションのポテンシャルが高まりました。

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英国のエコシステムの課題について

ここまで読むと英国のエコシステムはバラ色の発展を遂げているように思えますが、現地の声を聴くと様々な課題があるようです。まず、世界各地のエコシステムの成熟度についてはアメリカ、英国、EU/日本の順でそれぞれの間に5~10年くらいの開きがあるというのが現地での認識で、欧州圏においては英国が最も投資資金やタレントを集めているものの、英国もまたアメリカの背中を追っているという状況のようです。

より具体的な課題として、「Brexitによる欧州との隔たり」と「スタートアップのビジネスモデル」についての意見が聞かれました。
前者については、EU圏から英国が離脱した結果、英国法人のスタートアップがEU圏に進出するにあたって新たにEU法人を設立する必要があり、手続き上の負担となっていること、さらには欧州から英国への投資が細くなった結果、アメリカからの投資への依存度が高まり(それ自体はネガティブなことではありませんが)英国スタートアップへの投資がアメリカ経済の動向に大きく左右されるようになったこと、が挙げられます。

後者については、日本でもよく耳にする話題ではありますが、「PlatformモデルかDiscoveryモデルか」という議論があるようです。あくまでも全体の傾向ではありますが、アメリカの投資家は技術のバリデーションからdevelopment/commercializationまでの資金を一度に投入するため、基幹技術の研究に集中できるDiscoveryモデルが機能するが、英国の投資家はそれぞれのステップを踏むことを好むため、利益を上げつつ技術のバリデーションをする必要があり、Discoveryモデルの難易度が高くなってしまっているとのことです。

日本のエコシステムが参考とすべき点

さて、日本のエコシステムが英国の事例から参考にできることは何でしょうか。上述のように、英国は日本と同様の課題を抱えつつ、日本よりも先を進んでいるため、多くの点で参考になるのではと思います。例えば、前述した大学からのスピンアウトに関するガイドラインもその一つです。主要な大学やアカデミアが中心となってイノベーションを生み出そうとする姿勢やアカデミア発のイノベーションについての課題意識は日本のエコシステムと類似するところがあります。日本では各大学に産学連携部門やTLOが整備されているものの、各大学が有するシーズを(手軽に一括で)一覧できる仕組みや標準化された契約手順がないため、効率的なシーズマッチングができていないのが現状です。方法論やナレッジの共有ができる一つのプラットフォームがあると、アライアンス促進やスタートアップ創出の一助になるのではないでしょうか。

欧州を含めた海外から日本に注がれている目線は熱く、研究や技術の質の高さにはいまだに大きな期待が寄せられています。そうした期待に応えるために、LINK-Jは日本のスタートアップをはじめ、多くのプレイヤーをつないでいきたいと考えています。そうした取り組みの一環として、今年(2024年)LINK-Jは新たなスタートアップ支援プログラムとして『UNIKORN』を始動します。『UNIKORN』はライフサイエンス分野で事業をしているスタートアップ企業の英国進出をサポートします(詳細はこちら)。最大8社のスタートアップを対象に、現地のメンターとのメンタリングやレクチャー、英国現地での様々な機会を用意したプログラムとなっています。

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アメリカは最も大きな市場であり、特にライフサイエンス系スタートアップ企業にとっての最終的なゴールであることは間違いないでしょう。「UNIKORN」では、アメリカを最終ゴールに見据えた際の一つのオプションとして、英国をエントリーポイントとすることをご提案します。英国は地理的に開かれている場所であり、そこから多くのマーケットへの展開が可能です。まずは、UNIKORNに応募していただいて、英国から拡がるビジネスの可能性を感じて頂ければ幸いです。

世界のライフサイエンス・エコシステムを歩く――欧州のライフサイエンス・エコシステムの魅力とは?(前編)

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