なぜ米NASDAQより東証グロースの方が利上げのダメージが大きいの?
2022年6月15日、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は大方の予想を裏切り、政策金利を0.75%と通常の3倍もの利上げを決定しました。年末の想定金利も中央値で3.4%と、3月のFRBの決定より1.5%も高めに設定しました。40年振りに米国消費者物価指数が8.6%と高水準を示したため、景気よりインフレを抑制することを優先した判断です。これを受けて日米の株式市場は大荒れとなりました。
バイオ・ベンチャーの価値は将来価値です。決して現在の収益ではなく、数年後から10年後の未来の収益に投資家は投資します。将来価値を上場株価という現在価値に転換するために、政策金利による割引が行われます。つまり、政策金利の上昇は、将来価値の大幅な減価になるのです。ベンチャーが上場する新興市場(米NASDAQ、我が国では東証グロース)の株価は、金利に敏感に反応します。実際、NASDAQ100指数は2021年11月19日のピークから2022年6月17日までで32%も下落しました。では我が国のグロース指数はどうか?実は東証が改革を行い、従来のベンチャー市場、マザーズをグロースに模様替えしました。今回は比較が難しいため、Kabutanが計算しているマザーズ指数を援用すると、マザーズ指数は2021年11月16日のピークから2022年6月17日までに、実に48%も下落しました。
日本銀行はこの期間、一回も政策金利を上げていません。6月17日の金融政策決定会合でも利上げしないことを決定したにも関わらず、です。この株価暴落の差は日米の新興市場を支える投資家の差です。NASDAQでは機関投資家が振興市場の主役であり、短期の売買より長期保有によるキャピタル・ゲインを狙います。一方、東証グロースでは個人投資家が主役であり、短期の売買による差益を狙います。つまり我が国にはバイオ・ベンチャーを育てる我慢強く賢い資金の出し手を欠くため、底が抜けたような暴落が起こるのです。東証グロースに世界的にも潤沢な我が国の機関投資家の資金投入無くしては、長期かつ持続的資金調達が必要なバイオ・ベンチャーの成長は覚束ないでしょう。
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に 日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バ イオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長 に就任し、2015年に株式会社宮田総研を設立、新Mmの憂 鬱などメディア活動を開始。2017年、株式会社ヘルスケアイ ノベーションを設立、2020年6月よりバイオ・先端医療関 連のベンチャー企業に投資を開始した。厚生労働省厚生科 学審議会、文部科学省科学技術・学術審議会、生物系特定 産業技術研究支援センターなど、様々な公的活動に従事。