Menu

インタビュー・コラム

MIYAMAN's column vol.22 ここが不思議だ、我が国のバイオ・ベンチャー市場(5) 実態から乖離する創薬Vエコシステム

  • twitter
  • Facebook
  • LINE
ここが不思議だ、我が国のバイオ・ベンチャー市場(5)
実態から乖離する創薬Vエコシステム

 経産省が鳴り物入りで500億円もの予算を確保したAMEDの「創 薬ベンチャーエコシステム強化事業(創薬ベンチャー公募)」の公募 が、2022年8月5日から始まりました。これは岸田政権が力を入れ始めた、ベンチャー企業の振興策の大きな一歩です。やっと我が国の政府も、大手企業依存から、技術革新のエンジンであるベンチャー企業の支援に舵を少し切り始めました。ベンチャー支援こそ、今まで護送船団方式、大企業偏重の産業政策で戦後急成長し、そのシステムの綻びによって 過去30年間、経済成長が止まってしまった我が国の停滞を打破する重要な一手であることは間違いありません。

 しかし、今回の創薬ベンチャー公募内容を見ると、その内容は " 畳の上の水練" の審査にとどまるのではないか?実態から乖離した公募要領が目につき、結局、我が国の創薬ベンチャーの支援は画餅に終わる可能性があるのです。中でもリード・ベンチャー・キャピタル(VC)について、10億円以上出資するベンチャー企業のみが応募できる規定がネックとなっています。今回の公募内容では、補助金に応募する企業が少なく、ひょっとしたら海外ベンチャーの日本法人の創薬支援に終わるのではないかという国の思惑に反する観測すら出てい ます。

 というのも、担当の官僚や支援団体はVCなど業界関係者に盛んにヒアリングしましたが、シーズ投資が中心の我が国のVCには創薬支援のハンズオンをした経験が乏しく、実態をつかむことが難しかったのです。VC はポートフォリオ投資によりリスク分散を行うのが常識です。我が国の VCの投資ファンド規模では、1社に対して一度に10億円以上投資を約束する事案はなかなか社内の稟議が通りません。一方、創薬エコシステムの予算は、新型コロナ流行を背景にワクチンや治療薬の開発基盤を作ると財務省を説得した手前、相当な資金が必要な医薬品開発プロセ スの早期第II相試験(PhaseⅡa)、つまり薬効と安全性の確認(POC) 取得までの支援が至上命題とされました。ここにVCの最低投資が10 億円と設定した苦しい事情があったのです。来年度の公募では、この矛盾を解決する妙案をAMEDが打ち出すことを心から期待しています。

miyata.png 宮田 満 氏
東京大学理学系大学院植物学修士課程修了後、1979年に 日本経済新聞社入社。日経メディカル編集部を経て、日経バ イオテク創刊に携わる。1985年に日経バイオテク編集長 に就任し、2015年に株式会社宮田総研を設立、新Mmの憂 鬱などメディア活動を開始。2017年、株式会社ヘルスケアイ ノベーションを設立、2020年6月よりバイオ・先端医療関 連のベンチャー企業に投資を開始した。厚生労働省厚生科 学審議会、文部科学省科学技術・学術審議会、生物系特定 産業技術研究支援センターなど、様々な公的活動に従事。

pagetop