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インタビュー・コラム

データ解析から有用な酵素を掘り起こしてデザインする 株式会社digzyme

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株式会社digzyme(ディグザイム)は、バイオインフォマティクス(生命科学と情報工学の融合分野)を用いて、産業用途に適した「酵素」を効率的に設計し、かつ速やかに大量生産まで繋げる技術開発を目指して誕生した、東京工業大学発のスタートアップです。今回は渡来直生氏(Co-founder、代表取締役CEO)と和泉賢氏(執行役員COO)のお二人に、同社誕生の経緯から現在挑戦中の取り組みについてお聞きしました。

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生命を解明するだけでなく、イノベーションを起こしたい

――まずはご自身の経歴と起業された経緯について教えてください

渡来 東工大学の博士課程3年の時に創業しました。大学では山田拓司研究室に所属していたのですが、山田先生ご自身もスタートアップを一から立ち上げられており、研究室では先進的な試みをすることが多く、新しいことを始めるということには比較的慣れていました。ディグザイムは共同創業した中村という同期(現CTO)の研究テーマを事業化したものですが、学生の頃から酵素の開発や探索は社会実装が近いと感じていました。
学問としては理学に興味がありますが、工学的な仕事をしたい気持ちがあり、iGEM(合成生物学のロボコン)に挑戦して金賞をもらったこともあります。データ解析で生命を解明するだけでなく、社会を変えるイノベーションを起こしたいとずっと考えていたので、博士課程で次のキャリアを考えたときに、「起業」という選択肢は自然にでてきました。
スタートしてからは、中村と最初の半年くらいずっと二人で土日を使って基盤技術を開発していました。

和泉 大学は材料科学が専門で、卒業後に株式会社リコーで研究開発職を担当していました。有機材料、プロセス開発、流体力学などの研究に携わっていました。最終的には技術系として分子生物学のある製品を上市まで持って行った経験があります。分野を問わず新規事業立案の部署に移籍し、以前から「自分でも何か新しいことをしたい」「スタートアップの事業に挑戦してみたい」という気持ちがありました。渡来さんとは何度か話をさせてもらい、「酵素で社会実装する」という事業に興味を持ちまして、ジョインしました。

オープンデータの中から必要な酵素を探索して最適化

――御社の事業内容についてお伺いします

渡来 当社の事業は「酵素開発」です。具体的には、世の中に眠る膨大な量の生命科学に関する研究データを読み解き、顧客が必要とする産業用酵素を、効率的かつ迅速にデザインするというサービスを提供します。会社名は、英語の「dig(掘る)」と「-zyme(酵素を示す接尾語)」の組み合わせです。現在は、オープンデータの中から有望な酵素の候補を探し出し、それをブラッシュアップして、利用目的に合致する形に再設計したら、実際に合成して活性や生産性や安定性を検証し、量産までの道筋を確立するという事業に挑戦しています。他にも酵素開発コンサルティング業務を対応しています。

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渡来 直生 氏(株式会社digzyme Co-founder、代表取締役CEO)

和泉 ただし、実際の生産プラントを自社で保有する予定はありません。当社の事業スタイルはファブレス(生産設備を持たず、外注先に製造委託するビジネスモデル)です。したがって「優れた酵素を量産するシステムの構築」までが我々の役割になります。

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和泉 賢 氏(株式会社digzyme 執行役員COO)

――貴社の事業の独自性についてお聞かせください。

渡来 当社の独自性は「オープンデータを活用して、必要な酵素をインシリコで効率的にデザインする」点にあります。生命科学に関する様々な研究データは、日々世界中で収集・蓄積されています。わたし自身、博士時代は麹カビに関する研究で大量のゲノムデータを採取、アップロードしていた経験から、日々蓄積される大量のデータを有効活用する方法はないのだろうか?と常々考えていました。この膨大なデータの中に多くの有用なデータが存在し、産業に活用できる酵素が複数あります。医療、食品、化学の分野で使われている酵素をスクリーニングして量産化する、これを一貫して提供するサービスを我提供したいと考えています。

――未知の酵素についても対象になるのでしょうか?

渡来 そこがまさに我々のコア技術です。「digzyme Moonlight」(目的の化合物に対してそのバイオ合成経路や必要となる酵素反応の探索を行うバイオプロセスデザインの統合開発プラットフォーム)と命名していますが様々な解析を含むひとつのパッケージになっています。元々はバイオインフォマティクスという学術領域から生まれたもので、その技術はケモインフォマティクスとかタンパク質の情報をシミュレーションする物理学など様々な学問領域の統合解析をしています。

――事業の課題と感じていることについて

渡来 そもそも「酵素」とはどういうものか、知っているようで、意外と知られていません。酵素を一言で説明すると「触媒として機能するタンパク質」ですが、実際は今まで知らなかった多様な触媒機能を有しています。我々が発見した「樹脂を分解する酵素」も、元データを見ても、どこにもそんな機能は書いていませんでしたが、挑戦してみたら成功しました。そういう事例は沢山あります。酵素が持つ可能性を、もっと知ってもらうことが鍵ですね。

和泉 実際に話してみると「酵素で何ができるのかわからない」というお客様も多いですね。特にこれまで酵素とは無縁だった業界ほど、そういう傾向があります。一方で世界的に見ると、産業用酵素の需要は非常に大きく、酵素業界は圧倒的に売り手市場。世界的な業界最大手は、日本の酵素関連企業の売上高を全て足しても敵わないほどです。将来的には、我々は日本を代表する存在になりたいですね。

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酵素の機能実証をするためにラボを利用

――三井リンクラボ葛西に入居されました

渡来 起業した当初は、東京工業大学の共同利用室で研究していたのですが、研究が進むにつれて自前のラボを持つ必要性が出てきたことから、ラボやオフィスを探しているうちに、三井リンクラボ葛西にたどり着きました。入居の決め手となったのは、賃料と面積ですね。ラボ内の通信環境も整備されているし、建屋の構造もしっかりしている。そこは通常のオフィスビルとは全く異なるという印象です。

渡来 「実際にモノを見てみたい」という要望も多く、三井リンクラボ葛西までご案内するのですが、誰もが「とても立派な施設ですね」と驚いてくれます。バイオインフォマティクスという事業の特性上、メイン作業はスパコンで行うのですが、コンピュータの画面を見ても、外部の方はなかなか理解できません。だから、ラボに招待して実際の培養工程などを見学してもらうことも大切なのです。今後も積極的に見学客を招待したいですね。

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新規酵素の幅広い可能性に挑戦する

――今後の目標や展望をお聞かせください。

渡来 酵素の開発では、酵素自体が優れた機能を有しているだけでなく、効率的かつ低コストで生産できること、大量生産でも研究室の試作品と同等の品質や安定性を確保できることも重要です。その確認のためには、実際に何度も試作を繰り返す必要があります。そこで今後は、リッターサイズの中規模生産設備を葛西ラボに導入することで、量産時における安定性の検証まで、自社ラボで一気通貫に検証できる体制を立ち上げる予定です。

最終的には「オープンデータから有効な酵素を作り上げて、製品として上市する」その最初の1例を、何としても達成したいですね。実は世界的に見ても、精密発酵(特定遺伝子を導入した微生物の発酵を利用して目的の物質を作成する技術)に成功している会社は、ほとんどないのが現状です。当社の技術でこれを成功させて、リーダーシップを握ることで、いずれ将来的には「酵素といえばディグザイムだね」といわれる会社になりたいですね。

和泉 最近は、これまで酵素を利用してこなかった産業界でも、酵素の役割が注目され始めています。たとえば、化学業界ではプラスチックなどの石油由来製品を分解する酵素を求める動きが高まっています。こうしたトレンドについては、当社も積極的に挑戦するつもりです。一方で、食品や洗剤など、以前から酵素を利用している業界でも、当社の技術で新たな価値を生み出す余地は十分あると考えています。そこで当社としては、いまはまだ特定の産業領域は定めずに、酵素の持つ可能性を幅広く追求していくつもりです。

watarai.png渡来 直生 氏(株式会社digzyme Co-founder、代表取締役CEO)
東京工業大学在学中に株式会社digzymeを共同創業し、代表取締役CEOに着任。
博士課程卒業。

izumi.png和泉 賢 氏(株式会社digzyme 執行役員COO)
東京工業大学 総合理工学研究科 修士課程卒業後、株式会社リコー・合同会社テックアクセルベンチャーズにて技術開発・事業開発を経験後、株式会社digzyme 執行役員COOに着任。

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