イベントレポート

LINK-Jシンポジウム「創薬のフロンティア2026」を開催(7/3)

LINK-Jシンポジウム「創薬のフロンティア2026」を開催!
最新の睡眠研究から薬剤モダリティまで多岐にわたる話題を提供

2026年7月3日(金)13:00-18:30(17:30-18:30 ネットワーキング)
室町三井ホール&カンファレンス(オンライン同時配信)

いま最もホットな創薬領域やモダリティについて、産学を代表する研究者や企業家の皆様にご登壇いただき、最新情報を共有する「創薬のフロンティア」。6回目となる今回は、世界を代表する睡眠研究者・柳沢正史先生の基調講演を皮切りに、標的タンパク質分解薬剤、細胞医薬品、ペプチド模倣低分子化合物、がん放射性治療薬、ゲノム編集による遺伝子治療の開発状況まで、多岐にわたるテーマで講演およびディカッションが行われました。そのすべてをご紹介するにはページが足りないので、本稿では特に、本シンポジウムのメインテーマである「創薬」を中心に講演の一端を紹介します。
当日は、会場・オンラインを合わせて約480名の皆様に参加頂きました。

開会挨拶  


岡野 栄之 氏
LINK-J理事長/慶應義塾大学再生医療リサーチセンター・センター長/慶應義塾大学教授

岡野先生が理事長を務めるLINK-Jは、今年で創立10周年を迎えました。この間、ライフサイエンス領域で活躍する多様なプレイヤーが一堂に会する「コミュニティ」の役割を通じて、新たなイノベーションの創出とエコシステムの構築に挑戦してきました。さらに、東京・日本橋を中心に、誰もが気軽に参加できる様々なイベントや講演会などを多数、企画運営してきました。こうした様々な活動が評価され、いまや特別会員の数は1千を超えます。岡野先生は「ここに来たら新しい人と会える/ここに来たら新しい知見を得られる」という場所を今後も提供していきたいと述べました。

基調講演 睡眠の謎に挑む:原理の追求から社会実装研究まで

柳沢 正史 氏
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)・機構長/教授

基調講演では、睡眠科学の第一人者・柳沢正史先生にご登壇頂きました。柳沢先生は、前半部で「睡眠という現象が必要な理由」「睡眠障害がもたらす疾患リスク」「睡眠リズムの変動」など、睡眠科学の基本情報を解説。さらに柳沢先生らが世界で最初に発見した、睡眠と覚醒を制御する神経伝達物質「オレキシン」に関する研究と医療応用の可能性を紹介しました。オレキシンを標的とした医薬品は、現在は拮抗薬と作動薬が開発されており、前者はすでに不眠症の治療薬として実用化されており、後者も中枢性過眠症ナルコレプシーを適応症として、いよいよ承認間近(ご講演時)の段階に来ています。

後半では、柳沢先生らが起業した「簡易在宅睡眠脳波測定による脳波測定サービス」も紹介されました。顎の骨格が狭いことや肥満などが原因で生じる睡眠時無呼吸症候群の国内患者数は、約2千万人に上ると推定されています。一方で、同症候群の重症度診断に用いる「終夜睡眠ポリグラフ検査」は、年間5万件程度しか実施されていません。このギャップに着目した柳沢先生らは、シール型印刷電極を用いた在宅睡眠脳波測定装置を開発した上で、これを用いて「睡眠の質」測定サービスを提供するスタートアップを起業しました。興味深いことに「自分は十分良質な睡眠を取れている」と思う人のうち、約4割に睡眠時無呼吸が確認されました。柳沢先生は「本人が自覚している睡眠の質はあてにならない」と指摘した上で「睡眠は悩むより測ろう」という同社のフレーズを紹介しました。

次世代創薬モダリティとしての標的タンパク質分解(TPD):Astellasの戦略と臨床展開


坂田 千夏 氏
アステラス製薬株式会社 オンコロジーリサーチ長/博士(薬学)MBA

がん領域を担当する坂田氏は、革新的な創薬技術「標的タンパク質分解誘導薬」を紹介しました。従来の分子標的薬が、標的タンパク質に選択的に可逆あるいは不可逆結合して活性を阻害することで効果を発揮するのに対して、同技術は標的タンパク質を分解誘導することで効果を発揮します。同社はこの技術を用いて、従来は創薬困難とされる標的に挑戦しており、実際に膵がんや非小細胞肺がんに好発する遺伝子変異「KRAS G12D」を標的とした新薬開発も進行中です。臨床試験では高い抗腫瘍活性が確認されており、現在は膵がんを対象に第Ⅲ相試験が進行中です。さらにこの成功を踏み台に、複数のKRAS変異を分解誘導できる「pan-KRAS分解誘導薬」の開発にも着手しています。坂田氏は、今後の展望として「次世代の標的タンパク質分解誘導プラットフォームに発展させていくことで、より多くの患者さんに価値を届けることを目指したい」と述べました。

iPS細胞を用いた再生医療-未来への挑戦


池田 篤史 氏
住友ファーマ株式会社 理事 再生・細胞医薬推進室担当/株式会社RACTHERA 代表取締役社長 

ラクセラは、再生細胞医薬の研究開発を目的に、住友化学株式会社と住友ファーマ株式会社が設立した合弁会社です。今年3月にはドパミン神経前駆細胞を用いた再生医療等製品「アムシェプリ」の国内薬事承認(条件及び期限付承認)を取得しています。これは、iPS細胞由来の細胞製品として世界初の承認となりました。細胞製品は他の医薬品と異なり、製品を製造すれば完了ではありません。冷凍保存ができないケースでは、工場から医療機関まで迅速に輸送する必要があり、サプライチェーンを構築してきました。米国での治験では、製造施設のある大阪から治験施設のある米国までの輸送路の検証作業を何度も重ねており、貸切機を用いた輸送実験も実施しました。とはいえ、輸送路の確保は同社1社で構築できるものではなく、物流会社など多業種との連携が不可欠です。池田氏は「この連携の輪に参画するすべての企業に収益が行きわたる構図でなければ、再生医療は「産業」にはなり得ない」と指摘。その上で「産生医療の産業化」にも強い期待を述べました。

ペプチド模倣低分子のPepMetics®化合物による、あたらしい創薬の可能性


竹原 大 氏
株式会社PRISM BioLab 代表取締役 

PRISM BioLabは、「タンパク質間相互作用に介入できる低分子化合物」という新たな創薬技術に挑戦するバイオテック企業です。細胞内で生じるタンパク質間相互作用が有望な創薬標的であることは、以前から知られていました。しかし、多くのタンパク質の表面はヘリックス構造であり、平坦構造を持つ低分子とは結合性が低く、逆に結合性の高い高分子は細胞膜を透過できないため、現実は「アンドラッガブルな創薬標的」でした。そこで同社は、独自の骨格設計を用いて細胞内のタンパク質間相互作用に介入可能な低分子(ペプチド模倣低分子化合物)を開発。すでに2つの候補物質を外部に導出に成功し、複数の企業との共同研究も進行中です。竹原氏は、創薬のみに留まらず、新たな創薬分野を生み出したいという意気込みを示し、今後は卓越した技術を持つバイオテックとも連携しながら、新たな創薬分野の共創を目指す「コンソーシアム」設立にも挑戦したいと述べました。

64Cu-ATSMによる“見える”がん放射線治療薬の開発


吉井 幸恵 氏
リンクメッド株式会社 代表取締役社長 

リンクメッドが開発に取り組む製品は、銅の放射性同位体(64Cu)を用いた放射性医薬品です。同社の64Cuは、「高い治療効果と安全性の両立が期待できる」「小型のサイクロトロンでも製造できる」「検査と治療を同じ薬剤で実施できる」など様々な利点があります。64Cu-ATSM錯体は血液脳関門を通過することから、脳腫瘍に対する治療効果も期待できます。実際に再発脳腫瘍を対象としたフェイズ1試験では良好な成績が確認され、現在は再発膠芽腫を対象にフェイズ3試験が進行中です。目下の課題は半減期の短さですが、同社はすでに昨年秋に千葉県に自社工場を建設しており、日本国内の距離なら、1日以内に届けられる物流体制を準備中です。吉井氏は「日本発の創薬を世界に届けたいと考えており、今後は現地の施設を用いた64Cu生産も念頭に、ものづくり技術をセットで世界に売り出していきたい」と展望を述べました。

遺伝子治療からゲノム編集へ:先天性肝疾患の根治を目指した次世代治療戦略


大森 司 氏
自治医科大学医学部生化学講座病態生化学部門 教授/自治医科大学遺伝子治療研究センター センター長/自治医科大学分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部 教授(兼任)

大森先生は、自治医科大学で進行中の「遺伝子治療」の開発、及び先天性疾患の根本治療をもたらす基盤技術「ゲノム編集」をテーマに講演を行いました。自治医科大学には「遺伝子治療研究センター」に加え、附属病院に「臨床遺伝子・細胞治療センター」を持ち、基礎研究から臨床応用まで一貫して難治性疾患に対する遺伝子治療に挑戦しています。この日の講演では、小児科が中心として行った遺伝性の神経疾患に対する「アデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療」の成功例が紹介されました。中等症患児の場合、治療前は自力で何とか座位を保持できる状態でしたが、治療後は自転車に乗れるほど運動機能が劇的に改善しました。同じく遺伝性疾患である血友病の遺伝子治療の研究も進行中で、サルを用いた検討では、1回の治療で十年以上は治療効果が継続することが確認されています。講演で大森先生は、アデノ随伴ウイルスを「運び屋」に利用した遺伝子医療の実際と課題、国産小型ゲノム編集ツールの開発、プルーフ・オブ・コンセプトを得る為に利用可能な実験モデルなどを紹介しました。

パネルディスカッション


続いて岡野先生の司会のもと、本日登壇した6名の登壇者が参加し、パネルディスカッションを行いました。ディスカッション前半部は、会場の来場者及びオンライン視聴者から寄せられた質問に登壇者が回答し、後半部では岡野先生および登壇者の皆様の間で熱い議論が展開されました。そのすべてをご紹介できないのは残念ですが、本パートでは特に創薬についてピックアップしました。 

質問:オレキシン受容体作動薬の今後の展望について教えてください。
柳沢先生:オレキシン2受容体(睡眠/覚醒に関与)に対する選択的作動薬は、「ナルコレプシー」に対する承認がほぼ間近です。これを皮切りに、今後は過眠症状を伴う他の疾患にも適応拡大していくでしょう。これに対して、オレキシン1受容体(情動/ストレス反応/報酬系に関与)に対する選択的拮抗薬は、薬物乱用/物質乱用などの依存症に対する効果が期待されており、現在も研究が進んでいます。

質問:自家移植と他家移植は今後どちらが生き残るでしょうか?

池田様:あくまでわたし個人の私見ですが、「両者それぞれに短所/長所がある」と考えます。たとえば、中枢神経系などは免疫拒絶反応が弱い印象があり、これらの疾患領域では他家移植はオプションとして残り続けると考えます。一方で自家移植は、iPS細胞のメリットを最大限活用できる方法なので、安全性や有効性を確認できるスキームさえできれば、今後は拡大していくと予想されます。

質問:海外で汎RAS阻害の新薬開発が進行中です。どう見ていますか?
坂田様:よく聞かれる質問です(笑)。学会報告を見ると膵がんに対して高い治療効果が期待できるらしく、我々も動向を注視しています。ただ、海外企業の候補品は分子接着型阻害薬であり、当社の分解誘導薬とは作用機序が異なります。実は我々も「薬物療法後に生じる治療抵抗性の発現メカニズムは、阻害薬と分解誘導薬で異なるのか?」を検証しています。また結果がわかれば報告致します。

質問:64Cuなら医療機関の自前のサイクロトロンでも製造可能なのでは?
吉井様:実は過去にも「大型病院が自前のサイクロトロンで放射線医薬品を作る」動きがありました。ところが実際は被曝の問題などもあって定着しませんでした。我々も事前に現場の先生たちに聞き取り調査すると「受け取ってすぐ投与できるタイプでないと定着しない」といわれました。そのため我々としては、確実に病院に届けるインフラ整備も含めた形で提供したいと考えています。 

質問:構造が複雑になると分子量も大きくなり、経口投与時の吸収性が障壁になりませんか?
竹原様:たしかに経口薬については「リピンスキーの法則」があり、分子量の上限があります。もっとも我々の経験上、この法則はすべての低分子化合物に該当するわけではなさそうです。「リピンスキーの法則」が誕生した頃は、大半の低分子化合物は平坦構造やロッド構造でした。一方で我々の化合物は球体状に近く、多少分子量が大きくても経口投与には問題がないことを確認しています。 

質問:アデノ随伴ウイルスを運び屋に用いる場合、肝毒性は問題になりませんか?
大森先生:たしかに脊髄性筋萎縮症などに対する、アデノ随伴ウイルスベクターを用いた静脈内投与による遺伝子治療では肝障害が問題視されています。もっとも、これらはアデノ随伴ウイルスベクターが肝臓へ集積しやすく、全身投与による中枢神経や筋肉の遺伝性疾患など、肝以外の遺伝子治療において大量のベクターが必要なことが理由です。そのため、現在は肝臓以外の組織へ効率的に遺伝子を送達するための研究が盛んに行われており、将来的にはこのような改変型ベクターを使用することで投与量を減らし、肝障害を抑制できることが期待されています。

立食懇親会、名刺交換会、LINK-J Meet UPブース 


イベント終了後は、ご登壇者と来場者が一斉に介した、立食スタイルによるネットワーキングを開催。ご講演の内容に関する質問や、事業内容についての打診などで、会話に花を咲かせました。

またネットワーキング会場には、LINK-Jの会員企業と来場者をつなぐ「ミートアップブース」も用意され、新たなパートナーとの出会いを求める来場者と会員企業のブース出展者の間でも、名刺を交換したり、ブースの担当者が説明する事業内容に、熱心に耳を傾ける来場者の姿が見られました。ブース出展者から、新たな商談につながる有意義な機会を得られたとのご報告をいただきました。

ご参加頂いた方からは、「スピーカーの先生方のお話やパネルディスカションも大変勉強になり有意義なひとときでした」、「創薬モダリティの最新動向を幅広く俯瞰できる非常に有意義なシンポジウムでした」、「日本が誇る最新のサイエンスについて、幅広いモダリティの実例も含めてお話を伺えて興味深かったです」といったご感想を頂きました。
当日会場までお越し頂いた皆様、またオンラインにて講演をご視聴頂いた皆様には、心より御礼申し上げます。

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